ユーリと が宿の入口に着くと、外でカロル、リタ、ラピードが待っていた。

「なんかエステルが引きずられていったけど・・・」
「さっきのがフレンって騎士なわけ?」
「そうよ。ユーリよりしっかりしてるでしょ?」
「・・・二人は宿屋の中だろ。行こうぜ」

の言葉に不機嫌になったユーリはすぐに扉をくぐって宿屋に入っていく。
そんな様子に は苦笑し、リタは呆れた視線を投げかける。

「バカっぽい・・・」
「ま、そうは言ってもフレンもユーリと変わらないんだけどね」
「・・・?どういう意味?」

カロルの問いかけに微笑で答え、 も二人の背を押し宿へと入っていった。




















































ーーNo.36 執政官の悪事ーー








































遅れて部屋に入るとエステルとの話は終わったようで、ユーリは小言を言っている最中だった。

「ーーな事情があれ、公務の妨害、脱獄、不法侵入を帝国の法は認めていない」
「ふふっ、フレンは相変わらずみたいね」

の声で入口に視線を向けたフレンは驚き、目を見開いた。

!?なんで貴女が・・・?」
「久しぶりね。私のことは気にせずに続けてちょうだい」

ソファに寄りかかり、 は続きをやってくれとばかりにヒラヒラと手を振る。

が一緒なのも魔核コアドロボウ絡みなんだよ。
ま、やったことは本当だし否定しないぜ」
「・・・では、それ相応の処罰を受けてもらうが、いいね?」
「フレン!?」

フレンの言葉に驚いたエステルはユーリを庇おうとしたがそれよりも早く青年が言葉を紡ぐ。

「それはいいけど、ちょっと待ってくんねぇか」
「下町の魔核コアを取り戻すのが先決と言いたいのだろ?」

二人の阿吽の呼吸のようなやり取りに、 は微笑を浮かべて聞いていた。
そんな時、ドアが開き騎士服に身を包んだ女性と魔導士らしい小さな男の子が入ってきた。

「フレン様、情報が・・・
なぜ、リタがいるんですか!!あなた、帝国の協力要請を断わったそうじゃないですか?
帝国直属の魔導士が、義務づけられている仕事を放棄していいんですか?」

リタを見つけた途端、男の子が一気に捲し立てるように言い放ち、リタを見上げて怒りを露にする。
だが、怒鳴られた当人は不思議そうにその男の子を見下ろしてるだけである。
怒鳴り終わったタイミングでユーリは当然の事をリタに問いかける。

「誰?」
「・・・だれだっけ?」

リタ自身も全く記憶にないようで、顎に手を当てて記憶を手繰っているようだ。
そんなリタの反応に男の子は小さく鼻を鳴らし、見たくもないとばかりに背を向けて眼鏡を押し上げた。

「・・・ふん、いいですけどね。
ぼくもあなたになんて、全然、まったく、興味ありませんし」

一語一語強調して言っている様子は、興味があると言っているような物言いだ。
しかし、ここで怒りに油を注いでも仕方ない、と は黙っていた。

「紹介する。僕・・・私の部下のソディアだ」

フレンから紹介された明るい橙色のショートカットの女性が軽く会釈を返す。

「こっちはアスピオの研究所で同行を頼んだウィチル」

リタに噛み付いた男の子ウィルチルは相変わらず背を向けたままだ。
そして、フレンは幼馴染みに向く。

「彼は私のーー」
「こいつ・・・!賞金首の!!」

フレンがユーリを紹介しようとしたが、ソディアがそれより早く鞘から剣を抜きユーリにつきつける。
剣先を向けられる当人は動じることなく、腰に片手をあてたままソディアの視線を正面から見返している。
ソディアの先走った行動に は嘆息し、宥めるように声を上げる。

「任務に忠実なのは結構だけど、上司の話を聞いてからでも遅くないんじゃないの?」
「なんだと・・・!」
「ソディア!待て・・・!彼は私の友人だ。そして彼女も」

フレンの言葉にソディアは数呼吸、魚のように口をパクパクと開け閉めする。

「なっ!賞金首ですよ!?」
「事情は今、確認した。確かに軽い罪は犯したが、手配書を出されたのは濡れ衣だ。
後日、帝都に連れ帰り私が申し開きをする。その上で、受けるべき罰は受けてもらう」

フレンの言葉に渋々ながらも納得し、ソディアは悔しげに剣を鞘に戻した。

「し・・・失礼しました。ウィチル、報告を」
「もう用事は終わったんでしょ」

リタの面倒そうな声に鋭い視線を向けたウィチルだったが、すぐにフレンに向き直った。

「この連続した雨や暴風の原因は、やはり魔導器ブラスティアのせいだと思います。
季節柄、荒れやすい時期ですが、船を出すたびに悪化するのは説明がつきません」
「ラゴウ執政官の屋敷内に、それらしき魔導器ブラスティアが運び込まれたとの証言もあります」

ウィチルとソディアのキビキビとした報告にフレンだけでなく、リタも考え込む。

「天候を制御する魔導器ブラスティアの話なんて聞いたことないわ。そんなもの発掘もされてないし・・・
・・・いえ、下町の水道魔導器アクエブラスティアに遺跡の盗掘・・・まさか・・・」

リタの呟きを聞きながら、 は今まで散らばっていた手がかりが一本の線へとなりつつあるのを感じた。
だが、繋がるにはまだ手がかりが足りない・・・

「執政官様が魔導器ブラスティア使って、天候を自由にしてるってわけか」
「・・・ええ、あくまで可能性ですが。
その悪天候を理由に港を封鎖し、出港する船があれば、法令違反で攻撃を受けたとか」

聞かされた内容に、ユーリはさらに眉根を寄せた。

「それじゃ、トリム港に渡れねぇな・・・」
「とんだ執政官がいたものね。まぁ、部下見りゃ予想もつくけど・・・」
「執政官の悪い噂はそれだけではない。
リブガロという魔物を野に放って、税金を払えない住人達と戦わせて遊んでいるんだ。
リブガロを捕まえてくれば、税金を免除すると言ってね」

フレンは住民を救えないことを悔いてか、苦しそうに状況を説明する。
聞かされた内容にエステルは両手で口元を覆った。

「そんな、ひどい・・・」
「入口であった夫婦のケガって、そういうからくりか」
「夫婦?」

リタの言葉に何の事かと、ユーリに訊ねようと は視線を送る。

「そういえば、子どもが・・・」
「子どもがどうかしたのかい?」
「なんでもねえよ。色々ありすぎて疲れたし、オレらこのまま宿屋で休ませてもらうわ」

しかし に答えるより前に、ユーリはカロルの言葉を遮りフレンに背を向けて部屋を出て行った。
それに続くようにリタやカロルまで部屋を出て行った事で、仕方ないとばかりに もエステルの背に手を回し部屋を後にしようとした。

「それと・・・例の『探し物』の件ですが・・・」
(「探し物?」)

ソディアの言葉に、エステルが振り返った。
もその言葉に興味が沸いたのだが、部外者に聞かれたくないせいか、それ以上言葉が続かない。
諦めた はエステルを促し、先に行ったユーリ達を追いかけた。

















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2008.2.23