走り去った伝令の背中を見つめていたカロルは、不安気な面持ちをユーリに向けた。

「なんか大事になってきたね・・・」

ユーリも無言で頷き返し、事の成り行きを見守っていた。



























































ーーNo.65 謀られた密書ーー



















































ドンの前にいたフレンはそのまま膝を折ると、帝国の刻印で封蝋された手紙を差し出した。

「こちらにヨーデル殿下より書状を預かって参りました」

ドンがそれを受け取るとフレンはそのまま後退した。
手紙を受け取ったドンは、すぐに開封しその書面に目を走らせる。

「ほぉ、次期皇帝候補の密書か、読んで聞かせてやれ」

ドンから手紙を受け取ったレイヴンは周りにも聞こえるように読み上げる。

「『ドン・ホワイトホースのクビを差し出せば、バルボスの件に関しユニオンの責任は不問とす』」
「何ですって・・・!?」

聞かされた内容には僅かに眉根を寄せる。
驚愕のあまり声を上げたフレン、一様に驚きを隠せないユーリ達、そしてそれまで静観していたギルドの幹部も一気に剣呑な雰囲気へと変わる。
そんな周りの状況に動じる事なく、ドンは大声で笑い飛ばす。

「ふわはっはっは!こりゃぁ笑える話だ」

レイヴンから手紙を返されたフレンは、書面に目を走らせるが先ほど聞いた内容に間違いがないことに体を震わせる。

「・・・なんだ、これは・・・」
「どうやら、騎士殿と殿下のお考えは天と地ほど違うようだな」

ドンの言葉を受け、はっとしたようにフレンは顔を上げる。

「これは何かの間違いです!ヨーデル殿下がそのようなことを」
「おい、お客人を特別室にご案内しろ」

申し開きを聞く事なく、ドンは部下にフレンを連れ出せと命じる。

「ドン・ホワイトホース、聞いて下さい!これは何者かの罠です!」

フレンの叫びに誰も耳を貸す事なく、両脇を固めた部下が有無を言わさずフレンを引っ立てていった。
そんなフレンに走り寄ろうとしたエステルだったが、ユーリが行く手を塞ぐ。

「ユーリ、どうして?」
「早まるなって。下手に動けば、余計フレンを危険にさらす事になるぜ」
「そんな・・・」

フレンが部屋から出て行ったと同時に、ドンは腰を上げ声を張り上げる。

「帝国と全面戦争だ!総力を挙げて、帝都に攻め上る!
客人は見せしめに、奴らの目の前で八つ裂きだ!
二度と舐めた口をきかせるな!!」

ドンの言葉に賛同する声を上げた幹部達。
各ギルドに伝達するため、伝令が一斉に駆け出していった。
ドンも自室に戻る為その部屋を後にする。
ハリー、レイヴン、もその後へと続き部屋を出て行った。
ドン達がいなくなった後、宣戦布告を目の前で行われたことでユーリ達は浮き足立った。

「た、大変なことになっちゃった!」
「おかげであたしらの用件、忘れられちゃったわよ!」
「ドンも話どころじゃねえな」
「わたし、帝都に戻って本当のことを確かめます!」

意気込んだエステルを宥めるようにユーリは落ち着かせる。

「早まるなって言ったろ。ちょっと様子を見ようぜ」
「わ、わかりました・・・」











































ユニオンを出たドンは天を射る矢の拠点の酒場に戻ると、自室の椅子に座り込んだ。

「さぁて、いろいろせにゃならんことができたな。
レイヴン、飛び回ってる幹部に連絡しろ。一戦やることになったから、さっさと戻って来いってな」
「へーい」
「ハリーおめぇは街中のメンバーに伝言だ。内容は分かってるだろ?」
「ああ、分かった」
「そして、お前はあの騎士の坊主んとこに行って来い。
後で話がある、見張りを下がらせておけ。
だからって他のギルドが余計な手ぇださせねぇようにな」
「りょーかい」

それぞれに指示を出し終えると、ドンは立ち上がる。

「手ぇ抜くんじゃねぇぞ!
茶番と分かっちゃあ黒幕が出てこねぇからな」

ニヤリと口端を上げたドンに3人は応じるようにそれぞれの仕事をするために散っていった。
























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2008.4.6