ーーNo.47 滅んだ街ーー









































トリム港から北西に進路を取ったユーリ達は小雨が降る中、目的地らしい場所に到着した。

「・・・こりゃ、完璧に廃墟だな」
「こんなところに誰が来るっていうのよ」

リタの言葉通り、こんな廃墟に特別な用事でもなければ人は来ないだろう。
人がいるような気配がないことに、ユーリはため息をつく。

「またいい加減な情報、掴まされたかな・・・」
「また?」
「実はね・・・」

胡乱気な視線をユーリに送るリタに、 がここに来るに至った情報に付いて話そうとする
しかし、それを遮るように少女の声が辺りに響き渡った。

「そこで止まれ!当地区は我ら『魔狩りの剣』により現在、封鎖中である」
「この声・・・!」

この声を知っているようなカロルがどこにいるのかと視線を巡らせる。
すると、朽ちた建物の屋根に焦げ茶の髪を一房結った小柄な少女が立っていた。
体に似合わない大きな三日月型の武器を背に持ったまま、こちらに気の強い若草色の瞳を向け淡々と言葉を紡いでいた。

「これは無力な部外者に被害を及ぼさないための措置だ」
「ナン!よかった、やっと追いついたよ!」

ナンと少女を呼んだカロルが近付こうと朽ちた建物に走り寄る。
そんなカロルをナンは冷めた表情と沈黙を持って見下ろしていた。

「・・・」
首領ボスやティソンも一緒?ボクがいなくても大丈夫だった?」
「なれなれしく話しかけて来ないで」
「冷たいな。少しはぐれただけなのに」

ナンからのあしらいに表情を曇らせたカロルが口を尖らせる。
しかしそのカロルの言葉を聞き留めたナンが眉根を上げ口調を荒げた。

「少しはぐれた?よくそんなウソが言える!逃げ出したくせに!」
「逃げ出してなんていないよ!」
「まだ言い訳するの!?」
「言い訳じゃない!ちゃんとエッグベアを倒したんだよ!」

ナンの強い口調に負けまいと、カロルも必死に食い下がる。
そんなカロルにナンは不審そうな視線をむけたまま見下ろしている。

「それもウソね」
「ほ、ほんとだよ!」
「せっかく魔狩りの剣に誘ってあげたのに・・・
今度は絶対に逃げないって言ったのはどこの誰よ!
昔からいっつもそう!すぐに逃げ出して、どこのギルドも追い出されてーー」
「わあああっ!わあああああっ!!」

ナンからの言葉を遮るように、カロルは大声を上げる。
そんなカロルに心配する素振りすらみせず、ナンはもう用はないとばかりに言い捨てる。

「ふん!もうあんたクビよ!」
「ま、待ってよ!」
「魔狩りの剣より忠告する。速やかに当地区より立ち去れ!
従わぬ場合、我々はあなた方の命を保障しない」

カロルの言葉を無視し、ナンはそれだけを言い放つとそのまま建物の裏へと飛び降り、ユーリ達の視界から消えていった。
ナンからの宣告を受けたカロルは、力なくうなだれていた。
心配そうなエステルが声をかけようとするが、どんな言葉をかけるべきか、触れて良いかも分からず、空中に手を彷徨わせる。

「ぁ・・・」
「にしても、どーして魔狩りの剣とやらがここにいんだろうな」
「さーねー」
「まー紅の絆傭兵団ブラッドアライアンスがいるっていう場所にわざわざ他のギルドが介入するっていうーのも変だしねー」

ユーリは話を逸らすように違う話題を振る。
それにならいリタと も会話を交わす。
そして、立ち止まっていてもしょうがないと、リタが奥へと踏み出し もそれに続いた。

「リタ、 、待って下さい。忠告忘れたんですか?」
「入っちゃダメとは言ってなかったでしょ?」
「そうそう、こっちが手を出さない限り向こうから襲うなんてことはないでしょうし」

エステルの心配を他所に、二人は気にする様子を全く見せない。

「で、でも命の保障をしないって・・・」
「あたしが、あんなガキに、どうにかされるとでも?冗談じゃないわ」
「さっすがリタ♪期待してますよ〜」

尚も言い募るエステルに、リタは呆れて言い返す。

「ま、とにかく紅の絆傭兵団ブラッドアライアンスの姿も見えないし、奥を調べてみようぜ」

ユーリの言葉にエステルも渋々頷き、一行は廃墟の奥へと歩き出した。
未だに俯いていたカロルだったが、ユーリからの声がかかった事で一緒に奥へと歩き出した。











































廃墟の奥へと進んで行ったユーリ達は、廃屋から地下に続く階段を下りて行った。
一番下へと降り立つと今までとは違う感覚が体を覆った。
歩を進めるたびにますます体を重く圧迫する。

「な、なんだろう。さっきから気持ち悪い」
「鈍感なあんたでも感じるの?」
「鈍感はよけい!・・・っていうか、リタも?」
「こりゃ、なんかあんな」
「ユーリ・・・ここは慎重に進んだ方が良いと思うわよ」
「ああ、無理する事もねえだろ」

は変わった事はないかと周囲を見回すが何ら変わった様子はない。
だが、この感じは以前にも体験したような気がした。

「一体、なんなのかしら。ここに来てから急に・・・」

リタの呟きを聞きながら、みんなの様子に目を配っていた だったが、隣にいたエステルが視界から消えた事で声を上げる。

「エステル!」
「・・・あ、ユー・・・リ・・・」
「行き倒れになんなら、人の多い街ん中にしといてくれ。
オレ、面倒見切れないからな」

が駆け寄るより早く、ユーリがエステルの腕を取りそのままゆっくりと地面に座らせた。
ユーリの呆れた声を聞きながら、エステルがそれほどひどくない様子に はホッと胸を撫で下ろす。

「は、はい、ありがとう。まだ、だいじょうぶです」
「でも無理はしちゃダメよ」

気遣うように目線を合わせた に淡い笑みが返る。
顔色は良いとは言えない、脈も通常よりも乱れておりあまり長居はしたくない場所だ。
どうしようかとユーリに相談しようとしたところ、リタの声に皆の注意が向いた。

「・・・これ、エアルだ」

リタの視線にならい、奥の部屋へと視線を巡らすと地面からふわふわと立ち上るエアルが、淡い光を放ちこちらの方へと流れて来ていた。

「え?エアルって目に見えるの?」
「濃度が上がるとね」

カロルの疑問にリタが答える。

「そういや、前にエステルが言ってたな。
濃いエアルは体に悪いって」
「はい・・・『濃度の高いエアルは時として人体に悪影響を及ぼす』です」
「クオイの森でもエステルと はぶっ倒れたからな」
「・・・へえ、そんなことが」

ユーリの言葉にリタの視線がエステルと 、交互に見やる。
実験対象のような気がしてならない はその視線から逃れるように言葉を発する。

「またそうなるなんてゴメンよ。やっぱりここは離れた方が良いんじゃない?」
「それしかないか・・・」
「でも、紅の絆傭兵団ブラッドアライアンスがいるかまだ確かめていませんよ」

に応じかけたユーリだったが、エステルの言葉に動きが止まる。

「いや、まあそうなんだけど・・・」
「行きましょう」

言い淀んだユーリに座り込んでいたエステルが立ち上がると部屋の奥へと歩き出した。
そんな様子に行くしかないか、とユーリ達は腹を括り遅れないようにエステルの背を追いかけた。




















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2008.3.15