が走り去った後、ユーリは盛大なため息をついた。
しかし、立ち止まっていてもしょうがないと本来の用事を済ませようと口を開く。

「ったく、あいつは・・・
さて、バルボスのことはどっから手を付けようか」
「それならユニオンに顔を出すのが早くて確実だと思うよ」

カロルの言葉にユーリの頭に疑問符が浮かぶ。
それを解説するように説明する。

「『ユニオンとはギルドを束ねる集合組織で、五大ギルドによって運営される』ですよね?」
「うん、それとこの街の自治もユニオンが取り仕切ってるんだ」

エステルの解説になるほど、とユーリは納得する。
だが、リタは腕を組みその解説に補足した。

「でも、いいわけ?バルボスの紅の絆傭兵団ブラッドアライアンスって五大ギルドのひとつでしょ?」
「ってことはバルボスに手出したら、ユニオンも敵に回るな」
「・・・それは、ドンに聞いてみないとなんとも」

カロルから出た名前にユーリは反応する。

「そのドンってのが、ユニオンの親玉なんだな」
「うん。五大ギルドの元首『天を射る矢アルトスク』を束ねるドン・ホワイトホースだよ」

立ち直りが早く今度は誇らし気にカロルは胸を張る。

「んじゃ、そのドンに会うか。カロル、案内頼む」

ユーリの言葉に固まったカロルは、やっと理解すると慌てて数歩後ずさった。

「ちょ、ちょっとそんなに簡単に会うって・・・
ボクはあんまり・・・」
「お願いします」

エステルにまで頭を下げられてしまったカロルは、暫く俯いた後ようやく口を開いた。

「・・・・・・ユニオンの本部は街の北側にあるよ」














































ーーNo.59 不穏な音ーー









































北側に向けて歩いていたユーリ達だが、カロルは挙動不審に辺りを見回している。
あまりにもキョロキョロと見回すカロルについにリタが呆れて問い詰める。

「あんた、何してんの?」
「え?な、なにって、べつに」

そうは言っても、どもってる上に声が裏返っている。
そんな広場の真ん中で立ち止まってしまったユーリ達に男が二人近付いてきた。

「ん?そこにいるのはカロルじゃねえか」
「どの面下げてこの街に戻ってきたんだ?」
「な、なんだよ、いきなり」

声をかけてきた男二人組みと面識があるらしいカロルは弱腰になりながらも言葉を返す。

「おや、ナンの姿が見えないな?ついに見放されちゃったか、あはははははっ!」
「ち、ちがう!いつもしつこいから、ボクがあいつから逃げてるの!」

必死に言い返すカロルにユーリは合点がついた。

(「これがあるから、ダングレスト行きを最初は嫌がったんだな」)

カロルをからかうのに飽きたのか、男達はユーリ達にニヤニヤと話しかけてきた。

「あんたらがコイツ拾った新しいギルドの人?
相手は選んだ方がいいぜ」
「自慢できるのは、所属したギルドの数だけだし。
あ、それ自慢にならねえか」

大口を開けて笑う男達に向かってユーリは面倒そうにあしらう。

「カロルの友達か?相手は選んだ方がいいぜ」
「な、なんだと!」

ユーリの言葉に険を目に宿し男が詰め寄る。
さらにエステルも男達に向かって指を突きつけて言い放った。

「あなた方の品性を疑います」
「ふざけやがって!」
「あんた、言うわね。ま、でも同感」
「言わせておけば・・・」

一触即発のその時、辺りに警鐘が響き渡った。
それの意味することを知らないエステルは首を傾げた。

「何の音・・・?」

しかし、その意味を知っている男達は顔を見合わせた。

「やべ・・・また、来やがった」
「行くぞ!」

言いがかりをつけた男達はそのまま走り去った。
辺りには地響きが徐々に近付いてきているのが感じ取れた。
訳が分からない、という面々にカロルが説明した。

「警鐘・・・魔物が来たんだ」
「魔物って・・・まさかこの震動、その魔物の足音・・・」
「だとすると、こりゃ大群だな」

驚きを隠せないエステルの隣で神妙な顔つきのユーリもそれに答える。
そんな二人を安心させるようにカロルが人差し指を立てた。

「ま、でも心配いらないよ。最近やけに多いけど、ここの結界は丈夫で、破られた事もないしね。
外の魔物だって、ギルドが撃退・・・」

そう言って上を見上げたカロルだったが、結界魔導器シルトブラスティアの術式が消えた事でその先の言葉が続く事はなかった。

「・・・って、ええっ!!」
「結界が、消えた・・・?」
「一体どうなってんの!魔物が来てるのに!」

愕然とエステルとリタが叫び声をあげる。
そんな中、ユーリだけが諦めたように重い溜め息をついた。

「ったく、行く場所、行く場所、厄介事起こりやがって・・・」
「何か憑いてるのよ、あんた!」

リタの張り上げた声に否定する事なくユーリは困ったように肯定した。

「・・・かもな」
「ユーリ、魔物を止めにいきましょう!」

エステルに頷き返すと、魔物が溢れているだろう街の入口へと駆け出して行った。

























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2008.3.28