ーーNo.61 襲いかかる大群ーー
街の入口に着いたユーリ達は目にした魔物の数に驚きを隠せなかった。
「すげーな、こんだけの魔物、どっから湧いてくんだ?」
「ちょっと、異常だよ・・・」
「魔物の様子も普段と違いませんか?」
「来るよ!」
ユーリ達に気付いた魔物が一斉に襲いかかってきた。
しかし襲ってくるほとんどがその辺にいる雑魚ばかり。
難なく倒せるが、如何せん数があまりにも多過ぎた。
「あ〜、ウザイ!次から次へと・・・もぉっ!」
魔術を詠唱しながら腹立たし気にリタが叫ぶ。
リタを囲むようにユーリ、エステル、カロル、ラピードも魔物を迎え撃っていた。
そんなとき、避難していた女性の一人が足を取られ小さな悲鳴を上げる。
「きゃっ!」
「ちっ!」
それに気付いたユーリは自身に迫ってきた魔物の攻撃を紙一重で避け、女性に迫った魔物に衝撃波を放つ。
ユーリの攻撃を受け、目の前で魔物が消えた事で助けられたことに気付いた女性はユーリに礼を返す。
「あ、ありがとうございます」
「礼はいい!走れ!」
振り返らずに女性に答えると、その間にも襲ってくる魔物を斬り伏せる。
しかし、また魔物に追いかけられている住民を見つけたが、ユーリからは遠過ぎて助ける事ができない。
「くそっ!間に合わねぇっ!」
苛立ちを滲ませながら上空から襲ってきた魔物を叩き斬る。
すると、がたいの良い初老を過ぎたくらいの男が自身の大剣を一閃させ、魔物を消滅させた。
「さあ、クソ野郎共、いくらでも来い!
この老いぼれが胸を貸してやる!」
そう豪語し、襲ってくる魔物を手当り次第に倒し終えると、
その男は大剣を肩に担いだまま後ろに控えているだろう誰かと言葉を交わしているようだった。
歳に似合わない豪腕ぶりにユーリは物珍しそうに見つめる。
「とんでもねえじじいだな。何者だ?」
「ドンだ!ドン・ホワイトホースだよ!」
「あの、じじいがねえ」
カロルの声に幾分驚いたユーリが答える。
魔物の数の多さに退き気味だったところにドンが登場した事で、他のギルドの面々の士気が一気に爆発した。
「ドンだ!ドンが来たぞ!」
「一気に蹴散らせ!俺達の街を守るんだ!」
「我ら『暁の雲』の力を見せろ!」
ドンに続くように周りのギルドの面々も勢いを盛り返して魔物を討ち取る。
そんなギルドに混ざって帝国騎士もその喧騒に現れた。
見知ったその人物にエステルは嬉しそうに声を上げる。
「フレン!」
「魔物の討伐に強力させていただく!」
フレンがドンに伝えたが、その先の行動は大音声のダミ声によって阻まれた。
「騎士の坊主はそこで止まれぇ!
騎士に助けられたとあっちゃ、俺らの面子がたたねぇんだ。すっこんでろ!」
「今は、それどころでは!」
「どいつもこいつも、てめぇの意志で帝国抜け出してギルドやってんだ!
今更、やべえからって帝国の力借ようなんて恥知らずこの街にはいやしねぇよ!」
ドンからの言葉を受けてもフレンは尚言い募る。
「しかし!」
「ふん、そいつがてめぇで決めたルールだ。
てめぇで守らねぇで誰が守る!」
突き放し有無を言わせないドンの言葉にユーリは感銘を受けた。
「何があっても筋は曲げねえってか・・・なるほど、こいつが本物のギルドか」
「ちょっとそこの!案内しなさい」
「そこのって、ボクっ!?
え、ど、どこへ?」
そんなユーリの後ろでリタに声をかけられたカロルがキョトンとしていた。
意味が通じない言葉を細かくするようにエステルが説明する。
「結界魔導器を直しに行くんです。
このままでは魔物の群れに呑み込まれます!」
「ちょっとあんたも!」
「それしかなさそうだな」
未だに立ち止まっているユーリに声をかけたリタは、そのまま結界魔導器へと向け走り出した。
結界魔導器の前に着くと警備をしていたらしいギルド数人が倒れていた。
「・・・もう手遅れです。なんてひどい・・・」
膝を付いたエステルが悔しそうに俯く。
その間にリタは制御盤へと近付き、術式を出現させた。
「これなら、なんとかなるかも」
「リタ、危ない!後ろ!」
嬉しそうに声を上げたリタの後ろに、ハルルで襲われそうになった赤眼が降り立った。
「結界は直させんぞ」
「ったく、ほんとに次から次に!もう!!」
怒号を上げたリタを庇うように飛び出したユーリとラピード、それに応戦するように二人目の赤眼が斬りかかってくる。
しかし、人数の利から赤眼は間を置かずして倒された。
邪魔がなくなったことでリタは術式を展開し、調整のため指を走らせた。
「こっちも大変な騒ぎだね」
そんなユーリ達にフレンが駆けつけ、姿を認めたユーリが声をかける。
「なんだ、ドンの説得はもう諦めたのか?」
「今は、やれることをやるだけだ。
それに
にも頼まれたんだ、ユーリ達の手伝いをして欲しいってね」
「
が?会ったのか?」
その答えにフレンは頷き返すと、制御盤にいるリタに視線を送る。
「それで、結界魔導器の修復は?」
「天才魔導士様次第ってやつだ」
みんなが見つめる先に、リタは独り言を呟きながら調整を進める。
「・・・魔核は残ってる。術式いじって、止めただけね。
ん?これ、増幅器っ!?それにまた、この術式・・・
エフミドの丘のと同じ・・・」
「魔物の襲撃と結界の消失。同時だったのはただの偶然じゃないよな?」
「・・・おそらくは」
ユーリからの問いかけにフレンは頷く。
「お前が来たって事は、これも帝国のごたごたと関係ありってわけか」
「分からない、だから確かめに来た」
困惑しているフレンの横でユーリは顎に手を当て思案顔となった。
そんな中、最終調整の段階に入ったのかリタの声音はだんだんと高くなっていた。
「・・・これが、あれで、これが、こう!」
リタは調整を終えたようで、上空には結界の術式が再び展開された。
「さすがリタ!」
「よし、外の魔物を一掃する!
外ならギルドも文句を言うまい!」
控えていた部下にそう命じると、フレンも部下と一緒に街の外へ向かって駆け出した。
その姿を見送ったユーリ達は本来の目的の為、ユニオンに向かって歩き出した。
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2008.4.1