ポリーを送り出したユーリ達はそのまま逃走した船を追いかけ始めた。
船は徐々に加速し、ユーリ達を引き離していく。
「行くぞ・・・!」
「ちょっ待って待って待って待って!心の準備が〜〜〜〜!!」
「エステル、リタ、乗り遅れないでよ!」
「は、はい!」
「わかってるわよっ!」
応じた声に
は力強く地面を蹴り、飛び上がった。
ーーNo.42 暗殺者、再びーー
飛び乗った船上で、各々が肩で息をついていた。
息が整った所で、リタはある一点を見て驚きの声を上げる。
「これ、魔導器の魔核じゃない!」
「なんでこんなにたくさん魔核だけ?」
「知らないわよ。研究所にだって、こんなに数が揃わないってのに!」
カロルの訊ねにリタは怒ったように言葉を返す。
魔核が入っている小箱から視線を外し、エステルが隣にいた
にそれを向けた。
「まさか、これって魔核ドロボウと関係が?」
「そう考えるのが普通かしらね。
それなら屋敷内にあれだけの魔導器が揃っていたのも頷けるし」
その言葉に今度はカロルが疑問の声を上げ
に振り向いた。
「けど、黒幕は隻眼の大男でしょ?ラゴウと一致しないよ」
「だとすると、他にも黒幕がいるってことだな。それよりここに下町の魔核、混ざってねえか?」
「残念だけど、それほど大型の魔核はないわ」
ユーリの問いかけに、リタが頭を振り否定の意を示した。
ラゴウを追ってきたユーリ達は、一番潜んでいるのに怪しいだろう船室に入ろうと扉へ近付く。
鍵がかかっている様子にカロルが解錠しようとカチャカチャと鍵穴をいじり始めた。
その間にユーリは扉の隣ですぐに飛び込めるよう身構える。
「どきやがれぇっ!」
「うわっ!」
しかし解錠するより早く扉が開き、扉の前にいたカロルはそのまま吹き飛ばされた。
中から現れたのは隻眼、紅の服、右手の先にフックのような義手をした大柄の男だった。
「はんっ、ラゴウの腰抜けは、こんなガキから逃げてんのか」
大男はカロルを見下し、言葉を吐き出した。
そんな大男の後ろからユーリは剣を突きつけ目を眇める。
「隻眼の大男・・・あんたか。人使って魔核盗ませてるのは」
「そうかも知れねえなあ・・・」
大男が背後を伺いながら大剣を振るい、空を切る鈍い音が響いた。
しかしユーリは素早く飛び退り、再び油断無く構えた。
「いい動きだな小僧ーー」
「もうちょっと背後には気をつけるのね」
ユーリの動きに目を細めていた大男だったが、いつの間にか移動した
に刃をその首元へと押し当てられた。
自分の窮地にも関わらず、大男は楽しむような声で
に話しかける。
「ほぅ、相変わらずの手腕だな、自由な風。
うちに来りゃあ、それなりのところに取り立ててやるが?」
「遠慮するわ」
「そいつは残念だ」
大男がそう言い終わらずに、またしても大剣を振るい
を薙ぎ払う。
しかし、
も軽やかな動きでその軌跡を避け、ユーリの隣で双剣を構え直す。
「小僧共々、いい動きと肝っ玉だ。ワシの腕も疼くねえ・・・
そっちの小僧もうちのギルドに欲しいところだ」
「そりゃ光栄だね」
興味なさ気にユーリが応じ、大男を睨み返す。
そんなユーリに大男は興醒めしたように鼻を鳴らした。
「だが、野心の強い目はいけねえ。ギルドの調和を崩しやがる。
惜しいな・・・」
「バルボス、さっさとこいつらを始末なさい!」
「金の分は働いた。それに、すぐ騎士が来る。
追いつかれては面倒だ」
船尾の船室の影からラゴウがバルボスに指示を出すも、従う気はないようだ。
そんな二人の台詞は一連の事件がラゴウとバルボスが組んだ事によるものだと暗に示していた。
逃げる算段をしているバルボスに
は数歩、にじり寄る。
「面倒なのは騎士だけかしら?私が居るって事がどういうことかわかっていないようね」
「今更遅いわ。
お前がここにいるのが全てを掌握した訳ではない証拠だろう」
の言葉に臆する事もせず、逆に蔑むような視線を投げ返す。
ボロを見せないバルボスに、舌打ちをつきそうになるのを堪え、
は余裕のある笑みを浮かべた。
「・・・さあ、どうかしら?」
「ふん、減らず口を。
小僧共々、次に会えば容赦はせん」
バルボスはそう言い捨てると、出港できる状態になっていた小舟に飛び乗った。
「待て、まだ中に・・・ちっ・・・!
ザギ、後は任せますよ!」
ラゴウもその小舟に乗り込み、バルボスは係留してあったロープを断ち切り、ユーリ達の視界から消えた。
追いかけようとした
だったが、ユーリに進路を塞がれる形で、足を止めることになった。
「何をーー」
「よそ見すんな。会いたくない奴が出てきたぜ」
ユーリに倣い、
も船室へと視線を送ると、そこから出てきた人物に溜め息をついた。
「誰を殺らせてくれるんだ・・・?」
「あなたはお城で!!」
「どうも縁があるみたいだな」
今度で何度目になるのか、ザギが凶気を宿した目でユーリを睨め付ける。
「刃が疼く・・・殺らせろ・・・殺せろっ!」
不気味な笑い声をあげ、突進するような形でユーリに斬りかかる。
動きを読んだユーリがその場をサイドステップでかわす。
勢いのあるザギの剣は、先ほどユーリが居た場所を越えたエンジン部へと食い込み、小規模な爆発と共に噴煙が上がる。
「うぉっと・・・お手柔らかに頼むぜ」
薄ら笑いを浮かべているザギに、ユーリが余裕を見せるように言い放つ。
その後ろで、
達も応戦するべく剣を構えた。
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2008.3.3