ーーNo.31 暗殺者の狙いーー








































ハルルの樹を後にした はのんびりと街の入口にいるエステル達の所へ歩いていた。
空からは薄紅色の花びらがハラハラと舞い降り、時折吹く風が花弁とともにほのかな香りを巻き上げる。

(「うわ〜、仕事放棄してのんびりしたいや〜」)

風に弄ばれた髪を気にせず、 は緩いペースのまま歩き続ける。
細い路地脇を通った時だった。

(「あれ?」)

ほんの一瞬、何かが通ったような気がして は路地に視線を向けた。
だが、視線の先には、薄桃が降ってくる以外に何も見つけられない。
こんな時、自身の直感で行動している はすぐに路地へ身を投じた。
身体を若干斜めにしないと真っ直ぐに進めないほどの狭さだったが、慣れたように奥へ奥へと進んで行く。
もう少しで路地を抜ける、その直前で声が聞こえたため は歩みを止め、息を潜めた。

「ーーうだ、間違いない。
手配書の男、コートの女、犬が一匹とガキが二人だ」
「標的以外は何も聞いていない。
手段は問わん、さっさと片付けるぞーー」

男達が立ち去ったのを確認すると、 は路地から抜け出し、立ち去った方向を見つめた。
運良く角を曲がったところで男達の後ろ姿を確認できた。

(「また海凶リヴァイアサンの爪・・・
しかもあの言い様、絶対私達のことよね・・・でも、手配書?」)

先ほど男が言った言葉に腑に落ちない点もあったが、これから起こるだろう事に盛大にため息をつき、通り抜けた路地に再び身を翻した。
表通りに出た はすぐ違う路地に入っていき、入り組んだ道を歩き進めた。
仕事柄各地を巡っているため、ほとんどの街の構造は頭に入っている。
記憶を辿り、先ほどの男達の後を追うように、 は早足に薄暗い路地を突き進む。
もうすぐ入口近くなるという時に海凶リヴァイアサンの爪に追いついた。
細い路地が幸いし、ご丁寧に列をなしていた。
そろそろと一番後ろの男に近づき、素早く首筋に手刀を打ち込む。
倒れる前に脇路地に引き摺り込み、他の仲間の動向を伺う。
ちょうど風が揺らした葉擦れの音に倒れた音はかき消されたようで、気付かれた様子はない。
列は振り返る事なく着々と歩みを進めて行く。
もう少し数を減らしたいと思っていた だったが、もう目と鼻の先にエステル達がいるはず。
しょうがない、と腹を括り今まで潜めていた足音を鳴らし、一番後ろの男の首筋に柄を打ち込み昏倒させる。
さすがにここまでやると気付いたようで、男達は一斉に振り返った。
は振り返る直前にさらに踏み込み、もう一人の男の肩を刀背で打ち、地面に沈ませる。
正面から赤眼の視線を受けた は臆しもせず、不敵な笑みを浮かべて言い放つ。

「探しているのは私かしら?」

それだけ呟くと、男達に背を向け脇の路地へ駆け出した。
追いかけてくる足音を聞きながらさらに脇道に逸れ、隙を見ては昏倒させていく。
追手がまだ複数残っている時だった。
街の入口辺りの方角から、景気のいい騒ぎが聞こえてきた。

(「ちょっとちょっと・・・誰よ、わざわざ目立つような事を・・・」)

必然的に追っ手にも騒ぎは聞こえたようで、 の追跡を打ち切り入口へと向きを変えた。
も追っ手とは違う道を選び、入口へと走り出した。
入口が見下ろせる場所まで来ると、騎士団のシュヴァーン隊がユーリ達と騒ぎを起こしているところだった。

「よりによってまた騎士と一悶着か・・・」

はため息をつきながら膝をつき、成り行きを見下ろしていた。
周りを見ても、海凶リヴァイアサンの爪の赤眼達はまだ来ていないようだ。
視線を戻すと決着がついたようで、小隊長であるルブランが返り討ちにあった部下に檄を飛ばしている。

「ま、本気で捕まえるならフレン隊でも寄越すべきだったわね」

そんな事を思っている間に、下ではリタが魔術を唱えシュヴァーン隊を吹き飛ばした。

「相変わらず過激なんだから・・・!」

リタの行動に苦笑していた だったが、ユーリ達の後ろから近づく赤眼に気付き腰を上げた。
最悪にも一人は弓を構え、狙いを定めている状態だった。
舌打ちをついた は、そこから飛び降りユーリ達の後ろへ着地した。
そして、すぐに投擲ナイフを背中から抜き取り弓を狙って投げ放った。
ナイフは違える事なく弓に刺さり、矢は放たれる事はなく構えていた男は悪態を吐いた。

!いままでどこにいたの?」

カロルの声に、 は振り返らずに答える。

「話は後よ!まずはここから離れないと!」

赤眼から視線を逸らさず、双剣を構えいつでも対応できるように身構える。
カロルが走り出す音を聞き、まだ後ろに控えるリタとエステルにも声をかける。

「二人とも早く!狙いは私達全員みたいなんだから!」

急かされる声にリタがエステルに苛立った声を上げる。

「・・・あ〜っもう!!決めなさい、本当にしたいのはどっち?
旅を続けるのか、帰るのか!」
「・・・今は、旅を続けます」
「賢明な選択ね。あの手の大人は懇願したって分かってくれないのよ」
「話がまとまったなら急いで!」

じりじりと距離を詰めてくる赤眼に、 も徐々に後退していった。
また一戦やるのか、と思っていたがシュヴァーン隊が駆けつけ、 の前に並んだ。

「ここは我らが本分、我らの剣は市民を守るため!
行くぞ、騎士の意地を見せよっ!」

ルブランの行動に目を丸くした にユーリから声がかかる。

「ここはあいつらに任せておけよ。
騎士団の心得を守ることに関しちゃ、バカに真面目だぜ」
「そうなの?
ま、ユーリが言うならそうするわ」

は双剣を鞘に収めると、ユーリと共に背を向けハルルの街を後にした。

















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2008.2.15