ーーNo.41 現れた竜使いーー
階段を駆け上がると、そこには大きな魔導器が部屋の中央に静座していた。
天上まで届きそうな背丈、床に掘られた穴から海水を引き込んでいるらしく、水面はゆらゆらと揺れていた。
「この魔導器が例のブツ?」
カロルがそれを見上げて呟く。
そんなカロルの横を走り去り、リタは階段をつたい巨大な魔導器の魔核へと走り寄った。
「スロリムにレイトス、ロクラーにフレック・・・
複数の魔導器をツギハギにして組み合わせている。
・・・この術式なら大気に干渉して天候を操れるけど・・・こんな無茶な使い方して・・・!
エフミドの丘のといい、あたしよりも進んでるくせに、魔導器に愛情のカケラもない!」
憤然と怒りを口にしていたが、その手は休む事なく術式の解析を続けている。
リタの様子で証拠が確認できたエステルは、ほっと息をつく。
「これで証拠は確認できましたね。リタ、調べるのは後にして・・・」
「・・・もうちょっと、もうちょっと調べさせて・・・」
「あとでフレンにその魔導器をまわしてもらえればいいだろ?さっさと有事を始めようぜ」
なかなか魔導器から離れないリタに、声をかけ、何の騒ぎを起こそうかとユーリは周りを見回す。
そんな中、カロルが魔導器を支える柱に向かって、自身の大剣を振り下ろした。
その衝撃は室内を騒音で埋め尽くす。
「あ〜っ!!もう!!!」
その音によって解析を続けられなくなったのか、リタが苛立たしげに魔術の詠唱を始める。
そして魔術が完成し、周囲の壁に向かって一斉に火の玉が爆音を響かせた。
近くにいたカロルが爆風の余波を受けその場に尻餅をつく。
「うわぁっ!いきなりなにすんだよっ!」
「こんくらいしてやんないと、騎士団が来にくいでしょっ!」
「さっすがリタ、そのやる気に私もならっちゃおうかな〜」
半ば八つ当たりに近いリタの行動に苦笑を浮かべながら、
も魔術の詠唱を始める。
すると魔導器の下にあった水面が揺れ、そこから水柱が立ち上り手近なドアにぶつけると大穴を開けた。
「後腐れなく暴れられるなんて・・・爽快ね!」
「おいおい・・・頼むからここを崩壊させるのだけは止めてくれ」
の弾んだ声にユーリは宥めるように声をかける。
と、
「人の屋敷でなんたる暴挙です!」
散々暴れ回った事で、ラゴウが部下らしい男達を引き連れてやってきた。
凄惨たる室内の状況に、怒りを滲ませて命令を下す。
「お前達、報酬に見合った働きをしてもらいますよ。あの者達を捕らえなさい。
ただし、くれぐれもあの女を殺してはなりません!」
ラゴウがエステルを指差した後、男達が一斉にユーリ達に襲いかかってきた。
それぞれが応戦の形をとる中、ラゴウの言葉を聞き留めたカロルが声を上げる。
「まさか、こいつらって、紅の絆傭兵団!?」
「大正解ってね、せいっ!」
カロルの声に答えながら、
は水柱を紅の絆傭兵団の一角に叩き付ける。
「それ、もういっちょ!!」
「
、リタ十分だ、退くぞ!!」
最後の敵を沈ませてたユーリが二人に声をかける。
一人が素直にはいは〜い、と応じたのに対し、リタは未だに怒りを収めていない。
「何言ってんの、まだ暴れ足りないわよ!」
「早く逃げねぇとフレンとご対面だ。そういう間抜けは勘弁だぜ」
「まさか、こんなに早く来れるわけ・・・」
言いかけたリタが、驚いたようにユーリの後ろに視線を向ける。
そこには、フレンとその後ろにソディアとウィチルが控えていた。
と、ちょうど発動を終えた最後の火の玉がフレン達のそばに落ちた事で、ウィチルは鋭い視線をリタに送る。
「執政官、何事かは存じませんが、事態の対処に協力いたします」
「ちっ・・・仕事熱心な騎士ですね・・・」
ほら見ろ、とユーリがリタを非難するが、少女はそっぽを向く。
三者がしばしの睨み合いとなった時、僅かな間を割くように窓ガラスが高い音を上げて砕け散り新たな侵入者が登場した。
「うわぁ・・・!?あ、あれって、竜使い!?」
カロルの言葉に全員が一斉に魔物に乗った人物に視線を移す。
群青色の魔物は前足を泳ぐように動かし悠然と空中を滑空する。
その背中には上から下まで白い鎧を身につけた人物が槍を構え、魔導器へ一直線に飛んでいった。
その行動を妨害しようと、フレンとソディアが飛び出し、ウィチルが相手を落とそうと魔術を発動させる。
しかし、素早い動きで魔物は魔術を避け、白い鎧は魔核へ槍を一閃させた。
「ちょっと!!何してくれてんのよ!魔導器を壊すなんて!」
「本当に、人が魔物に乗ってる・・・」
エステルの驚きの隣で、白い鎧の行動リタが激高し叫声を上げる。
竜使いは壊した窓から逃げようとすると、リタがウィチルよりも素早く連続で魔術を発動する。
「待て、こら!」
リタの魔術によって再び室内に戻るしかなかった竜使いに、もう少しでフレン達が追いつきそうになった。
瞬間、それまで飛ぶだけだった魔物が炎を吐き、フレン達の進路を高い紅の壁が阻んだ。
「くっ!これでは!」
熱風から身を守るように、腕をかざしたフレン達はそのまま立ち往生を余儀なくされた。
そんなフレン達に注意が向いた隙に、竜使いは窓を抜け、リタが急いで振り仰いだ時には後ろ姿を見ただけだった。
「船の用意を!」
竜使いの登場でその場を逃走する事にしたラゴウがいつの間にかユーリ達とは反対側の扉へと駆け出していた。
「ちっ、逃がすかっ!!」
ユーリがそのまま追跡に身を翻し、他の面々もユーリを追って走り出した。
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2008.3.2