ドアをくぐって視界に入ったのは通路以外の見渡す限りの本の海だった。
その本に埋もれるように研究員が自身の研究に没頭している。
誰もユーリ達を気にする様子はない。

「なんか、ここまで綺麗に気にされないのも拍子抜けね」
「ま、今までが色んなのに追いかけ回されたからな。
にしても、なんかモルディオみたいなのがいっぱいいるな・・・」

エステルは近くにいた若い青年に歩み寄る。

「あの、少しお時間よろしいです?」
「ん、なんだよ?」
「フレン・シーフォという騎士が訪ねてきませんでしたか?」
「フレン?ああ、あれか、遺跡荒らしを捕まえるとか言ってた・・・」

早速当たりだった事で、エステルは青年に詰め寄った。

「今、どこに!?」
「さあ、研究に忙しくてそれどころじゃないからね」
「もう一つついでに良いかしら?」

は人当たりの良い笑みを浮かべ、青年は無言で続きを促した。
その後を継ぎユーリが訊ねる。

「ここにモルディオって天才魔導士がいるよな?」
ーードサドサドサドサーー

青年は手にしていた本を全て落とした。
そして、酷く驚愕した表情でユーリ達を見つめてくる。

「なっ!あ、あの変人に客!?」
「さすが有名人、知ってんだ?」

ユーリの指摘に、青年は慌てたように本を拾い、立ち去ろうと背を向ける。

「・・・あ、いや、何も知らない。俺はあんなのとは関係ない・・・」
「まだ話は全然終わってないって」

逃げようとする青年の腕を掴もうとしたユーリだったが、それより早くが青年の前に立ちはだかる。
青年の腕にあったはずの分厚い本の一冊をいつの間にか肩に置き、先ほどとは質の違う笑みを浮かべていた。

「まだお話しが終わってないのにどこ行くのかしら?
人の話を聞くときは相手の顔を見てって躾けられなかった?
それに、これがないと研究が進まないんじゃないかしら?」

の雰囲気に呑まれたのか、青年は立ち竦んだ。
やや遅れて回復したユーリが、先ほどの続きを口にする。

「あ〜・・・
そのモルディオってどこにいんの?」
「お、奥の小屋に一人で住んでるから、勝手に行けばいいだろ!」

言葉を荒げる青年を気にする様子もなく、はずいっ、と近づき青年に本を手渡した。

「ありがと、助かったわ」
「〜〜〜っ!」

青年の表情は伺えなかったが、立ち去った時に垣間見えた唯一の表情である耳は真っ赤に染まっていた。

「楽勝ね♪さて、情報も手に入った事だしさっさと行きましょ」
、すごいです!」

エステルの感心を得意気に宥めるに、カロルはユーリの裾をくいくいと引っ張る。

「ねえ、っていつもあんな感じなの?」
「いや、オレもこういうのは初めて見た・・・
フレンが言ってたおっかねえ、ってこういうことか・・・」

ひそひそと会話を交わすユーリとカロルに、先に行くよ〜、とのんびりしたの声がかかる。
それによって二人のやり取りは打ち止めとなった。










































ーーNo.23 天才魔導士の登場 前ーー








































本の海を抜け、建物を後にしたユーリ達は更に奥まで歩みを進めた。
しばらくすると小さな小屋が見えてきた。
ドアまで近づくと、大きな字で書きなぐった挨拶文が訪問者を出迎えた。

「『絶対、入るな。モルディオ』」

思わず声に出したエステルに構わず、ユーリはドアノブを回す。

「普通はノックが先ですよ・・・」
「いないみたいだね。どうする?」

エステルの非難を流し、ユーリの後ろにいたカロルの問いかけには口を挟んだ。

「そろそろ実力行使するつもりかしら・・・」
「ま、どうにもならないときはな。
それに悪党の巣へ乗り込むのに、遠慮なんていらねえよ」
「だ、だめです。これ以上罪を重ねないでください!」

今度こそユーリを止めようとエステルは声を張り上げる。
が、そんなエステルには同情の視線を送り、次に起こるだろう事にカロルに視線を移す。

「なら、ボクの出番だね」
「え・・・?出番って・・・そ、それもだめですって!」

ユーリと入れ替わるように、カロルは細長い棒を手に解錠を始める。
エステルの訴えも虚しく、かちり、と音が鳴りにんまりとしたカロルが振り返った。

「ま、ちょろいもんだね」
「さあて、犯人の顔を拝みに行きますか〜」

無言で先に行ったユーリに続くように、も後を追う。

「待って!ボクも行くよ〜」
「あ、待って下さい!もう、どうしてこう・・・」

半泣きのエステルもカロルに続くようにドアをくぐった。










































小屋内に入ると、乱雑に積み上げられた本の山に出迎えられた。
お世辞にもここに人が住んでいるとは形容しにくいほどの散らかり様だ。

「すっごっ・・・こんなんじゃ誰も住めないよ〜」
「そんなことないんじゃない?住めば都ってコトワザがあるくらいだしね」
「だな。その気になりゃあ、存外どんなとこだって食ったり寝たりできるもんだ」

三人各々の感想に後ろから冷ややかな言葉が突き刺さる。

「三人とも、先に言う事がありますよ!」
「えっ!ボ、ボクも?」
「こんにちは。お邪魔してますよー」
「よー」

反省の素振りを見せないユーリとにエステルは更に言葉を続ける。

「鍵の謝罪もです!」
「カロルが勝手に開けました。ごめんなさい」
「さーい」
「もう、まで・・・
ごめんくださ〜い。どなたかいらっしゃいませんか?」

エステルの言葉に沈黙が返された。
するとカロルがユーリを見上げ、

「いないみたいだね」
「なら好都合。証拠を探すとするか」

エステル以外が小屋内を捜索していたが、ラピードが入口近くの本の山に向け警戒態勢を取る。
直後、本の山が崩れ中から人が現れた。

「ぎゃあああ〜〜〜〜〜っ!
あう、あう、あうあうあう・・・」

近くにいたカロルは、叫び声を上げユーリの後ろに避難する。

「・・・うるさい・・・」

カロルのせいか、はたまた寝起きが悪いだけか、出てきた人物は不機嫌丸出しの声を出す。
小柄で女の子かと思ったが低い声の呟きに男女の区別はつかない。
話をしようと思った矢先、いきなり魔術の詠唱を始められた。
身の危険を感じたユーリはすぐさま避難する。

「え?あれ、ちょっと!」

隠れていたカロルはいきなりの事に対応できない。

「ドロボウは・・・」
「うわわわっ、ま、待ってぇっ!

こうしている間に魔術が完成し、逃げるタイミングを逃したカロルは標的となった。

「ぶっ飛べ!!!」
「いやああああっ!」

カロルの悲鳴には合掌した。

















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2008.2.5