ーーNo.66 旧知の契りーー
ドンから指示を受けた
はユニオンの地下牢へと向かった。
そしてそこへ続く扉の見張りを退かせ、下へと続く階段を下りていった。
地下牢だけあって壁や証明も剥き出しで、来る人に物悲しい印象を与えた。
静寂は支配されているそこには、意気を奪い希望を抱かせないところだった。
頭を冷やして考え事をするには良いところかもしれない、と埒もないことを考えながら
はフレンの元へと歩いていった。
牢屋に着くと、フレンは入口に背を向けて正座していた。
人が入ってきた事には気付いているようだが、こっちに振り向く事はしないようだ。
「牢に入ってるんだから、足ぐらい崩したらどう?」
「
・・・」
「話し相手が必要かと思って、来てあげたわよ」
苦笑を返すフレンに、
は手近にあった椅子を引き寄せフレンの前に腰を落ち着けた。
「それにしてもびっくりしたわ。
危険物なら事前にそうだって言ってもらわないと。
分かってたら対処の仕様があったのよ?」
「それは誤解だよ」
困ったように眉根を寄せたフレンに
は微笑を浮かべながら応じる。
「分かってるわ。ああいう狡猾な手を使う目星はついてる。
それとあの天然殿下が書いたにしてはちょっと人格違うしね〜」
「そこまで知っているならどうして・・・」
「こっちにも事情があってね〜、紅の絆傭兵団を調べてたのは帝国だけじゃなかったってこと」
合点がいったようなフレンは感心した。
「さすが、自由な風。
情報の正確さと行動の速さには恐れ入るよ」
「褒める相手が違うわ。
私は指示に従っているだけ。今回はなかなか捕まえられなかったけど、やっと向こうから尻尾を出してくれたんだもの。
この機会を逃すつもりはーー」
の言葉を遮るように、入口から扉の開ける音が響いた。
「お客さんね、多分フレンによ」
「僕に?」
階段を下りる足音が徐々に近付き、
は椅子を持って壁際の机の所まで戻り机に頬杖をついた。
タイミング良くその姿が視界に写り
は気軽に片手を上げた。
「いらっしゃ〜い、私はいないものだと思って話していいからね」
「なんでお前が・・・」
「仕事よ、し・ご・と。
ほら、フレンに話があるんでしょ」
の姿に驚いたユーリだったが、
に促されてフレンの前に立つ。
「よぉ、辛気くさい顔は健在だな」
「ユーリ、か・・・僕の無様を笑いに来たんだろ」
「そうそう、どんな神妙な顔して捕まってるか、見にな」
「牢屋にぶち込まれる立場もたまには悪くないもんだな」
焦りを見せないフレンにユーリは呆れ返る。
「あんな物騒な書状を持ってきておいて、何、呑気なこと・・・」
「あれは赤眼どもの仕業だ。ユーリと別れた後でまた襲われたんだ」
聞かされた内容に、短く嘆息すると腰に手を当てたユーリが聞き返す。
「らしくねえ、ミスしてんな。部下が原因か?」
「それも含めて僕のミスだ」
「そうかい。けど、赤眼どもってことは裏にいんのはラゴウだな」
言い切ったユーリにフレンは訝し気な視線を向ける。
「ん?どうしてそれを?」
「港の街でな、ラゴウが赤眼どもと一緒だった暗殺者に命令出すのを見てんだよ」
「そんなことがあったのか」
フレンの問いかけに無言で頷くと、背中を鉄格子に預けさらにフレンに問いかける。
「で、やつらの狙いわかってんのか?」
「・・・恐らく、ギルドと騎士団の武力衝突だ」
その言葉にユーリは考え込む。
「だとすると、やばそうだな。
騎士団にも似たような偽の書状がいってんじゃねえのか?」
「ああ、騎士団を煽る為に・・・」
「そこまでわかってんなら、さっさと本物の書状を奪い返して来いよ」
そこまで言うと、背中を鉄格子から離し自身の剣で鍵をたたき壊した。
ガギッという鈍い音と共に鍵は壊れ、フレンを捕らえていた扉が開け放たれた。
そんな状況になっても
は口を出すことなく、黙って二人のやり取りを見守っていた。
「その忌まわしい鍵をユーリが開けてくれるのをずっと待っていたんだ」
フレンの言葉にユーリは苦笑を返し、そのまま背を向けるとフレンは呟いた。
「君はここにいてくれ」
「オレ、身代わりかよ。おまえ、オレを見捨てる気まんまんだろ」
「そうだな、もし戻って来なかったその時は・・・僕の代わりに死んでくれ」
「ああ・・・」
ユーリに短く応じたフレンはそのまま走り出そうとする。
「フレン、忘れ物よ!」
そんなフレンを呼び止め
はフレンの装備を投げる。
それを受け取ったフレンは驚きの表情を隠せない。
「
!?」
「丸腰で行く気?それじゃあ本物の書状、取り戻せないでしょ」
「でも、君は見張りの仕事を・・・」
フレンの言葉を受けて、暫く唸っていた
だったがパチン、と指を鳴らしてにこやかに答える。
「よし、じゃあこうしましょう。
真面目に仕事をしていたか弱いギルド員を不意打ちした悪者が、鍵を壊して投獄した人質を逃した。
なんとか悪者を取り押さえたギルド員はそいつを捕まえた、ってことで」
「・・・オレ、悪者か?」
「その見た目で善人って言う人に会ってみたいわねぇ」
半眼のユーリに負けじと
はやり返す。
そんな
にフレンは申し訳なさからと声が沈む。
「すまない、また迷惑をかけることになってしまって・・・」
「ちっがーう、こういう時は『ありがとう』だってば」
俯いたフレンに
は人差し指を突きつけて顔を上げさせる。
「・・・ありがとう。
、ユーリを頼むよ」
「はいはい、頼まれた・・・気をつけてね」
の気遣いに頷き返すと、フレンは背を向け階段を駆け上った。
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2008.4.7