ーーNo.33 墓標 前ーー








































遅れて到着したカロルと合流し、一行は獣道を進んだ。

「そういえば、手配書って話、何か聞いてる?」

殿を務めるの声に、すぐ前を歩くユーリは肩を竦めた。

「あぁ、どうやらオレも悪ふざけが過ぎたみたいだぜ?
脱獄罪、その他諸々で5000ガルドだとさ」
「ふーん・・・・・・脱獄だけで手配書、ね・・・」

足場の悪い道を進みながら、素っ気ない返事を返す。
いつもであれば何かしらの小言があるはずだがそれがない。
それっきり黙り込んだに、眉を寄せたユーリだったがあえて問い返す事もなく歩みを進めた。

途中、カロルがビリバリハの花粉で暫し足を止めた(リタが突き飛ばしたせいだが)以外に騒ぎはなく、草木を踏む音だけが響く。
鬱蒼としていた枝葉の代わりに蒼々とした空がのぞき、柔らかな風が一行を撫でる。
その時、

ーーグルルルルルッ・・・ーー

静寂を割くような低い唸り声が辺りに響き渡る。

「ん・・・なに?うわあああっ!
あ、あれ、ハルルの街を襲った魔物だよ!!」

カロルの焦った叫び声でその方向に視線が集中する。
するとユーリ達を見下ろすように一匹の魔狼が顎を開け、遠目から分かるほどそこから滴が落ちていた。
どうやら魔狼はこちらを獲物と判断したようだ。

「へえ、こいつがね。生き残りってわけか」
「ほっといたらまたハルルの街を荒らしに行くわね、たぶん」
「でも、今なら結界があります」
「不安の芽は早々に摘むに限るわ。来るわよ!」

の声を合図にしたように、魔狼がこちらへ飛びかかってきた。
大人の悠に3倍はある大きさの割に動きが素早く、しかも爪には毒があるようでかすり傷でも鋭い痛みが走った。

「こいつはさっさとケリつけた方が良いな。行くぜ!」
「了解!」
「わ、わかった」

ユーリの声にとカロルが応じ、魔狼に向かって駆け出して行った。
攻撃を防ぐ間、稼がれた時間でリタとエステルは魔術を紡ぐ。

「揺らめく焰、猛追・・・ファイヤーボール!」
「悪いけど、あなたには倒れてもらうわ。斬華風刃!」
「うわあっ!」
「カロル!・・・堅牢なる守護を、バリヤ!」
「燃えろ!爆砕陣!」

連携した技運びで魔狼を斬り伏せ、ユーリの技を受けたのを最期に魔狼は倒された。
動かなくなったのを確認し、各々が武器を収める。

「な、なーんだ。手ごたえゼロだったね」
「でも、この先もまだ何匹も出てくるかも・・・」
「そうなったら、また魔術でぶっ飛ばしてやるわよ」
「ま、そうならないこと皆で祈ろうぜ!」
「ワンッ!」
「・・・・・・」

魔物を倒したことで、緊張が解かれ、会話が弾み足取りも軽くなる。
だがいつもならその会話に楽しげに加わるはずのの声がない。
それに気付いたエステルが振り返ると、そこには虚空を見つめたままのが立ち止まっていた。
声をかけることを躊躇わせるその雰囲気に、エステルは気遣わしげに声をかける。

「あの・・・?どうかしました?」
「・・・ん?あ、ごめん。行こうか・・・」

遅れていたことを言われたと思ったのか、は止まっていた足を動かしエステル達の下へと歩き出した。
そんなの様子にカロルは隣に立つユーリの裾を引っ張った。

「ねえ、ってなにかあったの?いつもより口数少なくない?」
「そういや、ここ通るの嫌がってたな・・・それに関係してんのか?」

ひそひそと小声で話ていた二人。
が、

「別に何でもないって。
ちょっと疲れてるだけだから、気にしないよーに」
「うわあっ!!」
「っおい!気配消して近づくなよ!」

いつの間にか後ろに立っていたの声に二人は飛び上がった。

「あはは〜、驚いた驚いた〜」

カラカラと笑ったはそのままエステル達と一緒に進み始めた。
エステル達と話す横顔はいつもと変わらない。
ただ、話していない間に見せる表情は何かを憂いているような、悲しみを押し殺しているような表情なのがユーリは気になっていた。


















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2008.2.18