ーーNo.19 素材集めーー
ハルルを後にしたユーリ達は、再びクオイの森に足を踏み入れた。
「ねぇ、疑問に思ってたんだけど、三人・・・ラピードもなんだけどなんで魔導器持ってるの?
普通、武醒魔導器なんて貴重品、持ってないはずなんだけどな」
しばらく森を進んだ後、最後尾を歩いていたカロルがおもむろに疑問を口にした。
その言葉を受け、足を止めた三人はカロルに振り返る。
「カロルも持ってんじゃん」
「ボクはギルドに所属しているし、手に入れる機会はあるんだ。
魔導器発掘が専門のギルド、遺構の門のおかげで出物も増えたしね」
カロルの説明にユーリは感心した。
「へぇ、遺跡から魔導器掘り出しているギルドまであんのか」
「うん、そうでもしなきゃ帝国が牛耳る魔導器を個人で手に入れるなんて無理だよ」
カロルは得意気に話しながらも、帝国のやり方に表情を曇らせる。
「『古代文明の遺産、魔導器は、有用性と共に危険性を持つため、帝国が使用を管理している』です。
魔導器があれば危険な魔術を、誰でも使えるようになりますから無理もない事だと思います」
エステルの博識から解説されるが、それを素直に聞き入れられない二人がいた。
「やりすぎて独占になってるけどな」
「それも一部の人間だけの、ね」
「そ、それは・・・」
ユーリと
の冷たい切り返しに、エステルは言葉を続けられない。
「で、実際のとこどうなの?なんで持ってんの?」
そんな雰囲気を気にするでもなく、カロルは先ほどの質問の答を催促する。
幼いながらこそできる芸当だな、と
は内心で笑う。
「オレ、昔騎士団にいたから、やめた餞別にもらったの。
ラピードのは、前のご主人様の形見だ」
「私はギルドに所属してるから、カロルと一緒ね」
「ふ〜ん、
のは分かったけど・・・」
そう言ってユーリを見つめたカロルの表情は引きつった。
「・・・ユーリの餞別って、それ盗品なんじゃ・・・」
「カロル、細かい事を気にしてちゃ大人になれないわよ」
すかさず
のフォローが入り、カロルはそれ以上突っ込む事を諦めた。
「えと、エステルは?」
「あ、わたしは・・・」
話の流れから当然のごとく、エステルにもカロルは訊ねる。
だが、言葉を濁すエステルにユーリが遮るように答える。
「貴族のお嬢様なんだから、魔導器くらい持ってるって」
「あ、やっぱり貴族なんだ。ユーリと違ってエステルには品があるもんね」
先ほどの話から話題が逸れた事で、エステルはほっとしたように肩の力を抜いた。
「バカ言ってねえで、さっきんとこにニアの実、取りに行くぞ」
そんなカロルに呆れたユーリは、足早に森の奥へと歩き出した。
森の中程、以前
とエステルが倒れた場所に到着した。
ニアの実は樹の根元にいくつか転がっていた。
「ニアの実は簡単に手に入ったけど、エッグベアはどうすんだ?」
ニアの実を片手で弄びながら、ユーリはカロルに訊ねた。
「エッグベアは変わった嗅覚を持ってるんだ。
そのニアの実貸して」
ユーリはニアの実をカロルに渡す。
受け取ったカロルは地面にしゃがみ込み、火を熾す。
後からそれを見守る三人。
火が熾きるとカロルはとその実を火の中に投げ入れた。
すると、辺りに強烈な臭い・・・というか悪臭が立ち込めた。
「う!?」
「っ!?」
「!?く、くさっ!おまえ、くさっ!!」
「ちょ、ちょっと!ボクが臭いみたいな言い方やめてよ!!」
ユーリの言葉にカロルは反論するが、臭いはカロルにしっかりとついている。
その為、カロルが近づく度にユーリ達は一歩下がった。
しかしついに耐えきれず、ラピードが倒れた。
「ラ、ラピード!?しっかり!」
はすぐさまラピードに駆け寄り、臭いを薄めようと扇いでやる。
しばらくしてラピードは立ち上がり、頭を振った。
だがその足元は覚束ない。
嗅覚が敏感なラピードにはさぞ地獄だろう。
「とりあえず、しばらく歩いてみるか」
ユーリの言葉に一同は頷き、カロルを先頭に歩き出した。
森の中を歩き回って少々、時間が経った。
すると近くの茂みが揺れ動き、カロルはすぐさま後にいたユーリの背に隠れた。
「き、気をつけて・・・ほ、本当に凶暴だから・・・」
「そう言ってる張本人が、真っ先に隠れるなんて、いいご身分だな」
カロルの行動を指摘したユーリに、少年は焦ったように言い返す。
「エ、エースの見せ場は最後なの!」
「魔物がいるんだから、おしゃべりはそれくらいにね」
ユーリとカロルをたしなめ、
はいつでも対応できるように双剣に手をかける。
茂みの動きは、先ほどよりも大きくなる。
身構えていた一行だが、茂みから出てきたのはタンポポの形をした魔物だった。
辺りに何とも言えない空気が流れる。
「・・・これは、違いますよね?」
耐えきれなくなったエステルが、懸命に笑顔で答える。
だが、その魔物に続くように巨大な熊の魔物が姿を現した。
「うわああっ!」
「こ、これがエッグベア!」
「なるほど、カロル先生の鼻曲がり大作戦は成功ってわけか」
「ユーリ、そのネーミングセンスはいかがなものかと思うけど・・・」
カロルの驚きからして、これが目的の魔物だろう。
呆れた
に続くように、カロルも反論した。
「へ、変な名前、勝手につけないでよ!」
「そういうセリフは、しゃきっと立って言うもんだ」
そう言ってユーリは鞘から剣を抜き、肩にかけた。
人数が揃っていた事もあり、エッグベアはあっけなく倒された。
「カロル、爪はがしてくれ」
「え!?だ、誰でもできるよ。すぐはがれるから」
ユーリの指示に、カロルはたじろぎ裏返った声を上げる。
「わたしにも手伝わせてくだ・・・・・・うっ」
「エステルは周囲の警戒な」
「は、はい」
エステルを気遣い、ユーリは
がいる方へと向かわせる。
「も、もう動かないよね?」
「大丈夫よ。しっかりトドメはさしたから」
あまりの心配様に、エステルと代わるように近づいてきた
がカロルに応じる。
それに、少しは安心したのか、カロルは恐る恐るエッグベアに近づき、爪をはがそうと手を伸ばした。
が、
「うわあっ!」
「ぎゃあああ〜〜〜〜〜〜!!」
いきなりユーリが大声を上げ、カロルはあらん限りの絶叫を上げる。
それを見ていた
は呆れ返った。
「・・・ユーリ、悪ふざけもそれくらいにね」
「はっはっは〜、驚いたフリが上手いなあ、カロル先生は」
「あ、うっ・・・は、はは・・・そ、そう?あ、ははは・・・」
カロルは引きつった笑顔をユーリに向ける。
が半眼をユーリに向け、全く、と呟きながらカロルの傍へ行き、エッグベアの爪を剥がし取った。
「よし、エッグベアの爪ゲット」
「鼻、大丈夫か、ラピード?
さ、戻ろうぜ」
素材を集め終えたユーリ達は、ハルルに向かって来た道を戻りはじめた。
Back
2008.1.30