ーーNo.50 追いついた騎士団ーー









































やっと出口に着いた、そう思ったがラピードが急に警戒するように唸り声を上げた。

「グルルルルル」

ラピードの様子にユーリ達は足を止めると、物陰から薄紫の長髪をなびかせた男が気取った足取りで行く手を遮った。

「ようやく見つけたよ愚民ども。そこで止まりな」
「わざわざ海まで渡って、暇な下っ端どもだな」
「無自覚な奴にわざわざ言ってあげてる私達って親切心に溢れてるわよね〜」

面倒そうにユーリが言った事に、も同じように応じる。

「くっ・・・キミらみたいな下民に下っ端呼ばわりされる筋合いないね。
さ、姫様。こ・ち・ら・へ」

二人の言葉に顔色を変えたキュモールだったが怒りはとりあえず捨て置いたようで、こちらに向かって勿体ぶったように手を差し出す。
それを見たは、画す事なく心底嫌そうな顔をする。

「・・・私は何があっても、絶っっっ対、あんな奴の手は取らないわ」
「え、姫様って・・・誰?!?」
「ちょっとー、冗談でもそんな身の毛がよだつようなこと言わないでよー。
いくら温厚な私でも怒っちゃうわよー」
「いひゃい!いひゃい!ご、ごふぇんあはい!」

笑顔でカロルの両頬を引っ張るに、涙目になりながらカロルは身をよじる。

「おいおい、姫様は姫様だろ。そこの目の前の、な」
「え・・・ユーリ、どうして、それを・・・」

エステルはユーリの言葉に驚いて振り返った。
それでようやく誰のことか分かったのか、からどうにか逃げ出せたカロルは、抓られた頬を押さえながら驚きの表情を浮かべる。

「え・・・エステルが、姫様?」
「やっぱりね。そうじゃないかと思ってた」
「え、リタも・・・?」

腕組みしたリタも知っていた事に、エステルは再び驚く。

「ね、ねえ、は知らなかったーー」
「って、カロルは思う訳?」
「・・・」

見上げた少年には再びにっこりと笑みを向けると、カロルとエステル、二人分の驚愕した視線が向く。
カロルは自分だけ知らなかった事実にショックを隠しきれない。

「ちょ、ちょっとそんな・・・」
「カロルはこれから状況把握の目を鍛えなきゃね」

肩を落とすカロルには苦笑を零す。
自身の正体が明らかとなったエステルは、キュモールに数歩近付き探るように言葉を発する。

「・・・彼らをどうするのですか?」
「決まってます。姫様誘拐の罪で八つ裂きです」
「待ってください、わたしは誘拐されたのではなくて・・・」
「あ〜、うるさい姫様だね!さっさとこっちに来てくださいよっ!」

誤解を解こうとしたエステルに、キュモールはイライラと言葉を荒げる。
そればかりか、自分の部下で取り囲んだ上、鞘から剣を突きつけた。
あまりにも目に余る行動に、はすぐにエステルの手を引きユーリの背後に導いた。

「まったく、とんだエスコートもあったものね。
今の貴族様ってみんなこうなのかしら?」
「そっちのハエはそこで死んじゃえ!」

はいつでも抜けるよう身構え、喚くキュモールと前に立ち塞がる騎士団をひた、と見据える。
睨み合いが続くかと思ったその時、新たな声によって幕が降ろされた。

「ユーリ・ローウェルとその一味を罪人として捕縛せよ!」

その声で振り返ったキュモールは、予想外の人物の登場に焦ったように声を上げる。

「げっ・・・貴様ら、シュヴァーン隊!
待ちなよ!こいつは僕の見つけた獲物だ!むざむざ渡さんぞ!」
「獲物、ですか。任務を狩り気分でやられては困りますな」
「ぐっ・・・」

的を得た正論にキュモールは言葉に詰まる。
面子を潰された怒りを滲ませているキュモールにルブランはさらに詰問する。

「それに先ほど、死ね、と聞こえたのですが・・・」
「そうだよ、犯罪者に死の咎を与えて何が悪い?」

挫かれた威厳を保とうと、虚勢を張るキュモールだったがさらにルブランは切り返す。

「犯罪者は捕まえて法の下で裁くべきでは?」
「・・・ふん、そんな小物、お前らにくれてやるよ」

説かれた騎士道に一言も反論できず、キュモールは悔し気に捨て台詞を残して去っていく。

「シュヴァーンといい、フレンといい、貴族でもなく成り上がりのくせに偉そうに・・・
これというのも、あの騎士団長が・・・」
「その成り上がりに劣ってるあれで騎士団長になるっていう誇大妄想してるんだから底が知れるわよね〜」
「だからずっと下っ端なんだろ」

ブツブツと嫌味を呟く後ろ姿に呆れながら、は柄から腰に片手を当て盛大なため息をついた。
ルブランはユーリの後ろにいるエステルにキュモールとは天と地ほど違う丁寧な対応を取っていた。

「ささ、どうぞ姫様はこちらへ。あ、お足元には気をつけて・・・」
「あの、わたし・・・」
「こちらへどーぞ!」

有無を言わさない騎士団にエステルは渋々ながらユーリ達から引き離された。
距離が空いたところで、ルブランはユーリ達に向かって大きな宣誓を上げる。

「こやつらをシュヴァーン隊長の名の下に逮捕せよ!」
「ユーリ一味!おとなしくお縄をちょうだいするであ〜る!」

アデコールの声で、ユーリ達は次々と後ろ手に縄をかけられていく。

「ちょっと一味ってなによ!はなせ!あたしを誰だとーー」
「私も捕まる心当たりなんてないんだけどな〜」
「・・・お前はありすぎだろ」
「ボ、ボクだって何もやってないのに」

凄まじい抵抗(1名のみ)をみせるユーリ達に、エステルが悲鳴に近い声を上げる。

「彼らに乱暴しないでください!お願いです!」
「エステル、心配しなくてもいい」
「ユーリ・・・」

ユーリから宥められても、心配そうな表情を崩す事なくエステルは成り行きを見守っている。
そんな余裕を見せるユーリにアデコールは縄をぐいぐいと引き、歩みを促す。

「いいから、きりきり歩くのであ〜る!」
「いてっ、ちょっと引っ張るなよ!」
「小さいくせに生意気なのだ!」
「お前がいうなっ!」
ーーゴスッ!ーー
「ぐほっ!」

暴言を吐いたボッコスの鳩尾にリタの蹴りがクリーンヒットし撃沈した。

「シュヴァーン隊長。不届き者をヘリオードへ連行します」

ルブランの声にがそこへ視線を送ると、隊長服に身を包んだ一人の男が片手で応じた。
薄暗い上に遠目の為に顔立ちははっきりと分からなかったが・・・
チャコールグの髪が左目を隠し、肩にかからないほどのざんばらの髪。
初めて見る男だったがは時が止まったように、歩みを止めてしまった。

(「え・・・まさか・・・・・・!」)
「全員、しゅっぱ〜つ!」

ルブランの声で慌てて歩みを進めただったが、胸中は疑念が渦巻き自身が立てた推論を必死に打ち消していた。




















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2008.3.19