ーーNo.54 結界魔導器シルトブラスティアの暴走 後ーー









































外に出たユーリ達は結界魔導器シルトブラスティアの様子に驚愕した。
通常では有り得ない光を発し、魔導器ブラスティアを中心にエアルが目に見えるほど漂っていた。
結界魔導器シルトブラスティアの近くにいた人は高濃度のエアルによって次々と倒れていく。
その状況にリタは結界魔導器シルトブラスティアに近付こうと走り出す。
が、寸前で追いついたユーリがリタの腕を掴んだ。
自分を阻んだ相手に、少女は怒りを露にした。

「ちょっとはなしてよ!この子、ほっとけないのよ!
エアルがバカみたいに出てる!この濃度じゃ命に関わるわ!」
「お前だって、危ねえじゃねえか!」

ユーリの制止を聞かないリタだったが、再度立っていられないほどの震動で外にいた人々は皆バランスを崩した。
その隙にリタはユーリの腕を振りほどき、エアルが満つる結界魔導器シルトブラスティアへと走り寄っていった。

「ぐっ!あの魔導器ブラスティアバカ!」
「ユーリ、大丈夫!?」

エアルに酔って呻き声をあげるユーリに が走り寄る。
その問いかけに頷くと、青年は走り出して行ったリタに視線を向けた。
高濃度のエアルの中、少女は結界魔導器シルトブラスティアに辿り着き、システム調整を行うため制御術式を展開した。

「大丈夫、エアルの量を調整すればすぐに落ち着くから。元通りになるからね!」

その小さな後ろ背を見守ることしかできない中、フレンが他の騎士を連れ広場へとやってきた。
結界魔導器シルトブラスティアを何とかしようとしているリタを見留め、色を失う。

「危ない!今すぐ離れるんだ!」

焦った声が響く中、アレクセイが合流しフレンに指示を出す。

「・・・市民を街の外へ誘導だ。あと姫様を含めた彼らも」
「はい」
「エアルの暴走だ。どうなるか想像がつかん」

緊迫した面持ちで魔導器ブラスティアを見据え、アレクセイは他の騎士にも次々に指示を飛ばす。

「・・・そんな!この子の容量を超えたエアルが流れ込んでる。
このままじゃ、エアルが街を呑み込むか、下手すりゃ爆発・・・」
「な!ば、爆発だって!冗談じゃないぞ!」
「みんな逃げろ!急げ!」

リタの呟きにパニックに陥った市民が一斉に駆け出した。
騎士団はなんとか誘導しようとするが、逃げ惑う住民にそれは届かない。

「リタ!」

騒ぎが大きくなったせいか、詰め所にいるはずのエステルが外へと出てきた。
そしてユーリ達が気付いたときにはもう遅く、エステルは少女の元へと走り出していた。

「姫様!?」
「ちっ!」
「エステリーゼ様!」
「ダメ!エステル!」

が伸ばした手は空を切り、エステルを捕らえることができない。
走り寄るエステルの後ろ姿は、エアルとは違う、自身から発しているような光に包まれていた。
それを目にしたユーリは、はっとしたように呟く。

「あいつ!」
「余計な事考えない!今はあの二人を、なんとか助けないと」

片膝を付いたまま は苦しそうにユーリを制する。
切迫した状況にユーリの口調も厳しくなる。

「なんとかって、手でもあるのかよ!」
「防御壁を・・・こんな濃度のエアルの中、しかも離れた二人を包めるようなもの構築するなんて、やったこと、ないけど・・・」
「あんな距離で爆発なんてことになったら」
「そんなこと、させない」

最悪な状況、そんな考えを振り払い は術式を展開しようと集中した。

「リタ!大丈夫?」
「・・・エステ、リーゼ・・・」

リタの元にたどり着いたエステルは気遣わし気に見つめる。
そんなエステルが柔らかな光に包まれている事に、少女は瞠目した。
しかし、それ以上の考えを振り払うように頭を振ると、再び術式に向き直る。
ようやく、結界魔導器シルトブラスティアの調整が済み術式を閉じた。

「よし、できた!きゃああああっ!

辺りに強烈な閃光が走った。

「くそっ!どうなってーー」
「リタ!しっかりしてぇ!!」

腕をかざして視界を遮っていたユーリの耳にエステルの叫びが突き刺さる。
その絶叫に皆が一斉に視線を戻す。
そこには倒れたリタに傷だらけになったエステルが治癒術をかけている所だった。

「・・・はあ、はあ・・・
リタを、休ませる部屋を・・・準備してください・・・」

息も切れ切れなエステルにユーリとフレンが走り寄る。

「何言ってやがる。お前もぼろぼろじゃねえか」
「すぐに準備を・・・彼女は私が連れて行きましょう」

騎士団が二人を宿へ連れて行くのを見送ると、未だに片膝を付いている へと歩み寄った。

、うまくいったのか?」
「ギリギリ。申し訳程度だけどなんとか、ね。
無傷とまではいかなかったけど助かったでしょ?」

ユーリから差し出された手を取り、立ち上がった は片目を瞑って答える。
顔色が優れない に口を開きかけたユーリだったが、それを遮るように は首を振った。
仕方ない、とユーリはまだ座り込んでいるカロルに声をかける。

「カロル、立てるか?」
「う、うん・・・」
「オレ達も行くぞ」

ユーリ達はそのままフレンの後を追って宿へ向かった。
しかし、 は続く事なく今は静まっている結界魔導器シルトブラスティアに視線を注いだ。

(「・・・確かに防御壁は展開できた。けど、あそこまで怪我がないほどの強度じゃなかたはず。
・・・一体どうして・・・」)

いくら考えても理由は分からなかった。
ひとまずその問題は捨て置こうと、 もユーリ達の後を追おうと踏み出した。
が、

「?」

誰かの視線を感じた気がした。
しかし、避難の済んだ街は閑散としており、人の賑わいはない。
唯一の音源は宿に運ばれたエステル達の対応だろう。

「気の、せい・・・?」

釈然としないながらも、エリカはユーリ達を追って宿へ向かった。
その姿が宿へ消えると、一つの影が柱の陰からスルリと動き出した。



















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2008.3.25