ーーNo.75 謀略の真実ーー















































ドンにバルボスの最期を伝え報告を終えたは、ユニオンから外に出ると肺が空になるまで息を吐き出した。
時刻は夜も更けてきたという時間帯。
日中の蒸し暑さは成りを潜め、肌をほどよい冷気が取り巻いていく。
今回の仕事は何とも後味の悪い結末で、バルボスから言われた言葉によっても気分が沈む。
そんな気分を吹き飛ばそうと、は両頬をバチンと手の平で叩く。

「っ〜〜〜!よし、切り替え切り替え」
「なーにを切り替えするのよ?」

の独り言に応じたのは、いつの間にか現れたのはレイヴンだった。

「・・・いつも神出鬼没ね。ガスファロストからどこに行ってたのよ?」
「ちょーっと調べものを、ね」
「調べものね・・・それ、本当でしょうね?」

から胡乱気な視線を受けながら歩いてきたレイヴンは、階段の下で足を止め口を尖らせる。

「何よ、ってば俺様を疑っちゃてるわけ?そういう態度じゃ教えてあげないわよ〜」

レイヴンを見下ろす形となっていたは聞かされた言葉に目を見開いた。

「・・・もしかして、何か分かったの?」
「そーいうこと」

片目を瞑って応じるレイヴンに、は自分の鼓動が大きく跳ね上がるのを感じた。
心臓の鼓動がやけに煩く耳に響く。
かすれそうになる声を抑え、はレイヴンに歩み寄った。

「それで、何が分かったの?」
「おっと、その前にもらうものは貰わないと」

階段を下りたはレイヴンの言葉に眉根を寄せる。

「前に報酬払おうとしたら受け取らなかったじゃない。
何で支払えば良いのよ?」
「それはもちろん、のからーー」

その先を言おうとしたレイヴンだったが、のにこやかすぎる微笑みと首筋に当てられた無機物の温度に一気に血の気が下がる。
寒気がするのは夜の冷気だけのせいではないだろう。きっと・・・

「ま、まぁ、冗談はそれくらいにして、だ。
今度、俺様の為に一日空けといてもらえればいいわ」
「?それだけで良いの?」
「それでいいのよ」

ふーん、とは暫くレイヴンの顔を探るように見ていたが、考えるのも時間の無駄だと一つ頷いた。

「分かったわ」
「よっしゃ!じゃあ、早速情報を渡さないとな」

場所を変えたレイヴンとは、細い裏路地へと進んだ。
人気がないことを確認すると、向かい合う形になりレイヴンが口を開いた。

「10年前、帝都で貴族の一家が惨殺された事件。
大々的には賊によるものって言われてたけどね、裏じゃ当時の評議会の一部メンバーが絡んでいたみたいだ」
「評議会・・・」

腕を組んで呟くにレイヴンは続ける。

「そ。詳細は残ってなかったけど、なんでもその貴族の娘が皇帝を暗殺しようとしたとか・・・
それは一族ぐるみの計画だと密告があって露呈した」
「・・・・・・」

は無言のまま顎に手を当てて考え込む。

「病弱だった皇帝の心労を重ねた上、執って替わろうとするなど極刑に値するーってな訳で屋敷の全員が、らしいわ」
「じゃあ、評議会に犯人が残っているなら10年前からそこにいるメンバーが有力候補ってことか」
「そういうことになるだろうな。
けどもうほとんど評議会には当時のメンバーは残っちゃいない。
運が良い事に、今騎士団に拘束されてるラゴウはその一人だぜ」
「・・・そう、分かったわ。ありがとう」

壁から背中を離したはレイヴンに背を向けると表通りに向けて歩き出した。

「どうするつもりよ?」
「別に、どうもしないわ」

レイヴンに振り返ることなくは素っ気なく答える。

「変な気だけは起こさないで欲しいな〜って老婆心なんだけどね」
「私はギルドに居てから今まで自分がやったことで、後悔したことはないわ。
・・・これからもそれは変わらない」
「お前がそれで良いなら、いいけどね。
そうだ、一つ調べてみて気になったことがあるんだけど」

その声には振り向く事なく進んでいた足を止める。

「何かしら?」

話だけは聞いてくれるらしいにレイヴンは言葉を続ける。

「その貴族様、皇帝と結構仲良しだったみたいなのよね。
それもかなりの前の代の皇帝からね。
そんな仲なのになんでその時に謀反起こさなきゃなんなかったのかな〜ってのが引っかかるのよ・・・
それに、市民や下町からの評判はすこぶる好評。
貴族からも悪い噂なんぞ、聞かなかったしなぁ〜」
「・・・・・・」

顎を擦ったまま言ったレイヴンの言葉をは何も言わない。

「それと、もう一つ。
人魔戦争の時期は皇帝の体調が一番悪化してたって話らしいのよ。
んでも政治的混乱みたいなのはなかったらしいのよね。
それこそ、皇帝がもう一人いるかのように・・・」
「回りくどいわね。何が言いたいの?」

振り返らず若干の苛立ちを滲ませてが返す。

「ここからは俺様の推測だけど、の友達って相当な大物だったんじゃないの?
一時期噂になった皇帝の影武者って奴がその貴族様、だとか?」

その言葉にしばらく肩越しに視線だけをレイヴンに送ったは、微笑を浮かべた。

「さぁ?もう10年前のことだし、忘れたわ・・・」

このような状況で微笑まれるなどと思っていなかったレイヴンは、呆気にとられ聞き返すタイミングを逃した。
その間を逃す事なくは今度こそ、そこから歩き去っていった。























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2008.4.17