ーーNo.56 明かされた秘密ーー









































エステルが眠りに落ちて暫く経った。
額の上のタオルを換えようとした だったが、ちょうどリタが目を覚ました。

「あ、気が付いた?私のこと分かる?」
「・・・ええ。ここは・・・」

まだぼんやりとしているリタに が答えを返す。

「宿よ。まだ起きない方が良いんじゃない?」
「平気・・・それより、なんでエステリーゼがこんなところで寝てるの?」

ベッドに寄り掛かるように眠っているエステルに視線を送ってリタが問いかける。
それに苦笑いを浮かべて が答える。

「あ〜、言う事聞いてくれなくてね・・・
元気になったなら良かったわ、けど・・・」
ーーペチッーー
「った!な、なにをーー」
「心配したわ。無茶はしないようにってユーリにも言われてたんじゃないの?」

怒った声ではなく、ただ淡々と は言葉を紡ぐ。

「・・・」
「エステルの性分も分かってるでしょ?
これからは突っ走った行動は自粛してよね」

の言葉にリタは口ごもりながらも、返事を返す。

「・・・ご、ごめん」
「もういいわ。病み上がりでしょ、まだ横になってたら?」

それにリタは首を振った。
ならばと、 はリンゴを差し出し互いに口にした。
食べながら会話を交わしていると、リタが意を決したように に問いかけた。

「え、と・・・一つ聞いてもいい」
「どーぞ」

が返事を返しても、リタはなかなか口を開かない。
根気強く待っていると、ちいさな呟きが響いた。

「エステリーゼって・・・あ、あたしのこと、どう思ってると思う?」
「あれ?結構言ってるのに気付いてないの」
「え?」

リタの驚いた顔に苦笑をこぼすと、 は記憶を手繰るように顎に手を当てる。

「そうね〜、自分が何が大切か分かっててすごい、とか〜
ひたむきなまっすぐさが羨ましい、とか〜。あとは・・・」
「わ、わかったから。それ以上いいわよ」
「・・・そして、そんなリタと友達になれて凄く嬉しいって」

照れたリタは言葉に詰まり、口ごもってしまった。

「あ、う・・・そ、そう」
「ふふ、友達は大切になさい」

素直な反応をするリタを優しい面差しで は微笑む。

「・・・そういえば、エステリーゼの治癒術なんだけど」
「うん?」

エステルの寝ている横で、リタはさらに続けた。

はもう分かってるんでしょ?武醒魔導器ボーディブラスティアを介していないって」
「う〜ん・・・天才魔導士様が確信を得てるのに隠してもしょうがないわね〜」
「それっていつかーー」

タイミング良くドアのノックが響きリタの言葉の続きは遮られた。
立ち上がろうとしたリタを制し、 はドアへと歩き出す。
開けてみると、そこにはユーリがおり は半眼を向ける。

「・・・なんか、タイミングが良いわね。盗み聞きしてた?」
「バカ言ってんなよ。どうだ、様子は?」
「ん〜、とりあえずは心配ない、かしらね」

そう言った がドアから体をずらし、ユーリを部屋へと入れる。
ユーリはそのままリタとエステルがいるベッドへと近付いた。

「目、覚めたか。良かったな。
ったく、あれほど倒れる前に言えって言ったのに。
何見てたんだよ」

後半を に向かってユーリは言葉を投げる。
言いがかりに近い物言いに、 は腕を組んでリタのベッドの隣に座った。

「言ってくれるわね。やっと頼み込んで治癒術やめさせたのよ。
ベッドで横になるように言ったけどここで良いって言い張るんだもの。
それとも、お姫様相手に手荒な事してでも休ませろって?
フレンに殺されるわよ、ユーリが」
「だからってな・・・つーか、オレかよ」
「それくらいにしてよ。わかってたんでしょ?
言っても聞かない事くらい」

さらに続けようとするユーリをリタが遮った。
庇われる形となった は、いつもと違う様子にキョトン、と目を見張る。

「うう〜ん、ふにゅう〜・・・」
「・・・幸せそうな顔しちゃって」
「せっかくユーリも居るんだし、さっきの聞いてみたら?」

エステルの寝言に微笑みを浮かべたリタに、 は思い出したように話す。

「べ、別にいいわよ」
「いいじゃない。私とユーリの見解は違ってるかもしれないわよ?」
「何の話だ?」

焦ったリタにユーリは面白そうに聞き返す。

「エステルがリタをどう思ってるかって」
「んな!なに勝手に言ってんの!
って、あんたもなんて顔してんのよ!」

思ってもみなかった言葉に、ユーリは驚愕のあまり固まってしまった。
そんなユーリにリタも状況を顧みず怒鳴り返す。

「自分がどうみられてるかなんて気にしてないと思ってた」
「も、もういい。あっち行って」
「術式なんぞより、こいつは難しくないぜ」

赤くなった頬を隠すように横を向いたリタに、ユーリは苦笑を浮かべエステルを指差しながら答える。
すると騒いでいたせいかエステルの体が僅かに反応した。

「ふむぅ・・・あれ?
リタ!目が覚めたんですね!あ、でも油断したらだめですよ!
治ったと思った頃が危ないんです」

寝起きにも関わらず、リタに詰め寄るとエステルはリタに治癒術をかけた。

「もう、大丈夫よ。
あと、魔導器ブラスティア使うフリもうやめていいよ」

あまりにも心配するエステルにリタは微笑を浮かべて答える。
それと対照的にリタの言葉を受けたエステルはギクリと身を固めた。

「な、何の事です?」
魔導器ブラスティアなくても、治癒術使えるなんてすげーよな」

はぐらかそうとしたエステルにユーリも言葉を続ける。
誤摩化しきれない状況に、エステルは俯いてしまった。

「ど、どうしてそれを・・・」

エステルの言葉を遮るように、聞き覚えのある咆哮が轟いた。

「なんだ!?」
「あ、バカドラ!」

突如現れた竜使いは、こちらを見据えると魔物がこちらに向かって炎を放った。
それに立ちはだかるようにユーリと が飛び出した。
一発はユーリが何とか防いだが、防ぎ切れなかった炎がエステルとリタに向かう。

「させ、ない!」

の目前で魔術がギリギリで完成し、互いに相殺され爆風が吹き荒れる。
それに紛れて、竜使いはそのまま姿を消した。

「リタ、大丈夫ですか!?」
「あんたって子は・・・」

リタに覆い被さっていたエステルがベッドの影に移動して無事を確認する。
そんなリタはエステルの行動に憤慨した。

「無事か?」
「はは〜、さすがにいきなり発動ってのはきついわ〜」

ユーリに応じた は爆風で汚れたコートの裾を払う。
すでに消えた竜使いにリタは怒りを滲ませた。

「大事な話の途中だったのに」
「エステルの治癒術に関しては、とりあえずここまでだな」
「別にいいわよ。あたしはだいたい理解したし」

打ち切りとなった会話に、リタが盛大にため息をつく。
しかし、エステルの心配そうな顔にユーリはおどけてみせた。

「なに、悪いようにしないって。
オレ、そんなに悪い奴に見える?」
「見えるわ」
「鏡貸しましょうか?」

ユーリの言葉をリタと が切り返し、そんな様子にエステルから笑がこぼれた。

























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2008.3.25