ーーNo.22 学術閉鎖都市アスピオーー








































ハルルから東に見える山脈を目指しながら歩いていたユーリ達は、ようやく街の入口らしい所に到着した。
闇が晴れた空には太陽が昇り、柔らかな陽光が降り注ぐ。

「ここがアスピオみたいですね・・・」
「薄暗くてジメジメして・・・おまけに肌寒いところだね」
「インテリが研究するにはお似合いのところじゃない」

アスピオの感想を述べたエステルとカロルに は皮肉を呟く。

「太陽を見れねぇと心まで捻くれんのかねえ、魔核コア盗むとか」

ユーリも に負けず、皮肉りながら門番が立つ入口へと歩いていった。

「通行許可証の提示をお願いします」

入口に立っていた騎士が事務的に言葉を発する。
だが、街に入るためにそんなものが必要とは知らなかったため、エステルは困惑する。

「許可証・・・ですか?」
「ここは帝国直属の施設だ。一般人を簡単に入れる訳にはいかない」

お決まりの展開に は深々とため息をつき、明後日の方向を向いた。

「そんなの持ってんの?」
「そうだったら、ここに突っ立ってないわね」

カロルが訊ねると、不機嫌そうに が答える。
そんな を宥めるように、ユーリが肩を軽く叩き騎士に事情を話しだす。

「中に知り合いがいんだけど、通してもらえない?」
「正規の訪問手続きをしたいなら許可証が渡っているはずだ。その知り合いとやらからな」
「いや、何も聞いてないんだけど。
入れないってんなら、呼んできてくんないかな?」

ユーリの相変わらずの口の上手さに は苦笑する。

「その知り合いの名は?」
「モルディオ」

その名前が出た途端、騎士二人は傍目に分かるほど驚きのリアクションを取る。

「「モルディオだと!?」」

なかなかお目にかかれない反応に は一抹の期待を抱いた。
しかし、

「・・・や、やはり駄目だ」
「う、うむ。書簡にてやり取りをし、正式に許可証を交付してもらえ」

どもりながらも騎士は答え、先ほどの衝撃を落ち着かせようと必死に平静を装う。

「ちぇ、融通きかないんだから」

カロルの呟きは騎士にも聞こえたようで、怒りを滲ませた視線にカロルはユーリの後に隠れた。
カロルの行動に呆れたユーリは肩越しにカロルを見下ろす。

「あの、フレンという騎士が、訪ねてきませんでしたか?」

ユーリと代わるようにエステルは踏み出し、騎士に訊ねる。

「施設に関する一切は機密事項です。些細な事でも教えられません」

マニュアルにでも載っているような言葉の返しに、臆するかと は思ったがエステルは更に言葉を続ける。

「フレンが来た目的も?」
「もちろんです」
(「あら」)

騎士の返答を聞いた は、エステルの誘導尋問に感心した。

「・・・ということは、フレンはここに来たんですね!」
「し、知らん!フレンなんて騎士は・・・」

言った後で自分の失言に気付いた騎士は慌てて否定する。
それでは肯定してるようなものだ。
フレンが来ていた事を知ったエステルは更に食い下がる。

「じゃあ、せめて伝言だけでもお願いできませんか?」
「は〜い、エステルそこまでね。
ちょっと向こう行こうか?」
「おい?あいつの後ろ姿、見覚えないか?」

騎士の声に聞こえないフリを通し、 はエステルの腕を取り、入口から見えない岩陰へと引っ張っていった。

「おい、 。お前なにかやらかしたのか?」

後を追ってきたユーリが先ほどの騎士の様子に に訊ねる。

「えっ?まぁ・・・ちょっとね」
「それより、どうすんの?」

苦笑し言葉を濁した
だが問うたユーリの隣からカロルが入口を見つめたまま言葉を続けた事で、それ以上の答えは返らなかった。
更にその話を打ち切るように はにっこりと青年に笑いかけた。

「ユーリ、穏便にいこうね?」
「人の事言えんのかよ・・・ま、冷静に考えねえとな」

ユーリの半眼を気にする事なく、 は微笑を浮かべる。

「でも、中にはフレンが・・・」
「諦めちゃっていいの?」

カロルの言葉にエステルが声を張り上げる。

「絶対に諦めません!今度こそフレンに会うんです!」
「まぁまぁ、落ち着いて。私も用事を済ませてないのに、帰る事はしないから」
「オレはモルディオの奴から魔導器ブラスティア取り返して、ついでにぶん殴ってやる」

そう言ってユーリはぐっと拳を作る。
カロルは の用事が気になったのか、視線を上げて訊ねる。

「ねえ、 の用事って?」
「ユーリのお守り」
「おい・・・」

の即答にユーリが不機嫌に反応する。
そんなユーリに構う事なく は笑う。

「あはは〜、ハンクスさんと約束したからね」
「だったら、他の出入り口でも探さない?」
「それ、採用。ぐるっと回ってみようぜ。
いざとなれば、壁を越えてやりゃあいい」

壁伝いにユーリ達は歩き出し、他の入口を探した。
すると、中の研究員が使うようなドアを見つけた。
ユーリはノブを回すがしっかりと鍵がかかっていた。

「都合よく開いちゃいないか」
「壁を越えて中から開けるしかないですね」
「早くも最終手段かよ・・・」

ユーリのげんなりした様子にエステルは微笑を浮かべる。
そんな二人を後目に、カロルは鍵がかかったドアの前に立ち、何やらカチャカチャとやりだした。
それが気になった は後に立ち、少年に話しかける。

「カロル、何やってるの?」
「えっ?ちょっと待ってね・・・」

それっきり沈黙してしまったので作業を見守る事にした だったが、カロルのやっていることにう〜ん、と呻いた。

「私とユーリは構わないけど・・・エステルは怒りそうよねぇ」
「私がどうかしました?」

呼ばれたと思ったエステルが に返事を返す。
その時、

ーーカチャンーー
「よし、開いたよ」
「え?だ、だめです!そんなドロボウみたいなこと!」

達成感が滲んだ声によって、エステルは の影になっていたカロルのやった事にようやく気付いた。

「・・・お前のいるギルドって、魔物狩るのが仕事だよな?盗賊ギルドも兼ねてんのかよ」
「え、あ、うん・・・
まあ、ボクぐらいだよ。こんなことまでやれるのは」
「言っておくけど、ギルドがみんなこういう訳じゃないから・・・」

勘違いしないで、と呆れ返ったユーリに は釘を差す。

「ご苦労さん、んじゃ行くか」
「ほんとに、だめですって!フレンを待ちましょう!」
「フレンが出てくる偶然に期待できるほど、オレ、我慢強くないんだよ。
だいたい、こういう時に法とか規則に縛られんのが嫌で、オレ、騎士団辞めたんだし」

ユーリの突き放す言葉にエステルはたじろぐ。

「え、でも・・・」
「まぁ、良いじゃない。しっかりドアからお邪魔するんだし、誰かが掛け忘れたって事で」
「そういう問題じゃあ・・・」

言い終わるのを待たず、ドアノブに手をかける にエステルは尚も言い募ろうとする。

「んじゃ、エステルはここで見張りよろしくな」

そうユーリは言い残し、エステルに背を向け に続いた。

「え、えっと、でも、あの・・・
・・・っ!!わ、わたしも行きますっ」

ついに折れたエステルも三人の後を追い、アスピオに足を踏み入れた。

















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2008.2.4