シャイコス遺跡を後にし、再びアスピオへと戻ってきた。
相変わらず辺りは薄暗く、肌寒い。
明るい陽光から入るとますますそれが際立っていた。

「・・・肝心のフレンはいませんでしたね」
「その騎士、何者なの?」
「ユーリの友達です」

ユーリが口を開く前に、エステルが素早く説明する。
街の入口前で立ち止まり、リタは考え込むようにちらりとユーリを見る。

「ふ〜ん、あんたの友達ね。それは苦労するわ」
「なんだよ?」
「別に。
で、なんでそいつがこの街にいるの?」

事情が分からないリタの当然の質問に、エステルはフレンがここに来ている事情を説明する。

「ハルルの結界魔導器シルトブラスティアを直せる魔導士を探して・・・」
「ああ・・・あの青臭いのね・・・あたしのところにも来たわ」

その時の事を思い出してか、リタの表情が呆れ顔となった。
フレンに会ったリタにエステルは心配そうに訊ねる。

「フレン、元気そうでした?」
「元気だったんじゃない?」
「うっわ、適当・・・」

カロルの言葉に半眼を向けた後、少女はエステルに視線を戻す。
「騎士の要請なら他の魔導士が動くだろうし、もうハルルに戻ったんじゃない?」
「・・・そんな・・・」

落胆の声を上げるエステルを横目に、リタはユーリに向き直る。

「で?疑いは晴れた?」
「リタは、ドロボウをするような人じゃないと思います」
「思うだけじゃ、やってない証明にはならねぇな」
「でも・・・!」

エステルの反論にユーリはにべもなく言葉を返す。
そんなユーリにリタは淡々と言葉を紡ぐ。

「いいよ、かばってくれなくて。
けど、ほんとにやってないから」
「ま、おまえはドロボウよりも研究の方がお似合いだもんな」

そう言い残すとユーリは門番の立つ入口へと歩いて行った。
それまで黙っていた は小さく嘆息するとユーリの背中を追いかけ、横に並ぶ。

「・・・全く、相変わらずなんだから」
「何か言ったか?」
「礼節は弁えないとって言ったの。
初対面であんな事もしたんだしね」

の指摘に苦虫を噛潰した顔になった青年は、分かってるよ、と零した。


















































リタから通行証をもらったユーリ達はリタの小屋で思い思いに時間を潰していた。
ユーリ、カロル、ラピードは床に座り、エステルは落ち着きなく右往左往歩き回る。
そんなエステルを視界の端に捕らえながら、 はその辺にあった本をぺらぺらと捲っていた。

「フレンが気になるなら黙って出て行くか?」

あまりに落ち着きがないエステルに、寝そべったままユーリが声をかける。
その声にエステルは歩き回るのをやめ、首を横に振った。

「いえ、リタにもちゃんと挨拶しないと・・・」
「なら、落ち着けって」

そう言って再びを目を閉じたユーリにカロルが話を振る。

「ユーリはこのあと、どうするの?」
魔核コアドロボウの黒幕のとこに行ってみっかな。
デデッキって奴も同じとこ行ったみたいだし」

そんなカロルとユーリの会話を背中越しに は聞いていた。
紙を捲りながらも、本の内容は頭の中には入っていない。
これまでに起こった事柄を思い返し、思考の海に没頭していた。

(「またドンの面倒事を増やしそうな件、持って帰ることになったか・・・
それに聞かなきゃいけない事もできたし・・・
はぁ、なんだか今回は立て続けね・・・」)

そっと息を吐き、本を閉じるとタイミング良くドアが開きリタが戻ってきた。
少女は視線を落とすと、そこに横になっているユーリに呆れ返る。

「待ってろとは言ったけど・・・どんだけくつろいでんのよ」

その声に も振り返ると、ユーリはすぐに起き上がりおもむろに口を開いた。

「疑って悪かった」
「軽い謝罪ね。
ま、いいけどね、こっちも収穫あったから」

そう言った後、小屋奥の壁面に描かれた難解な術式を見つめ、エステルを肩越しに見つめる。
その視線に気付いたエステルは不思議そうに首を傾げた。

「リタ?」
「・・・」

そんなリタを は見やり、どうなることかと頭を振った。

「んじゃ、世話かけたな」
「なに?もう行くの?」
「長居してもなんだし、急ぎの用もあるんだよ」

ユーリが言い終わると、エステルがリタに近づき頭を下げる。

「リタ、会えて良かったです。
急ぎますのでこれで失礼します。お礼はまた後日」
「・・・わかったわ」



















































ーーNo.29 不器用な道連れーー




















































小屋を後にし広場まで歩いて来ると、後を追うように付いてくる人物が一人。
それを見送りだと思ったユーリは、後ろから歩いて来る少女に声をかけた。

「見送りならここでいいぜ」
「そうじゃないわ、あたしも一緒に行く」
「え、な、なに言ってんの?」

困惑するカロルに構わず、リタはユーリ達に合流する。

「まさか、勝手に帰るなんてこういうことか?」
「うん」
「うんって、そんな簡単に!」
「いいのかよ?おまえ、ここの魔導士なんだろ?」
「それに帝国管轄の魔導士は研究の専念義務があったと思うんだけど・・・」

ユーリと の指摘に、顎に手を当てたリタは目を閉じしばらく考え込んだ。

「・・・んんー・・・」

数呼吸の後、何か閃いたのか、ぱっと目を開き尤もらしい理由を口にした。

「ハルルの結界魔導器シルトブラスティアを見ておきたいのよ。
壊れたままじゃまずいでしょ?」
「まぁ、それなら確かに理由はつくけど・・・」

言葉を濁す に、カロルは後を継ぐように言葉を続ける。

「それなら、ボクたちで直したよ」
「はぁ?直したってあんたらが?素人がどうやって」

胡乱気な視線を見せたリタに、カロルは自慢気に胸を反らした。

「よみがえらせたんだよ。
バ〜ンっと、エステーー」
「素人も侮れないもんだぜ」

続きを遮るようにユーリが割り込み、言葉の続きを打ち切った。
それにますますリタは疑わしい視線を注ぎ、続きを遮ったユーリをしげしげと見つめた。

「ふ〜ん、ますます心配。
本当に直ってるか、確かめに行かないと」
「じゃぁ、勝手にしてくれ」

諦めたように片手を振ったユーリはリタの視線に背を向けた。
すると成り行きを見ていたエステルが走り寄り、リタの手を掴んで満面の笑みで笑いかけた。

「な、なに!?」
「わたし、同年代の友達、はじめてなんです!」
「う、あ、あんた、友達って・・・」
「よろしくお願いします!」
「ふぇ、え、ええ・・・」

若干赤くなったリタに、エステルは嬉しそうに握手した手を上下に振る。
賑やかになりそうね、と呟いた の隣でユーリは深々とため息をついた。














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2008.2.11