ユーリ達は部屋へ行かずそのまま小雨が振る外へと出ていた。
辺りは相変わらず薄暗く、晴れ間がのぞく気配はない。

「そういえば、夫婦がどうって言ってたけど、何の事?」
「あ、 は知らなかったんですよね」

エステルは がすぐに分かれた直後のことをかいつまんで説明した。
その話になるほどね、と は頷いた。

「これからどうする?」
「わたし、ラゴウ執政官に会いにいってきます」
「え?ボクらなんか行っても門前払いだよ。いくらエステルが貴族の人でも無駄だって」

意気込んだエステルの言葉に、カロルは難しい顔をした。
だが、現在の状況を打開したいユーリもこのまま立ち往生する気はないようだ。

「とは言っても、港が封鎖されちゃトリム港に渡れねぇしな。
デデッキってコソ泥も隻眼の大男も海の向こうにいやがんだ」
「うだうだ考えてないで、行けばいいじゃない」
「そうそう、行き詰まったら考えるより動いた方がナイスな解決策が浮かぶもんよ」

リタの言葉に賛同するように、 も指を立ててカロルに微笑する。

「だな。話の分かる相手じゃねぇなら別の方法考えればいいんだしな」
「・・・その方法が、ユーリの十八番じゃないことを祈るばかりね」

小さく呟きをこぼした にユーリは肩を竦めて返し、一行は執政官邸へと向かった。




















































ーーNo.37 リブガロを求めてーー








































街の入口から北西、整備された道を歩き進むと、目の前に白壁の大きな屋敷が現れた。
晴れていれば白と青の素晴らしいコントラストに見えたであろうそれは、薄暗い中では浮き出たように見え、近付く事を躊躇わせた。

「なんだ、貴様ら」
「ラゴウ執政官に会わせていただきたいんですが」

屋敷の入口には門番らしいガラの悪そうな男二人が横柄な態度で応じていた。
丁寧なエステルの応対すらぞんざいに扱う彼らに は半眼を向ける。

「ふん、帰れ、帰れ!執政官殿はお忙しいんだよ」
「街の連中、痛めつけるのにか?」
「おい、貴様。口には気をつけろよ」
「あら、ごめんなさい。隠し事ができない素直な性格なのよね〜」
「この女っ・・・!」

門番がいきりたっていたが、 はしれっとしており、その様子にカロルは慌てて間に入る。

「だから、相手にされないって言ったじゃないか。大事になる前に退散しようよ」
「ここはカロル先生に賛成だな」

一行は仕方なくそこから立ち去り、幾分離れた物陰で話し合いを始めた。

「ったく、 。お前が事を荒立ててどうすんだよ」
「そう?ユーリに比べたらかわいいもんじゃないの?」
「ユーリってこれ以上の事、いつもやってるんだ・・・」

の言葉にカロルは顔を引き攣らせた。

「んな事より、正面からの正攻法は騎士様に任せるしかないな」
「それが上手くいかないから、あのフレンってのが困ってるんじゃないの?」
「こういう時は、敵の策を利用するのが一番早いわね」
「何よ、それ」

の言葉に胡乱げなリタが視線を上げる。
リタの視線を受けて、コートに手を突っ込んだまま はにやりと笑いかけた。

「ユーリ達もその夫婦から聞いてるんじゃないの?リブガロってヤツを捕まえれば堂々と正面から会いに行けるじゃない」
「そういえば、役人のひとりが言ってました。そのツノで、一生分の税金を納められるって」
ーーパチンーー
「なるほどな、そんだけ高価なもんなら面ぐらい拝ませてもらえるって訳か」
「・・・リブガロってのを捕まえるつもり?」

指を鳴らしたユーリの横で、リタが面倒だとばかりに声を上げる。
そんなリタに は近付き周りにも聞こえるように耳打ちをする。

「いいの、リタ?騎士団より先に入らないと、天候を操れてる魔導器ブラスティア、あのウィチルって子が調査する事になるんじゃないの?」
「んなっ!・・・さっさとリブガロをとっ捕まえて来るわよ!
ガキんちょ、そいつどこにいるのよ!」
「ど、どこにいるかはしらないけど、リブガロは雨が降ると出てくるんだよ」
「なるほどな。んじゃ、あとは居場所を聞いて捕まえるだけだな」
「それでは、街の人に話を聞きましょう」






































街の住民から話を聞いたユーリ達は、雨が降り止まぬうちにと、リブガロがいる森にむけて出発した。
街の出口に差し掛かったところで、フレン達と入れ違いになり雨の中出発するユーリ達に声をかける。

「相変わらず、じっとしてるのは苦手みたいだな」
「人をガキみたいに言うな」

フレンの小言にユーリは呆れて言葉を返す。
そんなやりとりを は微笑ましく聞いていた。

「ユーリ、無茶はもう・・・」
「オレは生まれてこのかた、無茶なんてしたことないぜ。
今も魔核コアドロボウを追ってるだけだ」
「ユーリ・・・」
「お前こそ、無理はほどほどにな」

フレンの心配を軽くあしらい、ユーリは街の外へと歩き出した。
その後ろ姿を見送っていたフレンは、後ろに控えていたウィチルに指示を出す。

「ウィチル、魔導器ブラスティア研究所の強制調査権限が使えないか確認を取っておいてくれ」

フレンの言葉に首肯を示したウィチルはソディアと共に駆け出して行った。
部下の二人が離れて行くと、フレンは深々と溜め息を零した。

「まったく、帝都を出て少しは変わったかと思えば・・・
これでは無茶の規模が膨れ上がっただけだ」
「フレン?」

フレンの呟きにエステルが心配そうに顔を上げる。

「ユーリは守るべきもののためならとても真っ直ぐなんですよ。
そのために自分が傷付く事を厭わない。
それがうらやましくもあり、そのための無茶が不安でもあるんですがね」
「他人事のように言わないの。フレンも守るべきものの為に頑張ってるんでしょ。
ならユーリと同じよ、心配かける点でもね」

青年騎士の言葉に苦笑しながら がフレンに突っ込む。

「ね、エステル、もう行こう。ユーリに置いて行かれるよ」
「あ、すぐに行きます。では、わたし達もこれで」

カロルの声にエステルはフレンに一礼すると、小走りにユーリ達の元へと駆け出して行った。
も走り出そうとしたが、心配顔が晴れないフレンに向き直り、その背中を力の限り引っぱたいた。

「っ! 、何を・・・」
「ほら、シャキッとしなさい。
心配事が多くて他を疎かにするフレンじゃないのは分かるけど、思い詰めるのは身体に毒よ。
頼りないかもしれないけど、ユーリの事は私もしっかり見てるから。
・・・エステルの事はユーリに任せられるけど、私じゃユーリは任せられない?」
「そんなことはっ!」
「なら、ちょっとは信用してよね。
じゃ、後でね」

そっちも頑張って、とフレンに最後の励ましをした後、 もユーリ達のところへ駆け出して行った。





















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2008.2.23