しばらくハルルの樹を見上げた格好のままだった だが、ラピードが近づいてきた事で視線を落とした。
疲労の色が拭えない を心配してか、ラピードが足元に座り見上げてくる。

「クゥ〜ン・・・」

まるで、無理をするな、と言っているようなラピードに は苦笑を向ける。

「参ったわ・・・ラピードには敵わないわね。
心配してくれてありがとね」

そう言い、ラピードに微笑を向けると、ラピードは納得したのか一声吠えて に応じた。
と、ラピードは から視線を外し、幾分離れた街中の路地に視線を注いだ。

「どうしたの、ラピード・・・?」

もラピードに倣うと、視線の先にはザーフィアス城で一戦やらかしたあの暗殺集団がいた。
は気を引き締め、すぐにユーリに歩み寄り、ただ静かに親指で騒ぎになるだろう方向を示した。
ユーリは の示す方向に目を向けると、すぐに分かったようで短くため息をついた。
そんな とユーリに気付いたエステルもその方向を見ると、目を見開いた。

「あの人達、お城で会った・・・」
「住民達を巻き込むと面倒だ。見つかる前に一旦離れよう」

エステルがしゃべり終わるのを待たず、ユーリはさっさとこの場を後にした。
もエステルの手を引き、その後に続いた。

「え?なになに?どうしたの急に!」

置き去りになったカロルはあわてて三人の後を追いかけていった。










































ーーNo.21 花弁の見送りーー








































ハルルの樹から離れた事で、早めていた足を緩めた だったが、その口からは盛大なため息がこぼれる。

「ったく、狙われてるのはフレンだけじゃない、ってことね」
「面倒な連中が出てきたな」
「ここで待っていればフレンも戻ってくるのに・・・」

エステルは落胆し、先ほどの高揚した気分は急速にしぼんでいった。

「そのフレンって誰?」

唯一、フレンを知らないカロルが声を上げる。
忘れてた、と が説明するよりも早く、ユーリが言葉を紡ぐ。

「エステルが片想いしてる帝国の騎士様だ」
「ええっ!!」
「ち、違います!!」

ユーリのからかいに、カロルは驚き、エステルは慌てて反論する。

「あれ?違うのか?
ああ、もうデキてるってことか」
「もう、そんなんじゃありません!」

エステルはにべもないからかいにご立腹のようでそっぽを向く。
悪びれないユーリに は呆れ返った。

「全く、今はそんなんでからかってる場合じゃないでしょ・・・?
それより、これからどうする?このままここに居る訳にはいかないわよ」

の最もな発言にエステルも向き直り、ユーリも肩を竦めて返した。

「ま、なんにせよ、街から離れた方がいいよな」
「そうですね。街の皆さんに迷惑をかけたくありません」

ユーリの言葉に頷き、ハルルで待つ事を断念したエステルも同意を示す。

「フレンって人の行き先が分かってるなら追いかけたら?」
「それが、はっきりとした行き先は分からないのよね・・・」

カロルの言葉に は眉根を寄せる。
その声を聞きながらユーリは思い出すように呟く。

「確か、東に向かったって言ってたよな」
「あぁ、そういえばハルルの長が言っていたような・・・」

も腕を組み、顎に手を当てながら答える。

「・・・アスピオってのがどこにあるか知らねぇけど、とりあえず、今は急いでここを出た方がいいみたいだな」

ユーリの声に三人は頷き、街の出口に向かって歩き出した。




















































出口に近づくと、タイミングよくハルルの長が追いついてきた。
お礼をしたいとの事で、家に寄ってほしいと言われ、とりあえず長の家に寄る事になった。
長の家に着くとハルルの樹を治してもらった礼、とガルドが入ってるであろう袋を差し出した。
しかし、受け取る訳にはいかにと頑なにエステルは断る。

「それは受け取れません。そのお気持ちだけ、いただいておきます」
「いや、しかし、それでは気持ちの収まりがつきません」

堂々巡りで過ぎていく時間と、長の気持ちを汲んだユーリは妥協案を示す。

「なら、こうしよう。
今度遊びにきたら、特等席で花見をさせてくれ」
「あ、それいいですね!とても楽しみです」

エステルもユーリの妙案に嬉しそうに納得した。
その様子に渋々ながらも長は承知した。

「・・・わかりました。
その時は腕によりをかけて、おもてなしさせていただきます」

解放された一行は長の家を背に歩き出した。
しかし、立ち去ろうとしたユーリが思い出したように振り返る。

「あ、ひとついいか?
アスピオって街に聞き覚えないか?」
「・・・アスピオ?
ああ、日陰の街が確かそんな名だったような・・・」

ハルルの長はおぼろげな記憶を思い出しながら話した。

「日陰の街?」
「それって、洞窟内にあるっていう街の事?」

ユーリの問いかけに重ねるように も聞き返す。

「そうです。
たまにマントとフードを被った無口な連中がこの街に買い出しに来るんですが・・・
どうにも君が悪くて、ほとんど交流はないんです」
(「あぁ。じゃあ、あそこだ・・・」)

恐縮した様子の長を見ながら、 の表情は曇る。

「その街はどこにあるんだ?」
「東の方角だったかと。詳しい位置まではなんとも・・・」

『東』と言った長の回答にエステルも質問を口にする。

「フレンが向かったのも東でしたよね?」
「そうだっけ?じゃあ、うまくいけば、そのフレンに会えるんじゃない?」

カロルの問いかけにユーリも力強く頷き返した。

「ああ。学術都市ってくらいだから、魔導器ブラスティアと関係あんのかもな。
サンキュ、それだけだ」

ユーリ達はハルルの長に礼を述べ、結界の外へ歩き出した。

「待ってろよ、モルディオの野郎・・・」

ユーリの物騒な呟きを苦笑しながら聞き流し、 は東へと歩き出した。
満開の花びらが旅人を見送るように舞い散る花びらとともに背を押し出した。

















Back
2008.2.4