正面の入口を避け、他の入口を探そうと屋敷の脇へ進んだユーリ達。
その目の前に、先ほどの騒ぎの元凶となったあのおっさんとばったり会った。

「よう、また会ったね。無事で何よりだ。
んじゃ」

それだけ言い残したレイヴンは、近くにあったリフトに乗り姿を消した。

「待て、こら!」

リタも後を追おうとレイヴンが乗った隣のリフトに乗り込む。
全員が揃ったところで、ボタンを押した。
が、

「あれ、下?」

動いたのは上ではなく、ユーリ達はそのまま地下へと降りる事となるのだった。




















































ーーNo.40 地下室での非道ーー








































「あ〜もう!ここからじゃ、操作できないようになってる・・・」

リタは腹立たしげに壁を蹴りつける。
照明もない薄暗い地下には、通常ではあり得ない異臭が漂っていた。

「うっ!?」
「なんか、くさいね・・・」

臭いに耐えきれず、エステルは口元を手で覆う。
カロルも顔を歪め、キョロキョロと辺りを見回す。

「・・・血と、あとはなんだ?何かの腐った臭いみたいだな」
「みんな深く吸い込まないでよ。
それに・・・お客は私達以外にもいるみたいだから気をつけて」

の言葉に、皆が周りに目を凝らすと、狭い部屋内に数匹の魔物が蠢いていた。

「魔物を飼う趣味でもあんのかね」
「かもね。リブガロもいたし」

嫌悪するように吐き捨てるユーリにリタも応じる。

「ともかく、先へ進みましょ。
こんなところで時間を潰す訳にはいかないしね」




































暗闇から襲ってくる魔物を退けながら、ユーリ達は扉を、部屋を抜けていく。
いくつ目の部屋に来た時だろう。
部屋の片隅から幼い子供の泣き声がか細く響いてきた。

「えっぐ、えっぐ・・・パパ・・・ママ・・・」

声が上がる場所をいち早く見つけたエステルは、泣いている子供に駆け寄った。

「だいじょうぶだよ。何があったか、話せる?」
「・・・こわいおじさんにつれてこられて・・・
パパとママがぜいきんをはらえないからって・・・」

声を震わせながらも、幼い男の子はたどたどしく事情を説明する。
男の子の言葉を理解したエステルはショックを隠せないでいた。

「・・・なんて、ひどいこと・・・」
「もしかして、ここにいた人たちは、魔物に・・・?」
「カロル。それ以上は言わない方が良いわ」

カロルの言葉を遮るように が口を挟む。
周辺に散らばっている白いモノ。
それが何の成れの果てなのかなど、容易に想像できた。

「パパ・・・ママ・・・かえりたいよ・・・」
「だいじょうぶ。もう、だいじょうぶだからね。
お名前は?」

再びしゃくり上げた男の子が切れ切れに、ポリーと名乗る。
エステルは本格的に泣き始めたポリーをあやすように背中を擦り続ける。
泣き止まないポリーに、しゃがみ込んで同じ視線となったユーリは、ぽんっと頭に手を乗せ自分の方を向かせた。

「ポリー。男だろ、めそめそすんな。
すぐに父ちゃんと母ちゃんに会わせてやるから」
「うん・・・」

ユーリの力強い言葉に涙を拭ったポリーは小さく頷くとユーリの手を取り立ち上がった。






































ポリーを連れ、更に奥へと進んで行く。
どこまで続くのか、と思い始めたときだった。今までとは違う明るい牢屋内に出た。
出口の鉄格子を押し引きするが、鍵がかかっているのか開く事はなかった。
その時、

「はて、これはどうしたことか。
おいしい餌が増えていますね」

初老の男の声に、ユーリ達は声のした方向に振り向いた。
二重の鉄格子の先、その奥から延びる階段をゆっったりとした足取りで下りてくる男がいた。

「あんたがラゴウさん?随分と胸糞悪い趣味をお持ちじゃねえか」
「趣味?ああ、地下室のことですか?
これは私のような高雅な者にしか理解できない楽しみなんですよ。
評議会の小心な老人共ときたら退屈な駆け引きばかりで、私を楽しませてくれませんからね。
その退屈を平民で紛らわすのは私のような選ばれた人間の特権と言うものでしょう?」
「まさか、ただそれだけの理由でこんなことを・・・?」

ラゴウの言葉を聞いたエステルが呆然と呟く。
宿でそれなりな知り合いらしいことは伺い知れたが、このようなことをしているとは思ってなかったのだろう。

「さて、リブガロを連れて帰って来るとしますか。
これだけ獲物が増えたなら、面白い見世物になります。
ま、それまで生きてれば、ですが」

ラゴウの勿体ぶった話し方に、 はくすくすと冷笑を浮かべた。

「なにが可笑しいんです?恐怖で己を失いましたか?」
「ほ〜んと、地位に胡座をかいてる奴っていつも自分の思惑通りになると思ってるんだから能無しよね」
「・・・なんですって?」

嘲笑された言葉に気分を害したラゴウが に刺すような視線を向ける。
それに動じる事なく、ふんと、鼻を鳴らした は蔑むように更に言い放つ。

「高雅が聞いて呆れるわね。教えてあげましょうか?
こういうことを楽しむ外道のことを卑俗って言うの。勉強になったかしら?」
「小娘が・・・!」
「リブガロも連れて来られんならそうしろよ。
どこ探したってオレらがやっちまったから見つかる訳がねぇがな」
「くっ・・・なんということを・・・」

悔しげに顔を歪めていたラゴウだったが、すぐに薄ら笑いを浮かべた。

「まあ、いいでしょう。金さえ積めば、すぐに手に入ります」
「ラゴウ!それでもあなたは帝国に仕える人間ですか!」
「むっ!・・・あ、あなたは・・・まさか!?」

エステルの存在に動揺を見せたラゴウ。
はその隙に双剣の柄を握った。

「これ以上、耳障りな声は聞きたくないわ」
「同感だな」

ユーリも同じように応じ、二人は共に衝撃波を目の前の鉄格子に叩き付ける。
その衝撃に耐えられなかった鉄格子は容易く壊され、余波を受けたラゴウが吹き飛んだ。

「き、貴様ら!な、なにをするのですか!
誰か!この者達を捕らえなさい!!」

捨て台詞を残したラゴウは、そのまま身を翻しユーリ達に背を向けて階段を駆け上がって行った。
逃げ出したラゴウを追う事なく、剣を収めたユーリはエステル達に振り向いた。

「早いとこ用事済まさねぇと、敵がぞろぞろ出てくんぞ」
「そうだけど、まずは押さえるモノを押さえてからね」
「はい。天候を操っている魔導器ブラスティアを探すんですね」

エステルの言葉に皆が頷くと、ラゴウが逃げた後を追うようにユーリ達も階段を駆け上がった。





















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2008.3.2