ーーNo.60 街を護る矜持ーー









































ドンと共に外に出た は、辺りの惨状に目を見張った。

「何なの、この魔物の群れは・・・」

ユニオンの前だけでなく、道を埋め尽くすほどに魔物が溢れていた。
思わず立ち止まってしまった歩みを再び再開させ、手近の魔物から薙ぎ払って行く。
警鐘によってある程度の避難が済んでいるかと思ったが、状況は芳しくなかった。

(「おかしい・・・魔物の様子がいつもより凶暴な気がする。
それにこの程度の魔物が結界を破って入り込むなんて」)

向かってくる魔物を片っ端から切り伏せ、住民の避難経路を確保し誘導する。
そんな喧騒の中、ジジッ、ビシッと耳障りな音が聞こえ、 ははっとしたように空を見上げた。
そこには街を護るように張り巡らせてあるはずの結界魔導器シルトブラスティアの術式が、不気味音を立てながら消えていくところだった。

「そんな!結界が!!」

は色を失い声を上げる。
どうにかしなくては、とドンを、あの大きな背中を探した。
ちょうどその時、魔物に追いかけられている住民が視界に入った。

(「くっ!間に合わない!」)

急いで駆け出したが距離が を阻む。
ダメか、とその時、探していたあの背中が大剣を振るい住民を追い立てていた魔物を一掃した。

「さあ、クソ野郎共、いくらでも来い!
この老いぼれが胸を貸してやる!」

住民が無事に逃げ出せた事にホッと息をついた だったが、上空からドンに飛びかかろうとした魔物に気付きナイフを放つ。
急所を正確に射抜かれた魔物がエアルとなって消えた。
それを横目で見たドンは振り返る事なく、笑みを浮かべる。

「悪ぃな、お前ぇがいれば負ける気がしねぇな」
「そんなことは・・・それより、結界が消えたの!
このままじゃ魔物の群れに呑み込まれるわ!」

の言葉にドンは上を見て目を細めた。
しかし、背後から向かってくる気配にドンは視線だけそちらに倣おうとしたがそれより先に声が響いた。

「魔物討伐に協力させていただく!」

部下を引き連れたフレンが声高に宣言すると、自身の剣に手を伸ばし抜こうとする。
それを遮るようにドンは大声を張り上げた。

「騎士の坊主はそこで止まれぇ!
騎士に助けられたとあっちゃ、俺らの面子がたたねぇんだ。すっこんでろ!」

ドンの声に動きを止めたフレンだったが楽観できる状況でない事に反論する。

「今は、それどころでは!」
「どいつもこいつも、てめぇの意志で帝国抜け出してギルドやってんだ!
今更、やべえからって帝国の力借りようなんて恥知らずこの街にはいやしねぇよ!」
「しかし!」

尚も言い募るフレンにドンは尊大に鼻をならす。

「ふん、そいつがてめぇで決めたルールだ。
てめぇで守らねぇで誰が守る!」

ドンとフレンのやり取りを見守っていた だったが、視界の端にユーリ達が走り去って行く姿を見留めた。
きっとリタが結界魔導器シルトブラスティアを見に行ったのだろうと予想をつけた。
まだ言い合いが続きそうな様子に はドンの前に出てフレンを見つめ返す。

「悪いわねフレン。ここは退いてもらえないかしら?」
!?どうしてあなたが・・・」

ドンに隠れて見えていなかったのか の登場にフレンは驚きの声を上げる。

「なんだ、おめぇら知り合いか?」
「ええ、帝国で仕事していた時にちょっと。ここは任せてもらえますか?」

振り向く事なく が問いかけると、ドンはその大きな手で の頭を乱暴に撫でると他のギルドを連れてそこを立ち去った。
が苦笑しながら髪を直していたが、フレンが何かを言おうとするのを制するように手を挙げ、口早に話し始める。

「フレン、あなたがここに来た目的はなんとなく察しはついてるわ。
そしてこの状況でのあなたが取りたい行動も分かる。
けど、その行動で帝国とギルドの関係が悪化、なんてことは避けたいでしょ?
こちらもそれは同じだから、退いてと言ってるの」
「そうは言っても・・・!」

諦めないフレンに はため息をつくと鋭く見つめ、淡々と言い放った。

「この街はギルドの、私達の街よ。
その街に侵入してきた魔物は私達、ギルドの人間が片付ける。
だから帝国の、騎士の手出しは許さない。手出しするなら誰だろうと容赦しない。
私がこんな状況で冗談を言わない事も、腕前もフレンなら分かっているわよね?」

きっぱりと反論を許さない言い様にフレンは悔し気に唇を引き結ぶ。
納得してもらったフレンに は視線を緩めると小声で囁いた。

「その代わり、じゃないんだけど・・・フレンは結界を直しに行ったユーリ達をお願い。
ユーリ達はまだギルドに入っていない。だからその手助けって名目で手を出しても問題にならない、でしょ?」

結界魔導器シルトブラスティアの制御装置の方へ向かったから、と はその方向を示した。
からの言葉の意味に気付いたフレンは目を瞬かせた。
意図を汲んでくれたらしいフレンに は微笑を向けると、先行したドンを追って駆け出した。
























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2008.3.29