ユニオンに到着したユーリ達は早速ドンに会う為、門番に取り次いでくれるように頼んだ。
しかしタイミングが悪いことに、ドンは魔物を追って街を出て行った後だった。
後を追うため街で情報収集をしようとしたユーリだったが、リタがそれなら、と口を開く。

「手詰まりみたいだし、あたしケーブ・モックの調査に行ってくる。
面倒な仕事はさっさと終わらせたいから」
「けど、それならエステルも一緒ってこと?」
「そうですね。アレクセイにはそう言いましたし・・・」

その言葉を受け、どう行動しようかと考えあぐねているユーリにエステルは続ける。

「大丈夫ですよ。二人でもちゃんとやれます」
「そうもいかねえだろ。ケガでもされたら、オレがフレンに殺される。
からも絶対何かされるだろうからな・・・」
「では、ケーブ・モック大森林に行きましょう」

話がまとまった一行はケーブ・モック大森林へ向け街の外へと歩き出した。

「ケーブ・モック大森林とは。
偶然ってあるもんだねえ・・・」

ユーリ達の背中を見送るように呟かれた言葉。
スルリと屋根の上を動いた影に誰も気付く事はなかった。



























































ーーNo.62 根源眠る大森林ーー



















































ダングレストから南西、ひたすら森の中を進むとさらに鬱蒼と緑が茂る大森林に到着した。

「世の中にはこんな大きな木があるんですね・・・」
「けど、ここまで成長すると、逆に不健康な感じがすんな」
「カロルが言ってたとおりね。ヘリオードで魔導器ブラスティアが暴走したときの感じになんとなく似てる」
「気をつけて・・・誰かいるよ」

カロルの言葉に皆が警戒を強める。
徐々に近付いてくる足音、そして

「よっ、偶然!」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」

『偶然』な出会いを宣言している中年に、ユーリ一行からは冷たい視線が返される。

「一応聞いてやるが、こんなとこで何してんだよ、おっさん」
「うーん・・・自然観察と森林浴って感じだな」
「うさん臭い・・・」
「あれ?歓迎されてない?」
「まさか本気で歓迎されるなんて思ってたんじゃないでしょうね」

突き刺さるような視線で睨みつけるリタに、レイヴンは肩を落とした。

「そんなこと言うなよ。俺様、役に立つぜ」
「役に立つって、まさか・・・一緒に来たい、とか?」
「そうよ、一人じゃ寂しいしさ。何?ダメ?」

目に見えて意気消沈する様を見せるレイヴン。
だが以前の前科を思い知っているユーリ達は、迷惑千万だという視線を送ったが本人は全く意に介さない。
だが、追い返した所で付いてくることも目に見えていた。

「背後には気をつけてね。変な事したら殺すから」
「なぁ、俺様ってばそんなにうさん臭い?」
「ああ、うさん臭さが、全身から滲み出てるな」
「どれどれ・・・」

ユーリの言葉に自分の服の臭いをかぐレイヴン。
その仕草さえわざとらしく見え、ユーリも釘を刺した。

「余計な真似したら、オレ何するか分かんないんで、そこんところはよろしくな」
「な、なんか背筋が寒くなって来たわ・・・」














































どれほど奥へ入っただろうか、視界を防ぐように巨大な朽ち木がユーリ達の前に現れた。
その朽ち木の幹が割れている中をエアルが淡い光を発しながら立ち上っていた。

「これ、ヘリオードの街で見たのと同じ現象ね。
あの時よりエアルが弱いけど間違いないわ・・・」

遠目で見ていたリタがそう言うと、もっと近付こうと歩みを進める。
そこに、上から行く手を阻むように大きなサソリ型の魔物が降って来た。
凶暴さを隠さない魔物の様子に、エステルが思い出したように声を上げる。

「あの魔物もダングレストを襲ったのと様子が似ています!」
「来やがったぞ!」

各々が武器を取り、襲いかかってきた魔物を迎え撃つ。
しかし、凶暴性を増している魔物は怯む事なくこちらに迫ってくる。

「木も、魔物も、絶対、あのエアルのせいだ!」
「ま、また来た!」

退けたか、と思うと同じ種類の魔物が今度は複数降って来た。
魔物に取り囲まれ、退路を断たれたユーリ達は互いに背を合わせる。

「ああ、ここで死んじまうのか。さよなら、世界中の俺のファン」
「世界一の軽薄男、ここに眠るって墓に彫っといてやるからな」

囲まれながらも軽口を叩くレイヴンに、ユーリは武器を構えながら応じる。
素っ気ない応じように、レイヴンは眉根を寄せる。

「『そんな事言わずに一緒に生き残ろうぜ』とか言えないのぉ〜」

端から見れば絶体絶命のピンチ。
ユーリとレイヴンも言い合いしながらも活路を見出そうとする。
しかし、凶暴化した魔物に囲まれた状態では下手に動けば全滅の可能性の方が高い。
嫌な汗が滑り落ちる。
追い詰められた、そう思ったその時、また上から何かが降って来た。
重さを感じさせない着地を決めたのは魔物ではなく、白銀の長髪、赤黒い服に同色のマントを身につけた痩身の美丈夫だった。
その男は手にしていた剣で円陣を描き術式を発動させると、辺りは目映い光に溢れユーリ達の視界は白光に染まる。
腕を降ろした時、もうそこにはユーリ達を取り囲む魔物は全ていなくなっており、ただ男が静かに佇んでいるだけだった。

「誰・・・?」

今までであって来た人とは違う、神秘的な雰囲気を持つ男にエステルの疑問が口をついた。
そして、それまでの軽々しさが成りを潜めた声でレイヴンはその人物の名を呟く

「デューク・・・」

デュークと呼ばれた美丈夫は、鮮紅の瞳を向けただけでそのまま何も言わず踵を返した。
それに慌てたようにリタが声を上げる。

「ちょっと、待って!」

リタの制止の声に振り返る事なくデュークは立ち止まった。

「その剣は何!?見せて!」

デュークからの返答を待たずに駆け寄ると、リタは男の剣をじっと見つめる。

「今、いったい何をしたの?
エアルを斬るっていうか・・・ううん、そんなことは無理だけど」
「知ってどうする?」

考えても分からないリタは訊ねるが、デュークは冷淡に言葉を返す。

「そりゃもちろん・・・いや、それがあれば魔導器ブラスティアの暴走を止められるかと思って・・・
前にも魔導器ブラスティアの暴走を見たの。エアルが暴れて、どうすることもできなくて・・・」
「それは歪み、当然の現象だ」
「ひず、み・・・?」

デュークからの聞き慣れない言葉に、オウム返しにリタが呟く。
そんな二人にエステルがおずおずと近付きデュークがに頭を下げる。

「あ、あの、危ないところをありがとうございました」

そんなエステルをしばらく見下ろしたデュークは、警告するように口を開く。

「エアルクレーネには近付くな」
「え?」

言われている意味が分からないエステルは首を傾げる。
それはリタも同じようですぐにデュークに聞き返す。

「エアルクレーネって何?ここのこと?」
「世界中に点在するエアルの源泉、それがエアルクレーネ」
「エアルの、源泉・・・」

デュークの説明にリタは反芻するように顎に手を当てて考え込む。
そこに沈黙を守っていたユーリが歩み寄った。

「あんた、いったい・・・こんな場所だ。散歩道ってこともないよな?」
「・・・・・・」

ユーリの問いかけに沈黙をもってデュークは応える。
答えが返って来ない様子に、ユーリはそれ以上の追及を諦めた。

「ま、おかげで助かったけど。ありがとな」

ユーリから述べられた言葉を聞くと、デュークは止めていた歩みを再開させその場を立ち去って行った。
その背中を見つめながらリタは一人呟く。

「・・・まさか、あの力が『リゾマータの公式』
はぁ・・・ここだけ調べてもよくわからないわ。他のも見てみないと」
「他の、か・・・さっきの人、世界中にこういうのがあるって言ってたね」
「言ってたねぇ」

カロルに応じるようにレイヴンが頷く。

「それを探し出してもっと検証していないと確かな事は何もわかんない」
「・・・じゃあ、もうここで調べる事はないんです?」

エステルの問いかけに肯定を示すと、ユーリは気を取り直すように声を上げる。

「んじゃ、ダングレストに戻ってドンに会おうぜ」
























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2008.4.4