ーーNo.30 咲き乱れる花弁ーー
「げっ、なにこれ。もう満開の季節だっけ?」
ハルルに到着早々、リタは大樹を見上げ唖然とした声を上げた。
そんなリタにカロルは誇らしげに胸を反らす。
「へへ〜ん、だから言ったじゃん。ボクらでよみがえらせたって」
そんなカロルの頭にリタは無言のまま手刀を落とし、ハルルの樹に向かって走って行った。
痛みに悶えるカロルに苦笑をこぼし、
はユーリに振り向いた。
「私が追いかけるわ。
ちょうどユーリに用事がある人が来たみたいだし」
そう言った
の視線の先には、ハルルの街の長が会釈を返した。
じゃ後で、と言い残し
はリタを追いかけハルルの樹へ向かって行った。
樹の根元に着くと、リタが独り言を呟きながら大樹を見上げていた。
「そんなに独り言呟いてると不審人物よ」
「・・・あんた」
「何か分かった?」
ゆっくりと歩いてきた
の問いかけに、少女は頭を振りため息をついた。
「正直、信じられない。
これが枯れかかってたなんて・・・」
「なんかまずいの?」
「結界魔導器としての機能のことを言ってるなら、問題はない・・・けど・・・」
言い淀むリタに
はもう一度大樹を見上げ、自分の推論を口にする。
「咲き過ぎてて異常って?」
「っ!?」
その言葉にリタはバッと顔を上げ、
の顔をまじまじと見つめる。
そして再びため息を吐いたリタは
に視線を戻した。
「・・・ありえないのよ、満開の季節でもないのに花がこんなに咲いて・・・結界もずっと安定してるなんて。
こんなことされたら、あたしたち魔導士は形無しよ・・・」
「それを確かめたくて付いてきたの?」
「・・・別に。あんたには関係ないわ」
「ま、言いたくなければいいけどね」
そう言った
は再び視線を上に向けた。
どれほどそうしていたか、同じように視線を上げていたリタが呟いた。
「これ、どうやってエステリーゼがやったの?」
問いかけでなく確認する言い方に
は首傾げ、視線をリタに下ろした。
「私、エステルがやったなんて言ったっけ?」
「とぼけるつもり?アスピオを出る前に、カロルが口滑らしたでしょ?
はぐらかされたけど・・・」
「あはは〜、さすが天才って言われるだけあるわね。
抜け目ないわ〜」
苦笑した
にリタは更に問い詰める。
「この樹のことだけじゃない。
シャイコス遺跡でエステリーゼが使った治癒術も・・・
あんたが遮ったけど、今思えばタイミングが良すぎる。
一体、エステリーゼは何者?あんた、何を知ってるの?」
あまりに矢継ぎ早に聞いてくるので、
は宥めにかかった。
「はいはい。ストップ、スト〜ップ!
私はエステルの保護者じゃないんだから、そんなに言われても困るって。
それに、リタばっかり事情を知っちゃうのはアンフェアってもんでしょ?」
悪戯っぽく片目をつむると、リタは眉間に皺を寄せる。
そんなリタに気付きながらも
は推論を混ぜ込み、更に聞き返した。
「リタこそ、そんなに必死なのは小屋で見てたあの術式と関係あるの?」
「っ!」
カマをかけた問いかけであったが、僅かに反応したリタに確かな肯定をもらったと
は苦笑した。
「素直なのは良いことだと思うわ。
意地悪な手使ったから、これはお詫び。
エステルがハルルの樹を甦らせたのはホントよ。
ただ、本人曰く、よく覚えてないって話だけどね」
「・・・そう」
俯いたリタは考え込んだようだが、
は更に言葉を続けた。
「あと一つ、無駄に数年生きてる奴からのお節介。
魔導器に心があると言ってたけど、あくまでも魔導器は道具でしかない。
リタがそっちを優先させたい気持ちも分かるけど、人の心も蔑ろにだけはしないでね?」
胡乱気に見つめてくるリタに
は苦笑すると、視線をハルルの樹に向けたまま口を開いた。
「ま、旅する間はリタもエステルも同年代の友達同士、楽しくやってきましょ♪」
「なっ!あ、あたしは別に・・・友達って・・・」
リタの年相応な反応に
は微笑み、もう少しからかってやろうかと悪戯心が芽生えてきた。
しかし、背後から歩いて来る音に振り返ると、ユーリが坂を上って来るところだった。
後ろに誰もいない所を見ると、どうやら一人で来たらしい。
「面倒事は起こしてないらしいな」
「ちょっと、歩くトラブルメーカーに言われたくないわね」
半眼になりながら答えた
を気にする事なく、青年はリタに向き直り口を開く。
「で、調べは済んだのか?」
「とりあえず終わったわ」
「そうそう。ユーリが上手に話を遮らなかったおかげで、私が質問攻めよ。
そうだ!リタ、エステルの保護者はユーリだからね」
「はぁ?いつからオレがお守り役になったんだよ」
ユーリの呆れた声を聞き流し、
は背を向けて歩き出した。
「リタに用事だったんでしょ。
私はエステル達の所に戻ってるから」
「あ、おい!」
そう言い残し、じゃあね〜、と
は足早にその場を後にした。
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2008.2.13