ーーNo.57 沈みゆく太陽に向かってーー









































襲撃を受けたユーリ達の元に騎士団がすぐにやって来た。
危険を回避するため、すぐに帝都に戻るとアレクセイの指示があったため、
ユーリ達はフレンがいる結界魔導器シルトブラスティアの広場へと向かった。
だが、

「フレンって騎士、いないじゃない」
「このままボクらについてくる?」

カロルの言葉に数呼吸ののち、エステルが口を開く。

「・・・そうですね。そうしてもいいです?」
「カロル、お姫様をたぶらかすな」

そんなカロルをユーリが窘める。
そして、ちょうどその会話が聞こえていたらしいアレクセイがユーリ達に話しかける。

「勝手をされては困ります。
エステリーゼ様には帝都にお戻りいただかないと。フレンは別の用件がありすでに旅立った。
さて、リタ・モルディオ、君には昨日の魔導器ブラスティアの暴走の調査を依頼したい」
「・・・あれ調べるのはもう無理。
あの子、今朝少しみたけど、結局何もわからなかったわ」

リタからの返答にアレクセイは首を振った。

「いや、ケーブ・モック大森林に行ってもらいたい。
最近、森の木々に異常や魔物の大量発生、それに凶暴化が報告されている。
帝都に使者を送ったが、優秀な魔導士の派遣にはまだまだ時間を要する」
「あたしの専門は魔導器ブラスティア。植物は管轄外なんだけど?」
「エアル関連と考えれば、管轄外でもないはずだ」

片手を米神にあてながら答えたリタにアレクセイはすぐに切り返す。
そんなアレクセイにリタは口ごもりながら言葉を続ける。

「それに・・・あたしは・・・エステルが戻るなら、一緒に帝都に行きたい」
「え?」
「・・・君は帝国直属の魔導器ブラスティア研究所の研究員だ。
我々からの仕事を請け負うのは君たちの義務だ」

アレクセイからの答えに、体格差をものともせずリタは下からアレクセイを睨み返す。
不穏な空気となってきたのを感じ取り、エステルがリタの傍へと歩み寄った。

「あ、え、えっと・・・それじゃあ、わたしがその森に一緒に行けば問題ないですよね」
「姫様、あまり無理を仰らないでいただきたい」
「エアルが関係しているなら、わたしの治癒術も役に立つはずです」

宥め聞かすように答えたアレクセイにエステルも負けじと言葉を返す。

「それは、確かに・・・」
「お願いです、アレクセイ!わたしにも手伝わせてください」
「しかし、危険な大森林に、姫様を行かせるわけには」

必死に頼み込むエステルにアレクセイも思案顔となる。
帝都の状況が状況だけに護衛の騎士を割くのは難しいのだろう。
さらに、エステルは次期皇帝候補の一人。そして騎士団と対立している評議会の推薦を得ている。
そんなエステルが怪我でもすれば、評議会から騎士団に対する批判はますます強まるだろう。

「それなら・・・ユーリ、一緒に行きませんか?」
「え?オレが?」
「ユーリが一緒なら、構いませんよね?」

エステルはユーリの答えを聞かず、アレクセイに振り返る。
しばらく考え込んだアレクセイは、仕方ない、とばかりに向き直る。

「青年、姫様の護衛をお願いする。
一度は騎士団の門を叩いた君を見込んでの頼みだ」
「・・・なんでもかんでも勝手に見込んで押し付けやがって」

舌打ちをしたユーリが、迷惑そうにアレクセイの視線から背を向ける。
悪態をつくユーリにアレクセイは口端を上げる。

「その返答は承諾と受け取っても構わないようだな」
「ただし、オレにも用事がある。森に行くのはダングレストの後だ」

あくまで条件付きだ、と強調したユーリにアレクセイは頷き返す。

「致し方あるまい」
「さ、話はまとまった。さっさと出発よ〜」

アレクセイの返事を聞いたユーリがすぐに歩き出してしまい、離されないようにとリタとカロルの背を押し も歩き出した。
そんな を呼び止めるようにアレクセイが声をかける。

君。昨日の話だが・・・」
「もう出発するんですけど」

嫌悪感をむき出しに答える にアレクセイは構わず質問をする。

「簡単な質問だ。まず、君に兄弟はいるかな?」
「・・・プライベートな質問ですね。お答えする義理はありません」

斜に構えたまま、にべもなく は答える。

「では、出身くらいなら教えてもらえるかね」
「愚問です。これで失礼します」

口早に背を向けて歩き出す に、アレクセイは顎に指をかけ、数センチ剣を上げた。
僅かな音にも関わらず、 はすぐに距離を取り、双剣へと手をかけ構えた。

「・・・どういうつもりです」
「いや、失礼した。
知り合いに君が似ていたものでね。少し確認したかっただけだ」

朗らかに答えるアレクセイに、警戒を解かず は辛辣に皮肉る。

「随分、血なまぐさい知り合いがいらっしゃるんですね」
「どうやら人違いのようだ。無礼を詫びよう」
「結構です」

鋭い眼光を送った はそのままアレクセイに背を向け、ユーリ達を追いかけて結界の外へと駆け出した。

「君やってもらう仕事ができた」

が去った後、結界魔導器シルトブラスティアの陰から出てきた影にアレクセイが呟いた。
それが動き出した後、音もなくアレクセイの背後に人影が片膝をついていた。

「間違いないか?」
「ええ。あれが生き残りです」
「ふむ、障害になるなら君に任せよう」
「御意」

フードを目深に被り、さらに顔を仮面で隠した人物にそれだけ言い残すと踵を返し歩き去る。
アレクセイが去った後には、そこに人がいた痕跡はなくなっていた。
























Back
2008.3.26