ーーNo.52 しばしの休息ーー
みんなと別れ街を見終わったユーリは宿へと足を向けていた。
その途中、フレンとヨーデルを見つけ向こうもユーリに気付いたようだ。
「なんだ、ご両人。やっぱ居たのかよ」
馴れ馴れしい言葉にフレンは窘めるように言葉を返す。
「ユーリ、殿下に対して少し口の利き方が失礼だ。
せっかくご厚意で君の罪を全部白紙にしてくださったのに」
「いいんですよ、フレン。私とエステリーゼで勝手にやったことですから」
微笑を浮かべて応じたヨーデルだったが、フレンの表情は冴えない。
それ以上の小言を呑み込んだフレンは話題を変えた。
「エステリーゼ様の事は、もう聞いてるみたいだな」
「ああ」
「ユーリと一緒にいるほうが、エステリーゼ様のためになると思ったんだが・・・」
憂いを帯びた声にヨーデルは、柔らかい声音はそのままに、しかしはっきりと言葉を口にする。
「皇族がむやみに出歩くものではありませんからね」
「それ、あんたが言っても説得力ねえよ」
「はは、面目ない」
捕らえられていたことを指摘されたヨーデルだが、大して気にした風でもなく微笑を崩さない。
だが、次の言葉から表情が引き締まった。
「けど、特に今は皇族の問題を表沙汰にする時期ではありません」
「その問題ってのは、あんたと姫様、どっちが次期皇帝かってことだよな?」
「ええ、今は意見が二つに分かれ、騎士団と評議会でもめています」
隠すべき事情を否定しなかったヨーデルにフレンは抗議の声を上げる。
「殿下!」
「ここまで分かっていて、今更隠せるものでもないよ。
騎士団は私を次の皇帝に、と推してくれています。エステリーゼは、評議会の後ろ盾を受けています」
淡々と現在の帝国の状況、エステルの立場の説明をする渦中の人物の言葉にユーリは思わず本音が漏れる。
「ホントにお姫様なんだな・・・」
「ええ、遠縁でありますが、エステリーゼは間違いなく皇族です。
本来であれば皇帝補佐官が次期皇帝の選任を主導するのですが・・・先の大戦で代々仕えていた一家が没落してしまいまして」
小さく嘆息したヨーデルにユーリが首を傾げる。
「大戦って10年前の?」
「人魔戦争、ですか」
「ええ」
「補佐官をしてた一家がなんで戦争で没落すんだ?戦場には行ってなかったんだろ?」
再びの問いかけに、ヨーデルは眉根を寄せて困惑した表情を浮かべた。
「・・・それが、詳細は分かっていないんです。
その当時、その一家には18歳で皇帝の国政を補佐し魔導器研究まで手がけていた博学な方と、若干13歳で範士の称号を取れるほどの実力を持った兄弟がいた
と聞きます。
長子の方は体が弱く戦場には行く事はなかったようですが、下の方は腕を買われて前線に出たとか・・・」
「ふ〜ん、そんなガキが前線に出るなんて相当の手練だったんだな」
ユーリの言葉にヨーデルは頷く。
その隣でフレンが顎から手を離しヨーデルに問いかける。
「では、お二方とも大戦中に?」
「亡くなった、と記録されています。他の一族もその大戦で・・・」
しんみりとした空気が流れ、そんな雰囲気を払拭しようとユーリは論点をずらした。
「ところで、その手練って騎士だったわけ?」
「ええ。幼過ぎて隊を率いることはできませんでしたが、剣戟の腕前は卓越していた様です。
腕前だけなら師団を相手にしても引けはとらないでしょうね」
「・・・そりゃ、すごい奴だな」
ユーリの驚愕した表情に、ヨーデルが微笑むと表情を再び引き締めた。
「話が逸れましたが、そのような経緯で皇帝補佐官を評議会と騎士団、協力してその役割を担う事となったんですが・・・」
今のような状況に、とヨーデルが困ったように答える。
その答えに、フレンが置かれている複雑な事情を察したユーリは同情した視線を送る。
「なるほど。そりゃ、騎士団も大変だな。
競争相手とはいえ、お姫様の身辺警護に手を抜く訳にもいかねえってことか」
「ユーリ。これは、その・・・」
続きを濁すフレンの先を汲み取り、ユーリは不敵に笑い返す。
「オレの知り合いに、こんな情報欲しがる変人いねえよ。
あ・・・いや、いるか。一人だけ」
「ん?それは誰の事だい」
「お前も知ってるだろうが・・・
だよ。
まぁ、あいつならもう知ってるような気がするけどな」
ユーリの言葉にフレンも納得し頷いた。
ヨーデルが不思議そうに首を傾げると、フレンがかいつまんで説明する。
「その方にはあなたと共に助けていただいていますし、しっかりと御礼をしたいですね」
「あいつにゃいらんと思うけど、そう伝えておいてやるよ。
んじゃ、オレ、このまま宿屋で休んでくっから」
ユーリは片手を上げて二人と別れ宿屋へと歩みを進めた。
宿に着くと、先に着いていた
がソファでくつろぎユーリに向かって手を振っていた。
「これからエステルに会いに行くの?」
「ああ。
は行ったのか?」
ユーリの問いかけに首が横に振られる。
「行ったけど休んでるみたいだったから、ここでみんなが来るの待ってたのよ」
「そうか。なら話すのは明日にでもするか」
の言葉にユーリもソファーに座り、他の仲間が来るのを待つ事にした。
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2008.3.23