ーーNo.43 沈みゆく船上でーー
狭い上に不安定な足場での戦闘は不慣れなユーリ達に苦戦を強いた。
それでもこちらは多勢、敵は一人。
ユーリ達に負ける気はさらさらなかった。
「さぁ、殺れるもんならやってみろ」
「言われなくてもそのつもりだっての」
ザギの太刀を弾き返しその勢いでユーリは斬り返す。
しかしその攻撃を上空に飛び上がりながらユーリの背後に回り込み、ザギは後衛へと疾走してくる。
「前と同じと思わないでよね。
旋風をまといし猟矢、眼前の障害を穿て!ウィンドアロー!」
「ぐっ!」
の魔術を受け吹き飛んだザギ、その間にユーリとカロルが飛び込み各々の技を繰り出していく。
「ったく、遠慮なくやらせてもらうぜ」
「ま、負けるもんか」
「その調子だ、足掻け、もがけ、そして死んでいけ!」
二人の攻撃を受けながらも、その目から狂気が消えることなくますますザギは笑い狂う。
ザギの注意が後衛から離れている間に、エステルとリタは魔術を紡いでいく。
「聳えよ望楼、鋭き戴きに真贋をもて、アスティオン!」
「穢れなき汝の清浄を彼の者に与えん、スプラッシュ!」
エステルの魔術で威力が上がったリタの魔術がザギを襲う。
立ち上った水柱が凄まじい勢いでザギを押し潰そうとする。
が、
「ふははははははっ、お前らの攻撃なんて効かねえ!」
ところが、リタの魔術を防ぎきったザギが後衛の二人に向かって突っ込んでくる。
詠唱を終えて無防備な二人に、ザギの刃が振り下ろされようとした。
「させると、思ってるわけ!」
後衛の前に飛び出したが双剣でザギの斬撃を受け止める。
ーーギーーーンッ!ーー
剣がぶつかりあう音が響き、ザギとの鍔迫り合いとなった。
だが体格差、男女差のためか、ギリギリと剣の軋む音を出しながらは徐々に力で押されていく。
「けけけっ、これで貴様は終わりだあぁっ!」
「くっ・・・こ、のぉっ!」
しかし、渾身の力でザギの剣を弾き返し、勢いを殺さぬままザギに蹴りを入れ込み空中で一回転した後、背後に飛び退る。
それを受けたザギが数歩、後ろによろけた隙を見逃さず、ユーリが一気に距離を縮め己が剣を一閃させた。
「ぐぅあああっ・・・!!痛ぇ!」
膝をついたザギにユーリが剣を突きつけ、警戒を解かずに見下ろす。
「勝負あったな」
言い放つユーリにザギは放心としていた。
が、
「・・・オ、オレが退いた・・・
・・・ふ、ふふふ。アハハハハッ!!貴様、強いな!強い、強い!
覚えた覚えたぞユーリ、ユーリっ!お前を殺すぞユーリ!!切り刻んでやる、幾重にも!動くな、じっとしてろよ・・・
アハハハハハハ!!」
狂ったように嗤いだし、ユーリに近付こうと足を引きずりながら一歩一歩歩き出した。
その時、
ーードォーーーンッ!!!ーー
メインエンジンが爆発を起こし、その爆風によってザギは海へと吹き飛ばされた。
身を低くしてそれをしのいだユーリ達だったが、自分達の視線が徐々に海に近付いてくるのが分かった。
「え?なに?沈むの・・・!?」
「海へ逃げろ・・・!」
ユーリが焦ったように声を張り上げ、も他の仲間を急かそうとする。
「・・・げほっ、げほっ・・・・・・誰か、いるんですか?」
煙が辺りの視界を遮る中、船室らしい方向から聞こえた声でユーリはその方向へと走り出した。
「まっ!・・・ったく」
呼び止めようとしただったが、間に合わないことを悟りそのままユーリの背中を追いかけた。
「ユーリ!
!」
「エステリーゼ!ダメ!」
エステルもそれに続こうとしたが、リタがその手を掴み先に行くことを制する。
「でも・・・でも・・・!」
「ごちゃごちゃ言ってないで、飛び込むの!!」
言い募るエステルに、有無を言わさずリタが手を離さぬまま海に飛び込んだ。
数分もたたないうちに船は海底へと沈み、辺りには爆破の時に飛び散ったこげた木片が浮かんでいた。
大きな木片に捕まっていたカロルがエステルとリタの元に近付き気遣わし気に訊ねる。
「みんな、大丈夫?」
「わたしは・・・でも、ユーリとが・・・」
「・・・・・・」
皆が不安気な面持ちで辺りを見回す。
最悪な状況を想像し、互いに沈痛な面持ちを崩すことができない。
と、海面から気泡がたち、そこからとユーリが顔を出した。
「ぷはっ、はぁ〜海水浴なら夏にしたかったわ」
「ひー、しょっぺー。だいぶ飲んじまった」
「!ユーリ!よかった・・・」
二人の無事な姿に涙ぐんだエステルに、は苦笑しながら頭をぽんぽんと撫でる。
「その子、いったい誰なの?」
リタの言葉に以外がユーリに抱えられた薄い金髪の青年に視線が集まる。
その青年に見覚えがあるのか、エステルが驚きに目を見張った。
「ヨーデル・・・!」
「なに、あんたの知り合い?」
「あ!助かった、船だよ。おぉい!おぉい!」
リタを遮るようにカロルが大声を張り上げる。
その方向を見ると、船がこちらにむかって近付いてくる所だった。
「どうやら、平気みたいだな」
船上から届いたフレンの声に、が片手を挙げてそれに応じる。
そして、フレンが幼馴染みに視線を向けると、抱えられたヨーデルに驚きの表情を示した。
「・・・っ!ヨーデル様!
今、引き上げます。ソディア、手伝ってくれ」
近付いてくる船上が慌ただしく動き回り、は気を失っているヨーデルの顔を複雑な面持ちで見つめていた。
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2008.3.4