ーーNo.69 草原を駆ける白馬ーー
紅の絆傭兵団ブラッドアライアンスとユーリ達の無言の睨み合いは続いていた。
重苦しい時間が静かに流れていく。
しかしそれに終止符を打つように、地平線から徐々に黒い影が近付いてくるのが見えた。
かすかに、しかしだんだんとはっきり聞こえてくる蹄の音にユーリと
は口端をあげた。
「ったく、遅刻だぜ」
「違うでしょ、グッドタイミング、でしょ」
その音に気付いたエステルは外に目を向ける。
そこで目にしたのはフレンが草原を颯爽と駆けてくる姿だった。
「フレン!?」
エステルの驚いている間もフレンは馬を走らせギルドと騎士の両軍が向かい合うその場に向けて疾走していた。
「止まれーっ!双方刃を引け!引かないか!!」
ようやく両軍の間に馬を滑り込ませ、手綱を引いた。
駿馬が高く嘶き、前足を振り上げたがフレンは振り落とされることなく馬を落ち着かせる。
「私は帝国騎士団のフレン・シーフォだ。ヨーデル殿下の記した書状も逆臣の手によるものである!
即刻、軍を退け!」
馬上で手紙を高々と振りかざし、あらん限りの声で叫ぶ。
そこに、近付いてきたドンはフレンに聞こえる程度の小声で呟く。
(「戻ってこねぇと思ったぜ」)
(「あいつを見捨てるつもりは、はなからありませんでしたので」)
馬上からまっすぐな瞳をドンに向けたフレンは鞍から下りると持っていた書状をドンへと手渡した。
それを遠目で見ていたバルボスは憎らし気に歯軋りをし、ラゴウへ射殺さんばかりの視線を向ける。
「ラゴウ、帝国側の根回しをしくじりやがったな!」
「ひっ・・・」
「ちっ」
縮み上がったラゴウに構わず、バルボスは部下に命じて銃型魔導器を持ち出し、狙いをつけさせ る。
「ユーリ!あの人、フレンを狙っています!」
エステルの叫びにカロルはその辺にあった荷物を、照準を合わせていた男にぶつける。
「当たった!」
「ナイスだ、カロル!」
カロルの行動でユーリと
は男達に向かって飛び出そうとした。
「ガキ共!邪魔は許さんぞ!」
しかしバルボスは行く手を遮ろうと、自身が持っていた銃型魔導器をユーリ達に向けて狙い撃つ。
それにユーリと
の足は止まり、その攻撃の回避行動を取る。
バルボスの攻撃は直撃はしなかったものの、威力の強さから辺りは煙に包まれる。
「うわわっ!」
「きゃあっ!」
「逃げろ、出口に向かって走れ!」
カロルとエステルの叫びを受けて、ユーリは一旦退こうと仲間を誘導する。
しかし、それを逃さないバルボスはユーリに照準を合わせた。
「ユーリ、危ない!」
「エアルを再充填させるまで、少し間があるはず。その隙を狙って・・・」
「遅いわぁ!」
「うそ!?エアルの充填が早い!」
引き金が引かれそうになったその瞬間、バルボスに何かが当たりその体が床に転がった。
「なっ、なんだぁっ・・・!」
「注意力散漫は命取りよ!」
注意がそれたその一瞬、一気に距離を詰めた
がバルボスの銃器を叩き壊す。
視界を掠めたのは白。
竜使いの姿を見たリタはすぐに魔術の詠唱を始める。
「また出たわね!バカドラ!」
「リタ、間違えるな、敵はあっちだ」
「あたしの敵はバカドラよ!」
「今はほっとけ!」
ユーリに宥められ、魔術の詠唱だけは止めたリタだったが、鋭い眼光が収まることはない。
自身の不利を悟ったバルボスはチェーンソ型魔導器を取り出すとそれを上にかざした。
「ちっ、ワシの邪魔をしたこと、必ず後悔させてやるからな!」
そう吐き捨てると、起動した魔導器が その巨漢を空へと運び去った。
その後を追うように竜使いも方向を変えようとしたが、それを見逃さなかったリタが駆け寄ろうとした。
「あ!待てバカドラ!あんたは逃がさないんだから!」
しかし、リタより早くユーリが竜使いに近付き口早に言う。
「奴を追うなら一緒に頼む!羽の生えたのがいないんでね」
「あんた、何言ってんの!こいつは敵ーー」
「リタ」
リタの言葉を遮るように
は声を上げる。
そんな
に視線だけを送ったユーリはすぐに竜使いへと戻した。
「オレはなんとしても奴を捕まえなきゃなんねえ・・・頼む」
ユーリの必死の頼みが通じたのか、竜使いは高度を落とし後ろに乗るように態度で示す。
「助かる!」
短い感謝を述べるとユーリはすぐに竜使いの後ろに飛び乗り、再び高度が上がった。
「待って!ボクたちも!」
「こりゃどう見ても定員オーバーだ。
お前らは留守番してろ」
「そんな・・・」
「エステル、ここで無理言っても仕方ないわ」
言い募ろうとするエステルを宥め、
はユーリへと視線を戻す。
「ちゃんと歯磨いて、街の連中に迷惑かけるなよ」
「あら、そっちこそ。
舐めてかかると痛い目見るわよ」
のやり返しに片手を上げて応じたユーリはそのまま西の方へと見えなくなった。
平野での喧騒が徐々に退く中、
は見送っていた視線を剥がし酒場の出口へと歩き出した。
「あ、
!待って下さい。
どこに行くんです!?」
「どこって、決まってるじゃない。
私はバルボスを捕まえるように言われているから、その遂行にね。
ついでにユーリも連れて帰って来るわ」
エステルに振り返ってそう答えると、カロルが拳を作って意気込む。
「じ、じゃあ、ボク達も行くよ!」
「ユーリに留守番って言われたでしょ?」
「だってユーリだけじゃ心配だもん!」
「ええ、わたし達も連れて行って下さい」
エステルも便乗するように詰め寄り、
はどうしたものか、と眉根を寄せる。
「困ったな〜、私責任もてないし・・・
リタ、何とか言ってくれない?」
「今更言っても聞くわけないでしょ。
それに、魔導器があるっていうならあたしも気になるし」
リタからの答えで
の味方はいなくなり、疲れたように肩を落とした。
「はぁ・・・一応、忠告はしたからね。
勝手に付いてきたってことにしてもうわよ」
からの言葉に力強く頷き返したカロルとエステルを確認し、
は表情を明るくした。
「さ〜て、行きますか」
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2008.4.10