「さっさと片付けさせてもらうわ。
急ぎの用事ができたからね」
そう言った
は向かってくるギルド員を次々と斬り伏せ、後には倒れたそれによって道が作られた。
しかし、倒しているにも関わらず一向に数が減らない。
不審に思った
が周りに目をやると、
達の立っている場所に四方向から足場が伸ばされ、それを伝って紅の絆傭兵団の頭数が増やされているようだった。
「なら、供給を絶つまで!」
そう言った
は、制御盤らしい柱に向けて爆炎を仕込んだナイフを投げる。
柱にぶつかった衝撃によってそれは次々と爆発し、それによって延ばされた足場が格納されていく。
「くっ!やりおって・・・許さん!」
悔し気にバルボスが呟くと攻撃の対象を
に変え向かってきた。
は慌てる事なく、バルボスの攻撃を受け流していく。
そして、雑魚がいなくなりバルボスだけが残った。
ーーNo.73 奪還ーー
「ごはっ!」
「・・・もう部下もいない。器が知れたな。
分をわきまえないバカはあんたってことだ」
ユーリ達の攻撃に膝をついたバルボスは苦し気に笑いを漏らす。
「ぐっ・・・ハハハっ、な、なるほど。
どうやらそのようだ・・・」
「ではおとなしく・・・」
「こ、これ以上、無様を晒すつもりはない」
エステルの言葉に眼光だけは鋭さを収めず近付く事を拒む。
「・・・ユーリ、とか言ったな。
お前は若い頃のドン・ホワイトホースに似ている。そっくりだ」
「オレがあんなじいさんになるってか。
ぞっとしない話だな」
「ああ、貴様はいずれ世界に大きな敵を作る。
あのドンのようにな」
話の続きを遮るように
は有無を言わさず言い放つ。
「世迷い言なら、あとでたっぷり言えばいいわ。
今度こそ逃がすつもりはない」
「自由な風・・・色々嗅ぎ回っていたようだが、貴様の知らぬ所で事は動いている」
「・・・どういう意味?」
その言葉に
は眉根を寄せた。
バルボスはそれに答えずふらふらと立ち上がると、薄ら笑いを浮かべながら徐々に後退していく。
「貴様らは直に世界に食い潰される。
悔やみ、嘆き、絶望に打ちひしがれた貴様らがやってくるのを・・・先に地獄で待つとしよう」
言われた意味に気付いた
とユーリは、はっとしたように急いでバルボスに走り寄った。
しかし二人の手は届く事なく、バルボスは霞んだ塔の奥底へと姿を消した。
ユーリ達は取り戻した魔核を手に外へと出ていた。
「まったく、魔核が無事でよかったぜ」
「水道魔導器の魔核ってそんなに小さなものだったんですね」
エステルがユーリの手の中に収まる魔核を見て呟く。
結局、デュークの後を追おうとしたリタと
は姿を見失ってしまい、そのままユーリ達と合流する事となった。
「さて、魔導器も取り戻したし、これで一件落着だね」
「でも、バルボスを捕まえる事ができませんでした・・・」
「何言ってんの。あんなやつ死んでーーふぎゃ」
リタの言葉を遮るようにユーリは腕を払う。
胡乱気な視線を向けていたリタだったが、話題を変えるように
は明るい声をあげる。
「まぁまぁ、無事に下町の魔核が戻ったんだし目的は達したじゃない」
「まだ一件落着には早いぜ。こいつがちゃんと動くかどうか、確認しないとな」
ユーリの言葉に視線を収めたリタが呆れたように呟く。
「魔導器の魔核はそんなに簡単に壊れないわよ」
「ふ〜ん、そうなんだ。知ってた、レイヴン・・・?」
訊ねた問いかけに答えが返らなかったことで、カロルは振り向いたがその場にレイヴンの姿はなかった。
「また、あのおっさんは・・・本当に自分勝手ね」
「それをリタが言うんだ」
カロルの言葉にすかさず手刀をかざしたリタだったが、それを落とすことはしなかった。
「人それぞれでいいんじゃない?」
「そうね。きっとダングレストに帰ったんだろうし」
ジュディスの言葉に応じるように
が答える。
そんなやりとりを聞いていたユーリの表情が曇っていたことでエステルが心配そうに声をかける。
「浮かない顔して、どうかしましたか?」
「いや、まだデデッキの野郎をぶん殴ってねえと思ってさ」
「魔導器の魔核は戻ったんだからいいんじゃないの?そんなコソ泥なんて」
カロルの言葉にユーリは気を取り直す。
「ま、それもそうだな。
どっかで会ったら、絶対にぶん殴るけど」
そう言ったユーリの口から独り言が漏れる。
「・・・地獄で待ってる、か。
嫌なこと言うぜ」
その呟きが聞こえたエステルは表情を沈ませた。
立ち止まってしまったユーリ達より数歩先に進んだカロルが振り返った。
「ほらほら、いいかげんダングレストに戻ろうよ」
「そうですね。フレンにバルボスのこと、報告しないと」
「私はドンに報告しないとな〜」
歩みを再開したユーリは来る前の騒ぎについてエステルに訊ねる。
「フレンって言やあ、ダングレストの方はうまくまとまったのか?」
「ええ、フレンのおかげで、帝国もギルドも刃を収めました。
そのままフレンはラゴウの所へ行ったので、ラゴウもすぐに拘束されるはずです」
「そうか・・・」
とりあえずの解決となったことでユーリはホッと息をつく。
「じゃあ、私はここでお別れね」
「相棒のとこ戻るのか?」
背を向けたジュディスに向かってユーリが訊ねると、ジュディスは首肯する。
その場でジュディスと別れたユーリ達は再びダングレストへと帰路についた。
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2008.4.15