「クソ野郎共を一網打尽にする!おめぇら、一匹も逃すんじゃねぇぞ!」
ドンの叫びにギルドのメンバーは野太い声で応じる。
も賛同するように力強く頷き返した。
ーーNo.63 大群の向かう先ーー
ダングレストから魔物の群れを追って来たドンは、調べがついている
魔物の巣を街に近いところから徹底的に潰していった。
どの魔物も凶暴性が増していて、森の奥へ進むにつてれそれは顕著に現れていた。
そして、最大の巣窟であるケーブ・モック大森林に到着した。
ここまでの強行軍でギルドのメンバーの疲れが出始め、怪我人の数も着実に増えていった。
疲れが見えないのは一番の高齢であるはずのドンだろう。
今やギルドの象徴となっている彼は、士気を維持するため決して臆したり疲れの表情を見せない。
そんなドンに
は全幅の信頼を置いていた。
「ケガした奴は後ろに下がってろぉ!動ける奴は俺に付いて来い!!」
尚も躍進するドンの両脇を
と天を射る矢の幹部が固め、森の奥へと進んでいく。
しかし魔物の数はさらに膨れ上がり、その刃を向ける。
「くっ!これじゃあきりがない・・・」
「弱ぇ奴らが群れやがって!」
雑魚とはいえ大量の魔物に取り囲まれてしまったドンと
だったが、突然、何の前触れもなく暴れる事をやめた魔物は森の奥へと逃げ出して行った。
「どうなってやがる・・・
、おめぇ何かしたか?」
「いいえ、何もしてない・・・どういう事なの?」
理由は分からないが、とりあえずの危険は脱したとドンは剣を地面に突き刺した。
「まぁいい。今はケガした奴らの手当をせにゃあな。
、看てやってくれ」
「分かりました。とりあえずの応急処置は済ませます」
ドンに応じた
は後方にいるだろう負傷者の元へと駆け出して行った。
エアルクレーネを後にしたユーリ達は森の出口に向かっていた。
歩いている間も、リタの独り言は止む事がなかった。
「エアルの異常で魔導器が暴走、そのせいで魔物が凶暴化・・・
それがあいつの言う歪みと関係があるなら、この場所だけじゃ済まないのかも・・・」
「さっきからぶつぶつと・・・」
レイヴンの何気ない呟きは、リタからの一睨みでそれ以上続く事はなかった。
とその時。
地鳴りのような震動が轟いた。
それはユーリ達の方に向かってだんだんと近付いてくるようだった。
「うわっ、何!?また魔物の襲撃!?」
急いで茂みの影に隠れたちょうどその時、おびただしい数の魔物が森の奥へ向けて大移動していた。
「カロル、頭上げんなよ!」
しばらくして魔物が移動し終えたのを見計らい、ユーリ達は茂みから抜け出した。
訳が分からない、と首を傾げるユーリだったが、エステルの声で視線をその方向へと巡らせる。
「あ・・・あの人達」
「ドン!」
カロルがドンを見つけるとそのまま駆け出していた。
ユーリ達もカロルの後に続き、座り込んでいるドンの元へと歩き出した。
「・・・てめぇらが何かしたのか?」
「何かって何だ?」
顔を合わせた早々、ドンに問いかけられたユーリは意味が分からず逆に問い返す。
主語が抜けていたことに気付いたドンは言い直した。
「暴れまくってた魔物が突然、おとなしくなって逃げていきやがった。
何ぃやった?」
ドンの問いの答えに気付いたエステルが、ユーリの後ろから声をかける。
「ユーリ、あれです。
エアルの暴走が止まったから・・・」
「ボク達が!エアルの暴走を止めたから、魔物もおとなしくなったんです!」
「エアルの暴走?ほぉ・・・」
ユーリが口を開く前にカロルが元気よくドンに説明する。
その説明を受けたドンは思い当たる事があるののか、顎に手を当てて考え込んだ。
「何、おじいさん。あんた、なんか知ってんの?」
「いやな、ベリウスって俺の古い友達がそんな話をしてたことがあってな」
「・・・ドンが南のベリウスと友達って本当だったんだ・・・」
ドンの答えにカロルは尊敬の眼差しを向ける。
しかし、事情が飲み込めていないリタはカロルに聞き返す。
「何よ、そのベリウスっていうの」
「ノードポリカで闘技場の首領をしてる人だよ」
「ノードポリカ・・・」
再び考え込んでしまったリタだったが、まだ細かな理由を聞いていないドンは脱線した話を戻す。
「で?エアルの暴走がどうしたって?」
「本当大変だったんです!すごくたくさん、強い魔物が次から次へと、でも・・・!」
意気込んで詳しい状況を説明しようとするカロルに、ドンは続きをやんわりと遮った。
「坊主、そういうことはな、ひっそり胸に秘めておくもんだ」
「へ・・・?」
キョトンとしたカロルに、ドンは言い聞かせる。
「誰かに認めてもらうためにやってんじゃねぇ、街や部下を守る為にやってんだからな」
「ご、ごめんなさい・・・」
バツが悪くなって俯いてしまったカロルに、分かればいいとばかりにドンはわしゃわしゃと頭を撫でた。
ドンに負傷者の手当を任された
は忙しそうに飛び回っていた。
「うん、こっちの傷は止血しとけばいいわね。
あと腕の方だけど、手、握れる?」
「な、なんとか・・・」
「ん〜、一応治癒術かけてもらった方がいいわね。
ちょっと!こっちに暁の雲の治癒術士回してくれる〜」
「分かりました!」
幸いとしてそれほど重傷者は多くいない。
皮肉にも頻発していた魔物の襲撃を迎え撃つことで腕が上がったという現れだろう。
「誰か!こっちに手を貸してくれ」
「はいは〜い、手伝うわよ〜」
一息つく暇なく
は声のする方へと走っていく。
怪我の処置を済ませ、包帯を巻いていると名前を呼ばれた気がして
は振り返った。
「ーーさん、
さん!至急お伝えしたいことが!」
「どうしたの?何か問題でもあった?」
天を射る矢で何度かみかけた男が走り寄り、
に耳打ちをする。
聞かされた内容に幾分驚いた
だったが、頷き返した。
「分かった。私からドンへ伝えるわ。
悪いけど、この人の手当をお願いできる?」
男に手当の途中だったケガ人を任せ、
はドンを探しに駆け出した。
ドンの後方にいたギルドの男達が怪我をしていることに気付いたエステルはすぐに駆け寄り手当を始めた。
そんなエステルに感心していたドンだったが、茂みに隠れている人物に気が付き声を上げる。
「・・・ん?そこにいるのはレイヴンじゃねぇか。
何隠れてんだ!」
「ちっ」
舌打ちをしたレイヴンは嫌々茂みからドンの前へと歩み出して来た。
そんなレイヴンにドンは目を細め睨め付ける。
「うちのもんが、他所様のところで迷惑かけてんじゃあるめぇな?」
「迷惑ってなによ?ここの魔物大人しくさせるのに頑張ったのよ、主に俺が」
最後の言葉を強調して言った根も葉もないレイヴンの主張に反論しようとしたカロルだったが、
それよりもドンがレイヴンに対してかけた言葉に驚きを隠せなかった。
「ええ!?レイヴンって、天を射る矢の一員なの!?」
「どうも、そうらしいな」
カロルと同様にユーリも訝し気な視線を送る。
レイヴンの応えに納得を見せていないドンは自身の大剣の柄でレイヴンの胸をどついた。
ゴスッという鈍い音が響き、顔色を変えたレイヴンはドンの傍から飛び退った。
「いてっ!じいさん、それ反則!反則だからっ!!」
「うるせぃっ!」
そのやりとりを見ていたユーリは、ドンに近付くとその名前を口にした。
「ドン・ホワイトホース」
「何だ?」
「会ったばかりで失礼だけど、あんたに折り入って話がある」
ドンからの鋭い眼光に臆する事なく、ユーリは正面からその視線を受け止め見返した。
ドンを見つけた
は、ユーリ達がいることにいささか驚いた。
だが、記憶を手繰ってリタがケーブ・モックの調査を依頼されていたことを思い出し、納得した。
(「あー、ヤな奴の顔まで思い出しちゃった・・・」)
思わず顔にでてしまった
だったが、頭を振って気を取り直す。
そして、ユーリと話をしている最中のドンの後ろから声をかける。
「ドン、お話中ですけど、お耳に入れたい事が・・・」
「
!?」
ユーリの驚きように微笑を返すとドンに伝令からの情報を耳打ちする。
聞き終えたドンは
に頷き返した。
「ん、分かった。野郎共、引き上げた!
すまねぇな、急用でダングレストに戻らにゃならねぇ。
ユニオンを訪ねてくれりゃあ優先して話を聞くから、それで勘弁してくれ」
ドンの答えにユーリは首肯する。
「いや、約束してもらえるならそれで構わねえよ」
「ふん、俺相手に物怖じなしか。てめぇら、いいギルドになれるぜ」
ユーリに一瞥を送るとドンは他のメンバーを引き連れてダングレストへと引き返していった。
もそれに続こうとしたが、ユーリから声がかかる。
「
、お前がどうしてここにいるんだ?」
「あー、今はそんな暇ないの。街に戻ったら説明するから」
ごめんね〜、と
はユーリ達に片目を瞑って両手を合わせた。
そして、すぐにドンの後を追いユーリ達に背を向け走り出した。
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2008.4.4