ーーNo.24 天才魔導士の登場 後ーー








































放たれた魔術により当たりに煙がもうもうと立ち込めた。
視界が晴れると、魔術を放った人物のフードが翻っていた。

「いやはや、豪快だねぇ〜」
「げほげほ。ひどい・・・」

フードから出てきたのは、肩にかからないくらいの茶色の髪、深緑の意志の強い瞳。
見た目からして、15、6歳くらいだろうか。

「お、女の子!?」
「こんだけやりゃあ、帝都で会ったときにも逃げる必要なかったのにな」

エステルの驚きの声に構わず、ユーリは背後から抜いた剣をつきつけた。
気持ちが分からなくもなかった だったが、その行動に眉根を寄せる。

「はあ?逃げるって何よ。
なんで、あたしが、逃げなきゃなんないの?」
「そりゃ、帝都の下町から魔導器ブラスティア魔核コアを盗んだからだ」

剣を突きつけられても動じる事なく、更に不機嫌になった表情でユーリを睨み返す少女。

「いきなり何?あたしがドロボウってこと?
あんた、常識って言葉知ってる?」
「まあ、人並みには」
「勝手に家に上がり込んで、人をドロボウ呼ばわりした挙句、剣突きつけるのが人並みの常識!?」

全て的を得た切り返しに、おぉ〜やるな〜、と は声を上げる。
ユーリと火花を散らせていた少女はラピードが近づいてきた事で、更に不機嫌に拍車がかかった。

「ちょっと、犬!犬入れないでよ!
そこのガキんちょも!その子返しなさい!!」
「え?」
魔導器ブラスティアよ、魔導器ブラスティア!!返しなさい!」

少女の剣幕にカロルは手に持っていた魔導器ブラスティアを元の場所に戻す。
はさて、どうしたものか、と思っていたがエステルが少女の前に進み、深々とお辞儀をする。

「な、なによ、あんた」
「わたし、エステリーゼって言います。突然、こんな形でお邪魔してごめんなさい!
・・・ほら、ユーリ、 とカロルも」
「・・・」
「ども、お邪魔してまーす」
「ご、ごめんなさい」

ソッポを向いたユーリの横で、 は軽く片手を上げて挨拶をする。
先ほどの敵意剥き出しの雰囲気を若干収め、少女はエステルに当然の事を訊ねる。

「で、あんたらなに?」
「えと、ですね・・・
このユーリという人は、帝都から魔核コアドロボウを追って、ここまで来たんです」
「それで?」
魔核コアドロボウの特徴ってのが・・・
マント!小柄!名前はモルディオ!
・・・だったんだよ」

話を聞いてもらえるようになり、ユーリは叩きつけるように言い放つ。
それを興味無さげに聞いていた少女は頷いた。

「ふ〜ん、確かに私はモルディオよ。リタ・モルディオ」
「あ、ユーリ。
盛り上がってるとこ悪いんだけど・・・」
「これのどこが盛り上がってんだよ」

が思い出したように言葉をかけると、苛立ったユーリが噛みつくように返す。

「・・・八つ当たりはやめてよね。
色々あって言い忘れてたんだけど、帝都で見たドロボウってこの子じゃないわ」
「え?背格好もユーリの話と同じでしょ!?」

カロルの指摘に は首を横に振る。

「私が知ってる『天才魔導士モルディオ』はね、
魔導器ブラスティアしか興味がなくて、帝国で義務付けられてる定期報告も研究が忙しいって突っぱねてる、
人付き合いのない変人・・・」
!本人を前に失礼でーー」

エステルの非難する声に、 は片手を上げてその先を制する。

「そんな奴がわざわざ帝都の水道魔導器アクエブラスティア魔核コアを盗みに来る訳ない。
そもそもここには研究って名目で魔核コアは簡単に手に入る。
それに私達が会った奴とは雰囲気がまるで違うしね。
まぁ、噂になってた天才がこんな女の子だとは思わなかったけど・・・」
「・・・だそうだが、実際のところどうなんだ?」

の話を聞いても、疑り深い視線を外す事なくユーリはリタに詰問する。

「だから、魔核コアを盗むとかそんなの知ら・・・
・・・あ、その手があるか・・・ついて来て」

「はあ!?おまえ、意味わかんねえって。
まだ、話がーー」
「いいから来て。
シャイコス遺跡に、盗賊団が現れたって話、せっかく思い出したんだから」

しつこいユーリにそう言い残し、リタは部屋の奥へと歩いて行った。

「盗賊団の話、それ本当なの?」
「協力要請に来た騎士から聞いた話よ、間違いないでしょ」

奥からくぐもった声で『騎士』という言葉にエステルが反応し、ユーリに小声で呟く。

「その騎士って、フレンのことでしょうか?」
「・・・だな。あいつ、フラれたんだ」
「まぁ、あんな感じならフレンも太刀打ちできなかったかもね〜」
「そういえば、外にいた人も、遺跡荒らしがどうとかいってたよね?」

4人は額を付き合わせて今までに聞いた情報を整理していく。

「つまり、その盗賊団が魔核コアを盗んだ犯人ってことでしょうか?」
「さぁな・・・」
「決めつけるには、まだ色々情報が足りないわね」

エステルの問いにユーリと は似たように返す。
すると、先ほどのマントを脱ぎ、着替え終えたリタが戻ってきた。

「相談、終わった?じゃ、行こう」
「とか言って、出し抜いて逃げるなよ?」
「ユーリ、ここで騒いでも埒があかないって」

未だ信用していないユーリの言葉にリタは半眼を向ける。

「来るのがいやなら、ここに警備呼ぶ?困るのはあたしじゃないし」
「行ってみませんか?フレンもいるみたいですし」

なかば脅しともとれる発言だったが、エステルは僅かな希望にかけてみたい、とユーリを見上げる。

「捕まる、逃げる、ついてくる。
ど〜すんのかさっさと決めてくれない?」
「疑う前に騙されろ。
折角のチャンスなんだし逃す手はないんじゃない?」

年長者の意見だけどね〜、と はポケットに両手を突っ込んでユーリの判断を待つ。
しばらく考えていたユーリだったが、諦めたようにため息をつく。

「わかった。行ってやるよ」
「シャイコス遺跡は街を出てさらに東よ」

さっさと行きましょ、とリタは返答を待たず陽光へと歩き出した。

















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2008.2.7