地下牢を後にしたユーリと
はユニオンを背にし、そこから南の広場まで歩みを進めた。
すると、ユニオンの方角から伝令の男が大声を張り上げながら走ってきた。
「どけどけ!ドンがお通りだぞ!」
その声に二人が振り返ると、大勢のギルドを従えたドンが闊歩してくる所だった。
一様に物々しい、近付いただけ切れそうな鋭利な雰囲気を纏っている。
「あのじじぃ、バカおびきだすためにマジで戦争するつもりか?」
「心配いらないわ。一応
レイヴンもドンに付いてるし、それよりこっちの仕事をしないとね」
胡乱気な視線を送るユーリとは対照的に
は全く心配などしていないようだった。
「俺らを見下し侮辱した帝国のクソ野郎共に思い知らせてやろうじゃねぇか!」
ドンの怒号に周りを囲む全てのギルドが呼応して叫び返す。
それを遠くから見ていた
だったが、ドンの隣にいたレイヴンと視線がぶつかる。
ユーリとこちらに交互に視線を送ってくる様子に、ぱちぱちと目を瞬かせていた
だったが、企み顔で返してやればレイヴンは苦笑を返した。
「さぁ、立ち止まってる暇はないわ。
早く事を済ませましょう」
ーーNo.68 喧騒を見下す者ーー
まずは他の仲間と合流しようということで、二人がその姿を探していると元気な声に呼び止められた。
「あ、ユーリ!
!」
その声にユーリと
が振り返ると、カロルとエステルが走り寄ってくる所だった。
「ケガ人の治療は終わったのか?」
「どうして、それを?」
一緒にいなかったはずのユーリが見ていたような物言いに驚いたエステルは首を傾げる。
それに
は真面目顔でエステルに答えた。
「実は私、千里眼を持っててーー」
「ドンに聞いたんだよ」
の言葉を遮りユーリが答える。
から半眼を向けられたユーリだが綺麗に無視される。
「そんなことより、大変なことになってるんだよ!」
「見りゃわかるって」
「そうじゃなくて!」
周りの事を言っているんじゃない、とカロルが答える。
「他にもあんの?」
「見たんだよ!」
「見たって何を?」
興奮のあまり言葉になっていないカロルにどういうことだ、と
はエステルに視線を向ける。
「紅の絆傭兵団です!バルボスはいませんでしたが・・・」
「リタとラピードが今後をつけてるから」
「ドンの狙い通りか・・・」
「今度こそ逃がさないわ」
そう呟く
の横で考え込んでいたユーリだったが、カロルから急かされて考えを中断させる。
「早くリタ達を追おうよ」
「ああ」
カロルに応じると、四人はリタとラピードの元へと走り出した。
カロルとエステルの案内で着いたその場所は、紅の絆傭兵団の拠点でもある酒場だった。
その入口近くの物陰でリタとラピードが様子を伺っていた。
「この中か」
「そう」
ユーリの取りにリタは短く返事を返し、ラピードも一声吠える。
「入りましょう」というエステルの言葉に頷き、一行は酒場へと足を踏み入れた。
1階は通常なら客の喧騒に溢れているところだろうが、入ってみると誰一人としてその姿は見えない。
「・・・とすると、2階ね」
の声に一同が頷くと、周囲を伺いながら階段を上った。
酒場の2階は窓が取り払われ、外の景色が一望できるデッキが併設されていた。
そこには外に視線を向け椅子に体を沈めているバルボスとそのバルボスの背に詰問しているラゴウがいた。
「バルボス!これはどういうことです!」
「何を言っているのか、ワシにはさっぱりだな」
うそぶくバルボスにラゴウは怒りを露に追及を強める。
「例の塔と魔導器のことです!私は報告を受けていませんよ!」
「なぜ、そんなこと報告しなきゃならない?」
開き直ったバルボスにラボウハ怒りのあまりみるみる顔色が変わっていく。
「な、なんですと!?雇い主に黙ってあんな要塞まがいの塔を・・・それに海凶の爪まで勝手に使って!」
「ワシは飼い犬になったつもりはない。ただお前の要望通り、魔核を集めたのだ。
そのおかげであの天候を操る魔導器を作れたんだろう」
「誰が余った魔核を持っていっていいと言いました!?」
「お互い不可侵が協力の条件だったはずだがな」
指摘されたラゴウは言葉に詰まる。
「な、なにを・・・」
「ワシが貴様のやることに口出しをしたか?」
バルボスの言葉にラゴウは悔し気に歯軋りをする。
「・・・バルボス、貴様!」
「執政官様がお帰りだ」
これ以上用はない、とばかりにバルボスは部下に命じてラゴウを下がらせる。
「覚えておきなさい!貴様のような腹黒い男はいつか痛い目を見ますよ!」
「貴様が、な」
捨て台詞にバルボスは見下した一瞥を送った。
そんな中、ユーリ達は一斉に二階へと踏み込んだ。
「悪党が揃って特等席を独占か?いいご身分だな」
「その、とっておきの舞台を邪魔するバカはどこのどいつだ?」
部屋の入口を見る事なく、バルボスは呟くと視線だけユーリ達に投げる。
「ほぅ、船で会った小僧共か」
「ずいぶんなご挨拶ね。悪いけどもう言い逃れはできないわよ」
「この一連の騒動は、あなた方の仕業だったんですね」
「それがどうした。所詮貴様らにワシを捕まえることはできまい」
とエステルの追及に尊大な態度を崩さないバルボスに、リタは半眼を向ける。
「はあ、どういう理屈よ」
「悪人ってのは負ける事を考えてねえってことだな」
「なら、ユーリもやっぱり悪人だ」
「おう、極悪人だ」
カロルの言葉ににやりとユーリは返す。
そんな臆する事をしないユーリ達にバルボスは苛立たしそうに吐き捨てる。
「ガキが吠えおって」
バルボスのその言葉で、紅の絆傭兵団がユーリ達を取り囲む。
だが、易々とユーリ達もやられるつもりはないと、各々武器を構える。
それを見たバルボスは目を細めた。
「手向かうか?前言ったはずだ。次は容赦しないと」
「それはこっちの台詞よ。今回の事件はすでにユニオンに知れ渡っているわ。
ギルドに属していない第三者の状況証拠もこれで揃った。
観念するのはそっちの方よ」
「お前らが消えればその必要もない、とっとと始末しろ」
バルボスが言い終わるのと同時に、外で砲撃の音が鳴り響いた。
「バカ共め、動いたか!これで邪魔なドンも騎士団もぼろぼろに成り果てるぞ!」
「まさか、ユニオンを壊して、ドンを消すために・・・」
「騎士団がぼろぼろになったら、誰が帝国を守るんです?
ラゴウ、どうして・・・あっ」
その場にいたラゴウに気づいたエステルは、合点がいったように声を上げる。
「なるほど、騎士団の弱体化に乗じて評議会が帝国を支配するってカラクリね」
「リタ大正解。模範解答ね」
「なんてこと・・・」
エステルの愕然とした呟きを聞きながら、ユーリはバルボスを油断なく伺う。
「騎士団とユニオンの共倒れか。フレンの言ってた通りだ」
「ふっ、今更知った所でどうなる?どうあがいたところで、この戦いは止まらない!」
手遅れというバルボスに、ユーリと
は含んだ笑みを浮かべる。
「それはどうかな?」
「あなたの考えが浅はかだったってことが、すぐに分かるわ」
そんな二人の態度が気に入らなかったのか、バルボスは憎らし気に睨みつける。
「生意気な・・・お前らの命もここで終わりだ!」
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2008.4.9