辺りが橙に染まる頃、喧騒が響く街へと到着した。
「ここがダングレスト、ボクのふるさとだよ」
と、カロルが嬉しそうに説明する。
街に繋がる石橋の上から辺りを見回したユーリは感心したように呟く。
「賑やかなとこみたいだな」
「そりゃ、帝都につぐ第二の都市で、ギルドが統治する街だからね」
「もっとじめじめした悪党の巣窟だと思ってたよ」
からかったユーリの言葉にカロルは口を尖らせた。
「それって、ギルドに対する偏見だよね」
「紅の絆傭兵団の印象が悪いせいですよ、きっと」
慌ててエステルがフォローし、
はユーリの脇を肘で突く。
低く呻いたユーリにラピードは同情する視線を送った。
「ボクまで悪党なのかと思ったよ」
「あんたが悪党ならこいつはどうなるのよ」
リタがユーリを指差し
もそうそう、と応じた。
「ユーリみたいなのが帝都にいるのよ?カロルの故郷がここなら、よっぽど平和でしょ」
「・・・どういう意味だよ?」
復活したユーリが低い声で
に訊ねる。
だが、それに答える事なく
は話を続けた。
「悪いけど、ちょっと用事を済ませてくるから。
待ち合わせは・・・そうね、宿の方にしましょう」
じゃあね、と
はそのまま走り去った。
あの野郎・・・というユーリの呟きに笑いを噛み殺しながら。
ーーNo.58 ギルドの街ーー
ユニオンに到着した
は声をかけてくる仲間に手を振ったり、軽口を叩き合いながら奥の扉を目指した。
扉の前に立つと、一呼吸置いて乱れてもいない服を整えた。
そして、いよいよドアノブに手をかけようとした時、それは自動的に開かれた。
「・・・何やってんだ、お前」
「・・・」
扉を開けたのは、明るい黄金色の髪、髪に隠れていない
を見つめる日暮れ色の瞳。
このユニオンを束ねる五大ギルドの元首の孫息子のハリー・ホワイトホースが胡乱気な表情で
をみていた。
確かにドアノブに手をかけようとしたままの格好で固まっていたのだ。
周りから見れば、おかしなやつ、としか見られないかもしれない。
は気を取り直すように咳払いするとハリーににっこり、と笑いかけた。
「こんにちはハリー。ご機嫌いかが?」
「そうやったって、さっきのがチャラになる訳じゃないぞ」
ハリーの言葉に
は嘆息すると、腰に手を当てて指を突きつけた。
「相変わらず可愛げないわね。いつも難しい顔してると、眉間の皺が消えないわよ?
ほ〜ら、もうちょっと笑ってみなさいよ」
「うるせぇよ、じじいなら奥だ。さっさと報告済ませろよな」
それだけ言い残すとハリーは
に背を向けた。
いつもと変わらない様子に苦笑すると、
はその背中を呼び止めた。
「ハリー!」
「なんだよ」
「ありがと、そしてただいま」
「・・・おかえり、
」
今度は素直にそう言うとハリーは踵を返して歩き出した。
その背中をみていた
も扉へと向かった。
扉をくぐった部屋は五大ギルドの首領が集まり、街の方針、発生した問題を話し合う場所だ。
その部屋の一番奥、元首が座る場所に
が会いにきた人物が座っていた。
何者にも屈しない鋭い眼光、顔に引かれる目を通る二本の赤い装飾のライン、長い白髪、大柄な体は存在そのものの大きさを表しているようだった。
その人物はギルド『天を射る矢』の首領にして、このダングレストの元首。
名をドン・ホワイトホースと言った。
ドンは背もたれに体重を預けながら、幹部らと言葉を交わしているところだった。
に気付いたドンは話を中断し、その前で一礼した
は片膝を付いた。
「自由な風、遅かったじゃねえか?道中なんかあったか?」
「すみません、色々ハプニング続きだったので・・・」
「そうか、まぁ無事ならいいってことよ。
早速だが、報告を聞こうか」
ドンが座を正すと、
は報告を始める。
帝都をはじめとした魔核の相次ぐ盗難、それが帝国の高官そしてギルドの首領が絡んでいること。
そして、海凶の爪がそれを仕事としている事を報告する。
「ーー今のところ、物的証拠は見つかっていません。
ギルドとしてのケジメを付けるのであれば、現在の状況証拠だけでは言い逃れされる恐れが・・・」
「そうか、ならそのまま仕事を続けてもらうか」
報告を聞いたドンは難しい顔をしながら答え、
はさらに続けた。
「それと、今評議会と騎士団の抗争が表面化しつつあります」
「ほぉ」
「皇位継承の動きが活発化してるようです」
「それで?その次期候補は分かってるのか?」
「一人は先代の甥御のヨーデル殿下、もう一人は・・・」
「どうした?」
「・・・いえ、もう一人はここまで旅の道中一緒だったエステリーゼ殿下です」
「そうか。まぁいずれにせよどっちになるか分かんねぇんだ。
動きを追っとくことに越したこたぁねぇ」
今は引き続き様子見というドンの答えに、幾分ほっとした
は頷いた。
「承知しました。それと最後に一つ確認したいことが・・・」
「何だ?言ってみろ」
「遺構の門、です・・・彼らの動きに気を留めてもらえれば、と。
何も問題を起こしていないのは知っています。
しかし、予感というか・・・
はぁ、すみません。曖昧過ぎました、忘れて下さい」
の謝罪にドンは鼻を鳴らし、前にかがみ込み膝に肘をついた。
「おめぇの目は俺が信頼を置いてる。おめぇがそう思うなら気にしといた方が利口だろう」
「ありがとうございます」
「いいか、おめぇら!今聞いた話は他言無用だ、分かったな!!」
周りにいた天を射る矢の幹部の頷きを確認すると、ドンは立ち上がり
の頭を乱暴に撫でた。
「ご苦労だったな。おかえり、
」
「ただいま帰りました、ドン」
乱れた髪を直しながら
は苦笑しながら挨拶を返す
ドンの朗らかな表情に
の口調も仕事の面持ちとは違う、砕けたものとなった。
「さぁ、無事に帰ってきたんだ。ここは酒場で盛大にーー」
ドンの言葉を遮るように警鐘が響き渡った。
次いで年若い門番が部屋に飛び込んできた。
「た、大変です!魔物の大群がまたやってきます!」
「また来やがったか?」
「また?最近もあったってこと?」
の問いかけに頷くと、ドンは大声を張り上げた。
「野郎共、武器を取れ!
魔物なんぞにこの街を荒らされるんじゃねぇぞぉ!!」
その声に慌ただしく応戦の準備が進められる。
ドンも自身の大剣を担ぐと
に視線だけ振り向く。
「悪ぃな。宴会は蹴散らした後だ」
「分かってる。私も行くわ」
も装備を確認するとドンと共に外へと駆け出した。
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2008.3.28