様々な仕掛けをくぐり抜け、遺跡の最奥まで辿り着いたユーリ達。
そこには周囲の沈黙に溶け込むように、大きな人形魔導器ゴーレムが静かに座っていた。
ゴーレムを巨大化させたような見た目に、攻撃してくるのではと皆が距離を置く。

「あ、おい!」

しかし、そんなことに構わず魔導器ブラスティアに駆け出して行ったリタ。
ユーリの制止の声を気にする事なく、駆け寄った早々少女は調査を始める。
見た事ない魔導器ブラスティアに、リタ以外はそれを興味深そうにそれを見上げた。

「うわ、なにこれ?!これも魔導器ブラスティア?」
「こんな人形じゃなくて、オレは水道魔導器アクエブラスティアがほしいな」
「ちょっと、不用意に触んないで!この子を調べれば、念願の自立術式を・・・
・・・あれ?うそ!この子も、魔核コアがないなんて!」
「この子もって・・・ここ以外でも魔核コアがなくなってることがあったの?」
「ここ最近、調査先で魔核コアがない魔導器ブラスティアを見かけるの。
原因の調査を帝国に願い出ている最中なんだけど・・・」

リタの返答に、 は思案顔となった。
そんな二人のやり取りを聞いていたユーリは、気配を感じ視線を上げる。
すると、アスピオで見かけたマントが急いで柱の陰に隠れたため目を細めた。

「リタ、お前のお友達がいるぜ」

ユーリの声でリタと は話をやめ、その視線の先を追う。

「ちょっと!あんた、誰?」
「わ、私はアスピオの魔導器ブラスティア研究員だ!」

リタの鋭い問いに、隠れるのを諦めた男は威厳を保とうと声を張り上げる。

「・・・だとさ」
「思いっきりどもってるあたり、怪しすぎるでしょ」

ユーリと の声を無視し、男はさらに声を上げた。










































ーーNo.27 人形魔導器ゴーレムーー








































「お前達こそ何者だ!ここは立ち入り禁止だぞ!!」
「はあ?あんた救いようのないバカね。
あたしはあんたを知らないけど、あんたがアスピオの人間なら、あたしを知らないわけないでしょ」
「・・・無茶苦茶言うなあ」

リタの淡々と紡がれる言葉に、カロルは唖然とした顔しかできない。

「ま、偽物決定ってことね」
「こっちは聞きたい事があるんだ。顔貸してもらうぜ」

自身の得物に手を置いた とユーリは飛び出すタイミングを伺う。
不利を悟った男は、魔導器ブラスティアの後ろに回り込んだ。
それを止めようと とユーリは走り出すが距離があるため、どうすることもできない。

「くっ!邪魔の多い仕事だ。騎士といい、こいつらといい!」

そう男が言い終わらぬうちに、手を持った魔核コア魔導器ブラスティアにはめ込んだ。
すると、沈黙を守っていた魔導器ブラスティアが起動し立ち上がり、こちらに攻撃を仕掛けてきた。
どうやら神殿内にあったトラップと同様にこちらを侵入者と認識したらしい。

「うっわーっ!動いた!!」

カロルの叫びに構わず、リタは魔導器ブラスティアに近づこうと走り出す。
太い腕が振り上げられ、今にもリタを攻撃しようとしているが、リタは見えていないのかただ近づこうと走り続ける。
声を上げても間に合わないと判断した は、リタを追って走り出した。

(「間に合わないなら!」)

後わずかな距離が苛立たしい。
そして、ついに太い腕が振り払われリタが吹き飛ばされた。
柱へぶつかる!
が、直前に 飛び込み、リタを受け止めると共に柱に叩き付けられた。

「リタ! !」

吹き飛ばされた二人の下へエステルが駆け寄る。

「っつぁ〜・・・」
「動かないでください!今、傷を・・・」

リタを抱えた は、背中の痛みに呻き声を上げる。
エステルは治癒術を唱え、暖かい光が身体を包む。
意識を失っていたリタは目を覚まし、ちょうど術の発動を終えたエステルの腕を掴んだ。

「あんた、これって・・・」
「な、なに!?」
「今の・・・」
「口を動かすのは後。
動けるならユーリ達の手伝いよ」

痛みが薄らいだ は立ち上がり、リタの追及を遮った。
そして攻撃を防いでいるユーリ達へ加勢するため、急き立てる。
しかし、魔導器ブラスティアを起動した男の後ろ姿を見た事で、リタはそちらを追おうと向きを変える。

「あたし、あのバカを追うから!ここはあんたらに任せた!」
「任せたって、行けねぇぞ!?」

ユーリの言葉通り、出口を通らせまいと目の前に巨体が立ち塞がる。
その状況にリタは悪態を吐くしかなかった。

「・・・ああ!あのバカのせいで!!」
「仲良く人形遊びするしかねえな。
乱暴者には剣が一番だ」
「ユーリが一番心得てるわよね」
「本当にこんな大きいの倒せるんです!?」
「速攻ぶっ倒すの!そして、あのバカを追うわよ!」











































幸いな事にあの巨体が一体だけだったおかげで、人数の利を活かし地面に沈ませた。

「あとは動力を完全に絶てば・・・ゴメンね・・・」

はめ込まれた魔核コアを外すと、魔導器ブラスティアは完全に動きを停止した。
動かなくなったのを確認し、逃げた男を追うためユーリ達は魔導器ブラスティアに背を向け歩き出す。

「リタも早く」
「わかってるわよ!」

カロルの呼びかけにつっけんどんに返事をしたリタは。同じく立ち止まったままのエステルに声をかけた。

「あんたも早く!」
「でも、フレンは・・・」
「あんな怪しい奴が、ウロウロしてるところに騎士団なんていねぇって」

苛立ちが言葉に滲んでいるユーリに、 は嘆息した。

「まぁまぁ、ここにいたってしょうがないわ。
とりあえずさっきの奴を追いましょ。
もしかしたらあいつが何か知ってるかもしれないしね」

宥めるようにユーリに言葉をかけ、歩みを止めているエステルの背中を押す。
歩き出しながら、リタが悔しそうに呟いた。

「まったく、あの子を調べたら自立術式が解析できたのに!」
「そのためにボクらを戦わせたの?」
「当たり前でしょ」
「ここまできっぱりだと清々しいわね〜」

全く悪びれないリタに、そう思わない?と は隣のエステルに笑いかける。
その笑顔にエステルは困ったように微笑を浮かべる。

「極悪人だよ!」
「ドロボウ探しのついでに手伝ってもらっただけよ」

リタはカロルの叫び声を煩そうに顔をしかめる。

「口じゃなく足使えよ!」

遅々として歩みが進まない 達に向かって、ユーリが先頭から吠えた。














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2008.2.9