あいつの言葉にオレは何も言い返せなかった。
確かにあの頃、この帝国を変えようと互いに肩を並べて歩んでいた。
けど・・・入団して見たのは何も変わる事のない帝国の縮図。
そしてあの時の自分の無力さは、一生・・・


























































ーーNo.46 北西へーー

















































宿を出て外の空気を吸ったが、淀んだ気分が変わる訳ではなかった。
どうしようもない苛立ちが込み上げ、手近の壁を殴りつける。

ーードンッ!ーー
「ったく、痛いところつきやがって。
何も変わってねえのはオレにだって分かってる」

先ほどのフレンの言葉は、鋭く己自身に突き刺さった。
何も変える事が出来ない騎士団に嫌気がさして辞めたが、今の自分が何も変える事ができていない現状にさらに嫌気がさしていた。

「・・・はぁ、魔核コアの手がかり、探すか・・・」

壁を殴った拳から目を離し、オレは街中へと踏み出した。











































海を右手に見ながらしばらく歩いていると、前からオレを呼ぶ声でそちらに視線を送った。
そこには港で別れていた が、ひらひらと手を振りながらオレの方に向かってくるところだった。

「なーにフレンと同じような辛気くさい顔してるのよ?」
「・・・別に何でもねぇよ。それより仕事は終わったのか?」
「まあね〜」

にっこり、といつもの笑顔を向けられ先ほどの淀んだ気持ちが少し晴れる。
何気ないやりとりがオレをこんなに励ましていただなんて、今更ながら気付いた。
















































こっちに気付く前のユーリは、ノール港で合ったフレンみたいに難しい顔をしていた。
きっと宿でフレンとやり合ったのだろう。
的確な倫理と正論で説くフレンは、世間的には正しい。
けど、世の中にはそれだけでは解決できないこともあるからこそ、
ユーリの(フレンからしたら短絡的な)やり方だって間違っているとは思えない。
そう思いいつもより明るめの笑顔でユーリを覗き込む。

「なーにフレンと同じような辛気くさい顔してるのよ?」
「・・・別に何でもねぇよ。それより仕事は終わったのか?」
「まあね〜」

何でもなくない顔してるからから言ってるのにこっちの気遣いするんだから。
ホント、ユーリはいつも優しいね。
な〜んて言ったら素直じゃない言葉が返ってくるのが分かってるから口には出さないけどさ。
















































オレが話を続けようとした時、 の後ろから歩いてきた見覚えがありすぎる人物に半眼を向けた。
なんで、あいつがここに居んだ?

「もう、俺様の気持ちをないがしろにしちゃって・・・」
「あのおっさん・・・」

オレの声で も後ろに振り向いたが、おっさんが近付く前に手を取って自分の背後に避難させた。
また前みたいに馴れ馴れしくさせるなんて冗談じゃねぇ。

「ん・・・よ、よぉ久しぶりだな」
「挨拶の前に言う事あるだろ」
「挨拶よりまず先にすること?うーん・・・」

分かってるくせにとぼけやがって、このおっさん・・・
オレの指摘に顎に手を当てて考えるフリがますます胡散臭いんだよ。

「ま、騙した方よりも騙された方が忘れずにいるって言うもんな」
「俺って誤解されやすいんだよね」

頭を振りながら、片手を上げて応じる様子に俺はますます半眼となった。
誤解とは良く言ったもんだ、ああいうのは意図的つーんだよ。

「無意識で人に迷惑かける病気は医者行って治してもらって来い」
「そっちもさ、その口の悪さ、何とかした方がいいよ?」
「口の減らない・・・
あんまふらふらしてっとまた騎士団に取っ捕まるぞ」
「騎士団も俺相手にしてるほど暇じゃないって。
さっき物騒なギルドの一団が北西に移動するのも見かけたしね。
騎士団はああいうのほっとけないでしょ」

聞いた情報に心当たりは俺は一つしか思い浮かばなかった。
まさか、と思いレイヴンに聞き返す。

「・・・物騒か、それって、紅の絆傭兵団か?」
「さあ?どうかな」

おっさんは含みのある笑みを浮かべるだけでそれ以上答えない。
この野郎、教える気ないだろ。













































話している途中でユーリの視線が厳しいものに変わった。
私、気に障るような事言った?

「あのおっさん・・・」

後ろから替えが聞こえていたのは気付いてたけど、その視線はレイヴンに向けてのものだったのね。
私も仕方なく嫌々ながら振り向こうとしたら、ユーリが私の手を引き背後に回してくれた。
ちょっと、いつもこんなことしないのにどうしたの?
二人の応酬はレイヴンがのらりくらりとかわすのをユーリがつっかかる形で進んだ。

「ま、騙した方よりも騙された方が忘れずにいるって言うもんな」
「俺って誤解されやすいんだよね」

もう、減らず口叩かないでさっさと謝っちゃえばいいのよ。
これじゃあ、ますますユーリはつかかるの、とっくに分かるでしょうに。

「無意識で人に迷惑かける病気は医者行って治してもらって来い」
「そっちもさ、その口の悪さ、何とかした方がいいよ?」
「口の減らない・・・
あんまふらふらしてっとまた騎士団に取っ捕まるぞ」
「騎士団も俺相手にしてるほど暇じゃないって。
さっき物騒なギルドの一団が北西に移動するのも見かけたしね。
騎士団はああいうのほっとけないでしょ」

なっ!そんな情報、さっき私に言わなかったじゃない。
しかも、そんな微妙な情報・・・本当にそれ紅の絆傭兵団ブラッドアライアンスなわけ?

「・・・物騒か、それって、紅の絆傭兵団ブラッドアライアンスか?」
「さあ?どうかな」

ああ、これはユーリ行くわね・・・
全く、私も行くことになるんだから、もうちょっとましな情報よこしなさいよ!













































これ以上言う気がないだろうと悟り、オレは話題を変えた。

「そもそも、おっさんあの屋敷に何しに行ったんだ?」
「あ、それ私も知りたいんだけど」

後ろからヒョコッと顔を出した もオレの質問に続くように訊ねる。
ったく、また言い寄られるんからおとなしくしてろっての。

「まぁ〜、ちょっとしたお仕事。聖核アパティアって奴を探してたのよ」
聖核アパティア?なんだそれ」
魔核コアのすごい版、だってさ。
あそこにあるっぽいって聞いたんだけど、見込み違いだったみたい」
「ふーん・・・聖核アパティア、ね」
「・・・」

聞いたこともないその品に、オレは顎に手を当てて記憶を手繰るがそんなものは聞いたことがなかった。
もオレと同じように考え込んでいるみたいだけど・・・
もしかして、お前何か知ってるのか?












































諦めたようにため息をついたユーリは再びレイヴンに聞き返した。

「そもそも、おっさんあの屋敷に何しに行ったんだ?」
「あ、それ私も知りたいんだけど」

ユーリの背後から顔を出し、私もレイヴンに聞いてみた。
結局、ドンからの仕事ってだけは聞いてたけど、どういう内容までかは聞いてなかったし。

「まぁ〜、ちょっとしたお仕事。聖核アパティアって奴を探してたのよ」

え?それ、どういうこと・・・

聖核アパティア?なんだそれ」
魔核コアのすごい版、だってさ。
あそこにあるっぽいって聞いたんだけど、見込み違いだったみたい」
「ふーん・・・聖核アパティア、ね」

聖核アパティア・・・ドンがそれを探せって?
ユーリは考え込んでるけど、きっと聞いたことなんてないはずだろうし。
どうして、聖核アパティアを・・・













































そんな三人にカロルの呼び声がかかった。

「あ!ユーリ! !おーい!!」
「ああっ!あんの、オヤジ!!!」

声の方に視線を向けると、遠目で分かるほど怒っているリタとその後ろからカロルが走ってきた。
少女の形相に幾分腰が引けているレイヴンが怖々とオレに声をかける。

「逃げた方がいいかねえ、これ」
「ひとり好戦的なのがいるからな」

苦笑しながら答えると、おっさんは片手を挙げてそのまま走り去っていった。

「待て、こらぁ!ぶっっっ飛ばす!」
「はあ、はあ・・・なんで逃がしちゃうんだよ!」
「誤解されやすいタイプなんだとさ」
「え?それ、どういう意味?」
「きっと深い意味なんてないから気にしないが吉よ」

レイヴンを追いかけていたリタをそのまま見送り、肩で息をついているカロルに答える。
呆れている に肩を竦めて返してると、見失ったのかリタが腹立たしそうに帰ってきた。

「・・・逃がしたわ。いつか捕まえてやる・・・」
「ほっとけ。あんなおっさん、まともに相手してたら疲れるだけだぞ」

リタが拳を作って宣言している間に、遅れて到着したエステルが膝に手を当て息を吐く。

「大丈夫、エステル?」
「・・・少し、休憩させて、ください」
「ああ、じゃ少しだけな。そしたら行くぞ」
「行くって、どこに行くの?」

カロルからの言葉にオレは先ほど入手した情報を伝える。

紅の絆傭兵団ブラッドアライアンスの後を追う。
下町の魔核コア、返してもらわねえと」
「足取り、つかめたんです?」
「北西の方に怪しいギルドの一団が向かったんだと。やつらかもしんねえ」
「不確定すぎると思うんだけどね・・・」

の疑心のこもった呟きに応じそうになりながらも、それしか手がかりがない以上行くしかないと の肩を軽く叩き今度はこそはと決意を胸にした。



















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2008.3.15