ーーNo.48 轟く咆哮ーー









































パスワード式のドアを開けると、そこはエアルから発する光でエメラルド色に染まり、さらに濃いエアルの漂う部屋になっていた。
目に見えるほどのエアルが発生しているという異常もさることながら、空中にある光景に一同は瞠目した。

「水が、浮いてる・・・」

信じられない、とカロルがその光景に目を見張った。
その原因らしい魔導器ブラスティアを見上げたユーリとエステルは呟く。

「あの魔導器ブラスティアの仕業みたいだな」
「多分、この異常も・・・」
「・・・あれ、エフミドやカプワ・ノールの子に似てる」

魔導器ブラスティアを見ながら呟くリタに も同じように視線を送る。
すでに立っているのもやっとの状態で、絶え間なく頭痛と吐き気、気分の悪さが交互に襲ってくる。
きっと周りにいるユーリ達も同じ状況のはずだ。

「壊れてるのかな・・・」
魔導器ブラスティアが壊れたらエアル供給の機能は止まるの。こんな風には絶対ならない」

カロルの言葉にリタがきっぱりと否定する。

「・・・じゃあ・・・一体・・・」
「わからない・・・あの子・・・何をしてるの」

エステルに応じながらリタは空中に浮かんだ魔導器ブラスティアを見つめる。
その時、室内を揺らすような咆哮が辺りに轟き渡る。

「な、なに・・・?これ、魔物の声、ですか?」
「ま、魔物ぉ・・・」

視線を巡らせると、室内の中央、深く掘られた空間で魔物が咆哮を上げていた。
魔物の様子を見ようとカロルが通路の縁へ歩き寄ろうとするが、足元がおぼつかない。

「病人は休んどけ。ここに医者はいねーぞ」
「え・・・で、でも・・・う、うわぁ!

再び起こった咆哮で、足元に震動が生じる。
それによってビシッビシッと結界に不気味な音が走り、ユーリが焦った声を上げる。

「結界が破れるぞ!」
「あれは逆結界よ。そんなことにはならないから大丈夫」
「逆、結界・・・?」

の言葉にカロルが首を捻る。

「魔物を閉じ込めるための強力な結界よ。簡単には出てこられない。
でも、なに、このエアルの量。異常だわ・・・」

解説するようにリタが答え、辺りを包む異常なエアルに苦しそうに息をつく。
そうしている間に、何度目か分からない咆哮によって結界が軋み出し、結界の術式が消えかけてきた。

「・・・嘘、でしょ。結界が・・・」
「こりゃ、やばいかな・・・」

愕然とした の隣で、ユーリも乾いた笑みを浮かべる。
その時、

「リタっ!?」

結界の状況を見たリタがエステルの制止の声を聞かず、魔導器ブラスティアに近付こうと走り出した。

「・・・待っててね、今すぐ直してあげるから」

も追いかけようと駆け出すが、体が言うことを聞かない。
悪態をつきたくなるのを堪え、鉛のような身体を引き摺るように追いかけて行く。
と、

「俺様達の優しい忠告を無視したのはどこのどいつだ?」

その声にリタと も立ち止まり、部屋の反対側にいる声の主へと目を向けた。
そこには魔狩りの剣の首領ボスクリント、その右腕のティソン、そして入口で忠告を発していたナンがこちらを見返していた。

「悪ぃな。こっちにゃ、大人しく忠告を聞くような優しい人間はいねぇんだ」
「ふん、なるほど・・・って、なんだ。クビになったカロル君もいるじゃないか。
エアルに酔ってるのか。そっちはかなり濃いようだね」

ティソンの馬鹿にした台詞に続くように首領のクリントが鼻を鳴らす。

「ちょうどいい。そのまま大人しくしていろ。
こちらの用事は、このケダモノだけだ」
「大口叩いたからにはペットは最後まで面倒見ろよ。
途中で捨てられると迷惑ーー」
ーーキュォーーーンーー

ふらつきながらも軽口を叩いたユーリだったが、その続きは高い魔物の鳴き声で遮られた。

「この声・・・!」
「またあいつ!」

聞き覚えのある鳴き声に は頭上を見上げる。
怒りを滲ませたリタの声も同じように上を向いた。
そこにはラゴウの屋敷でも姿を見せた竜使いが現れていた。
そして白い鎧は槍を振り上げ、あの時と同様に一閃させる。
すると、辺りに漂っていたエアルが消え、それと同時にユーリ達の体も瞬時に軽くなった。

「ふへ、あれ・・・?平気です・・・」
「け、結界破れたよっ!」
「逆結界の魔導器ブラスティアが壊れたんだから当然でしょ!んとにあのバカドラ!」

リタの怒号が竜使いへと叩き付けられる。
そんな中、魔狩りの剣は結界に閉じ込めた魔物へ一方的に攻撃を仕掛けていた。
しかしその攻撃を防ぐように、竜使いが魔狩りの剣に向けて炎を吐きかける。

「・・・ほう?」
「『まず、オレを倒せ!』って事らしいぜ。面白れえじゃねえか!」

竜使いも標的とした魔狩りの剣は戦力を二分しさらに攻撃を続けた。
魔狩りの剣の攻撃から反撃に転じた大きな魔物はその巨体を壁へと激突させる。
その攻撃を易々と避け、攻撃が及ばないところまで退避した魔狩りの剣だったが、濃いエアルから解放されたばかりのユーリ達はその行動が間に合わない。

「おわっと!」
「っ!」
「きゃっ!」
「うわあ!」
「きゃあ!」
「キャワンッ!」

そして魔物が与えた凄まじい震動で、ユーリ達の足元が魔物がいる階下へと崩れ落ちた。




















Back
2008.3.16