ーーNo.67 交わされた取引ーー
フレンが去った後、ユーリはフレンがいた牢へと入っていった。
はそのまま見張りを務め、互いに話す事なく辺りを静寂が支配した。
そんな中、
に背を向けて座っているユーリが出し抜けに話しかけた。
「そういや聞けずじまいだったけど、お前って天を射る矢とどういう繋がりなんだ?」
「あー・・・確か説明するって、それで終わってたわね」
ケーブ・モックでの去り際を思い出した
は、腕を組み記憶を掘り起こす。
「前からギルドに所属してるってのは聞いてたけど、どのギルドまでは聞いてなかったからな」
「そうね、説明するつもりもなかったからね」
「で?肝心のその説明は?」
ユーリからすぐに切り返され
は渋々説明し出す。
「ま、こんな状況に巻き込んじゃったし仕方ないか・・・
仕事名はご存知の通り、『自由な風』
そいつはギルド天を射る矢に席を置く情報屋。
基本的にドンからの指示・依頼で各地に飛んでいるけど、他のギルドから求められれば相応の報酬で情報提供もする。
だから、この街に戻るのはドンへの報告ぐらいで、後はぶらぶらと放浪してるってところかしらね」
「なるほどな、帝都にいたのもその仕事の延長上ってところか」
「そゆこと」
その説明で
とギルドの関係が分かった。
さらに質問を続けようとしたユーリだったが、扉の開く音で
が立ち上がり話は中断された。
階段を降りてきた人物に
は会釈すると、そのまま数歩後ろへ下がった。
ユーリの前に立ったドンは鋭い眼光で見下ろした。
「友の代わりに牢に入る、か。そいつはどんな酔狂だ、小僧」
「わざわざ見張りをなくした大間抜けなじじいに言われたくないね」
「その見張りをなくしたのは私なんだけどね。
感謝されても皮肉言われる謂われはないんだけど?」
の突き刺す物言いに無言になったユーリ。
代わりにドンが口を開いた。
「騎士の坊主に秘密の頼みがあったんだがな」
「フレンに?」
聞き返すユーリにドンはこちらの事情を説明する。
「こんな茶番を仕掛ける連中だ。その辺で高みの見物としゃれこんでるだろうよ」
「茶番だってわかってんならギルドを煽んなよ」
「やる気みせねぇと黒幕が見物にこねぇだろうが。
来てもらわねぇとこっちの事情もあるんでな。
それにこうでもしなけりゃ、血の気の多いうちの連中が黙っちゃいねぇ。
まぁ、そういうわけだ。
騎士の坊主がもどらなけりゃぁ、当然、てめぇの命を貰う」
念押しするドンにユーリは怯む事なく答える。
「分かってるよ。
なぁ、あんたはなんでギルドを作ったんだ?」
去り際のドンにへの問いかけに即答が返る。
「帝国の作ったルールじゃぁ、俺の大事なもんが守れねぇって思ったからだ」
「帝国にいた方が、守りやすいもんもあったろ。
下町でさえ結界に守られてた、魔物は絶対に入ってこれねぇ」
「だから、その他の気に入らねぇことをてめぇは我慢してんのかよ」
「・・・それは」
言葉を濁すユーリにドンは言い捨てた。
「帝国の作ったルールが気にいらねぇなら、選択肢は二つだ。
あの騎士の坊主のように、換えてやろうと意気込むか、もしくは帝国を飛び出して、てめぇのルールをてめぇで作り上げるか、だ」
「はっきりしてんのな」
ドンの言葉を反芻するようにユーリは零す。
「そうそう、うちの大事な人質を逃した責任は取れよ」
「身代わり以外にまだ何かやれっての?」
面倒そうに声を上げるユーリに構わず、ドンは話を続ける。
「茶番を仕切ってる黒幕が街にまぎれてるはずだ。
あの騎士の坊主に探させるつもりだったんだがな」
「それ、オレに探せって?」
「責任の取り方はてめぇに任せる。
連れの娘っ子だって、ケガ人相手に駆けずりまわってんだ。
てめぇだけのんびりってのは性に合わねぇだろ」
「・・・エステルがね。
ま、あいつらしいか」
ケガ人を放っておけないエステルを想像して、ユーリは苦笑を浮かべる。
「それと、
。見張りの続きだ。
小僧と一緒になって黒幕を押さえて来い。
この状況なら言い逃れなんぞできねぇだろうからな」
「わかったわ」
が頷くのを確認すると、ドンはそのまま踵を返し地下への扉を出て行った。
「と、いう訳だからまたよろしくね、ユーリ」
「ああ、フレンの事もサンキュな」
「ふふっ、高いわよ〜この貸しは」
企むような
の視線にユーリは乾いた笑みを浮かべるしかなかった。
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2008.4.7