ーーNo.18 解毒の法を求めてーー


































「近くで見るとほんと、でっけ〜」
「もうすぐ花が咲く季節なんですよね」
「満開になるとホントに言葉なんかで言い表せないくらい綺麗なのよ。
見てほしかったなぁ〜」

ハルルの樹に到着したユーリ達は、同じように上を見上げていた。

「そんなに見物なら、花が咲いてるとこ見てみたかったな」
「そうですね。満開の花が咲いて街を守ってるなんて素敵です」

口々にはハルルの満開時の話に盛り上がった。
一区切りついた所で、 がエステルに話を振る。

「一応フレンには追いついたけど、エステルはこれからどうするの?」
「わたし、フレンが戻るまでケガ人の治療を続けます」

先ほどの魔物と戦って傷付いた住民達の顔が浮かんだのか、力強くエステルは頷いた。
そんなエステルの返答を聞いたユーリが提案を出す。

「なあ、どうせ治すんなら、結界の方にしないか?」
「え?」
「ユーリ・・・本気?」

ユーリの突飛な案に の顔が引きつる。
だが、ユーリは本気らしい。

「魔物が来れば、またケガ人が出るんだ。今度は大人じゃなくて、ガキ達が大ケガするかもしれねぇ」
「それはそうですけど、どうやって結界を?」

エステルと同じように もユーリの返答を待つ。

「こんなでかい樹だ。魔物に襲われた程度で枯れたりはしないだろ」
「他に何か直接的な原因がある、ってこと?」
「オレはそう思うけどな」

ユーリの指摘になるほど、と納得した
だが枯らしている原因を究明できなければ、何もしないことと一緒である。

「お三方とも、一体なにをなさっているのですか?」

そんな三人が頭を悩ませている時、ハルルの街の長が声をかけてきた。

「樹が枯れた原因を調べているんです」
「何か、心当たりとかないですか?」

エステルと の問いかけを受け、長は暫く考えた後、頭を振った。

「難しいと思いますよ。フレン様にも原因までは分からなかったようですから」
「・・・そう、ですか」

申し訳なさそうに答える長に、 も似たように落胆の色を見せる。
ちょうどその時、エステルはトボトボと歩いて来たカロルに気が付いた。

「あ、カロル!カロルも手伝ってください!」

エステルの明るい声に、沈んだ表情を浮かべているカロルが顔を上げる。

「・・・なにやってんの?」
「ハルルの樹の枯れた原因を調べてくださっているんです」

長が恐縮したようにカロルに答える。

「なんだ、そのこと・・・」

その答えに興味をなくしたのか、再びカロルは俯き、深い溜め息をついた。

「なんだ、じゃないです!」
「理由なら知ってるよ。そのためにボクは森でエッグベアを・・・」

エステルの少し怒ったことにも気を止めず、カロルは俯いたまま、呟きをこぼす。
その後半の呟きに、ユーリは反応しカロルに聞き返した。

「ん?どういうことだ?」

も気付いたようで、黙ってユーリとカロルのやり取りを見守る。

「土をよく見て。変色してるでしょ?
それ、街を襲った魔物の血を土が吸っちゃってるんだ。その血が毒になってハルルの樹を枯らしてるの」
「なんと!魔物の血が・・・そうだったのですか」

カロルの説明を聞き、長は驚きを隠せず赤黒くなっている地面を見つめた。

「カロルは物知りなんですね」
「・・・ボクにかかればこんくらい、どうってことないよ」

エステルの褒め言葉にもカロルは沈んだ声で答える。

「その毒をなんとかできる都合のいいもんはないのか?」
「あるよ、あるけど・・・誰も信じてくれないよ・・・」

カロルの返答からして解毒策はあるようだが、言うのを躊躇っているようだ。
そんなカロルに は近づき、ちょこんと目の前にしゃがみ込んだ。

「ねぇ、カロル。私達じゃあ、どうにも解決策が見つけられないの。
カロルだけが頼りだから教えてくれないかしら?」

必然的に下から見つめる形になり、お願い、と両手を合わせカロルに頼み込んだ。
そんな を見下ろす形となっていたカロルは、しばらく口を噤んでいたが、意を決して口を開いた。

「パナシーアボトルがあれば、治せると思うんだ」
「パナシーアボトルか。よろず屋にあればいいけど」
「ありがとね、カロル」
「行きましょう、ユーリ! !」

カロルの言葉を受け、ユーリ、 、エステルはよろず屋へと走り出した。








































よろず屋に到着したユーリは早速、目的のモノを注文する。
しかし、

「あいにくと、今切らしてるんだ」

よろず屋の主人は申し訳なさそうにユーリに答えを返した。

「そんな・・・」
「まぁ、素材さえあれば合成できるんだがね」

表情を曇らせたエステルに代わり、ユーリが続いて訊ねた。

「何があれば作れる?」
「エッグベアの爪とニアの実、ルルリエの花びらの3つだ。
けど、パナシーアボトルを一体、何に使うんだ?先日も同じ事を聞いてきたガキがいたんだが」

よろず屋の訝しむ声に、 がきっぱりと答えた。

「ハルルの樹を治すのよ」
「え?パナシーアボトルを樹に使うなんて、聞いた事ないけどなぁ・・・そんなので治るのかい?」

よろず屋の信用していない言いぶりに、 は片眉を上げるだに留め、文句は飲み込んだ。

「・・・ニアの実はいいとして、ルルリエの花びらって持ってる人は居るの?」
「ああ、長が持っているとおもうから聞いてみてよ」

なるほど、と は頷くとエステルが問いを重ねる。

「なら、エッグベアは?」
「悪い、魔物は専門外だ。
魔物狩りを生業にしてる魔狩りの剣の人間でもいれば、わかるんだろうけど・・・」

エステルの言葉には返答が得られなかったが、ユーリはなるほど、と呟いた。

「あいつ、そのために森にいたのか・・・
わかった、素材が集まったらまた来るよ」

よろず屋にそう返し、三人は踵を返す。
そしてちょうど店先にカロルを見つけた は声をかける。

「カロル、クオイの森に行くわよ」
「え?」

突如、目的地だけを告げられ、カロルはキョトンとする。
そこにユーリが の言葉を継ぎ足す。

「森で言ってたろ?エッグベアかくご〜って」
「パナシーアボトルで治るって、信じてくれるの・・・?」

ユーリ達の言葉が信じられないようで、カロルは聞き返した。
そんな様子にユーリは肩を竦めてみせる。

「嘘ついてんのか?」

ユーリの問いかけにカロルは力強く首を横に振る。

「だったら、オレ達はお前の言葉に賭けるよ」
「えぇ・・・やったことないから、試す価値があるのに。
あんな頭ごなしに言う奴には結果を叩き付けるのが一番よね」
「ユーリ、 ・・・」

言葉に詰まるカロルだったが、それは直ぐに照れ笑いに代わった。

「も、もう、しょうがないな〜。ボクも忙しいんだけどね〜」
「そういう割には頬が緩みっぱなしよ〜」
!やめてよ〜」

突かれた頬を庇うカロルと の戯れ合いに、エステルはぐっと拳を握った。

「決まりですね!わたしたちで結界を治しましょう」
「エステルも来るの?」
「当たり前じゃないですか」
「フレン、待たなくていいのかよ」

ユーリに指摘されたエステルだったが、笑って返した。

「治すなら樹を治せって言ったのはユーリですよ?」
「そうよね。
ユーリ、ボケるには若すぎるわよ?」

のからかいに、ユーリはうるせーと答え、頭上にあるハルルの樹を見上げた。

「よし。
フレンが戻る前に樹治して、びびらせてやろうぜ!」















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2008.1.29