クオイの森を抜け、北に進路を取ると、大きな大樹が視界に入った。
まだ距離があるにも関わらず、その樹の大きさにエステルは驚きの声を上げる。

「もしかして、あそこに見える樹がハルルなんです?」
「そ。時間はかかったけど、あれが目的地、花の街ハルルよ」

も目の上に手をかざしながら思わず立ち止まったエステルに答える。

「ずいぶんと遠回りだったけど、もうすぐだな」
「ワンッ!」

ユーリも感慨い深げに呟き、ラピードもそれに同意を示す。

「ちょ、ちょっと!立ち止まらないではやく行こうよ!
また魔物が来たらどうすんの!」

カロルの叫びを受けて、三人は苦笑し止めていた歩みを再び進めた。














































ーーNo.17 枯れゆく大樹ーー


































ようやく街の入口に到着したが、いつもの賑わいがないことに は眉根を寄せた。

(「なんで、こんなに静かなの・・・」)

の思いを感じてかエステルも確認するようにカロルに訊ねる。

「ここが花の街ハルルなんですよね?」
「うん、そうだよ」

当たり前だと言うようにカロルはエステルに答える。

「この街、結界ないのか?」
「そんなはずは・・・」

上を見上げたユーリの言葉にエステルも続くように空を仰ぐ。

「三人ともハルルは初めて?」
「私は違うわよ。
仕事で何度か来た事あるし」

カロルの声に は声を上げる。
その声を聞き、少年の視線はユーリとエステルに向けられる。

「じゃあユーリとエステルは、ハルルの樹の結界魔導器シルトブラスティアも知らないんだ」
「樹の結界?」
「『魔導器ブラスティアの中には植物と融合し有機的特性身に付けることで進化をするものがある』です。
その代表が、花の街ハルルの結界魔導器シルトブラスティアだと本で読みました」
「・・・博識だな。
で、その自慢の結界はどうしちまったんだ?」

エステルに感心したユーリは街中に目を向ける。
視界に映るハルルの住民は一様に項垂れていた。

「役に立ってねえみたいだけど」
「毎年、満開の季節が近づくと、一時的に結界が弱くなるんだよ。
ちょうど、そこを魔物に教われて・・・」
結界魔導器シルトブラスティアがやられたのか」

カロルの言葉に納得したユーリは再び空に枝葉を広げる大樹を見上げた。

「うん、魔物はやっつけたけど、樹が徐々に枯れはじめているんだ。
あ!」

気落ちしていたカロルだが、走り去っていった少女の姿に慌てたように声を上げた。

「ど、どうしたんです?」
「ごめん!用事があったんだ!じゃあね!」

エステルにそう言ったカロルはその場を走り去って行った。

「勝手に忙しい奴だな。
エステルはフレンを捜すんだよ――」
「エステルなら、あっちに走って行ったわよ」

エステルに向けた問いかけは が代わりに答えを返した。
の指差す方に目を向けたユーリは嘆息した。

「大人しくしとけって、まだ分かってないらしいな。
それにフレンはいいのかよ」
「気持ちは解らんでもないけど、ここは堪えどころよ」

ユーリの思いを察し、 は肩を叩く。
諦めたように溜め息をつき、ユーリは と共にエステルの後を追った。








































エステルは怪我をした住民の治療を行っていた。
近づいて行ったユーリと の耳に住民達との会話が飛び込んでくる。

「――かの騎士は助けてくれなかったのに、あの騎士様だけは違ったよね」
「ああ、あの青年か」

長らしい、初老の男が思い出したように呟くのを聞き留め、ユーリは聞き返した。

「その騎士様って、フレンって言ってなかったか?」
「ええ、フレン・シーフォと」

街の青年の言葉を聞いたエステルは、期待を込めたように訊ねた。

「まだ街にいるんですか?」
「いえ、結界魔導器シルトブラスティアを修理する人を呼んでくると旅立たれました」

長の返答にエステルは落胆し、そうですか、と息を吐いた。

「行き先までは分からないか」
「東の方へ向かったようですが、それ以上のことは・・・」
「ふ〜ん、ここから東、ね・・・」

ユーリの問いかけに申し訳なさそうに長は答えた。
は考え込むように黙りこむ。

「でも、ここで待っていればフレンは戻ってくるんですね」
「よかったな、追いついて」
「はい・・・会うまでは安心できませんけどよかったです」

沈んだ表情を浮かべていたエステルは、気を取り直し前向きな期待を口にした。
ユーリもエステルを慰めるように笑いかける。

「ハルルの樹でも見に行こうぜ。エステルも見たいだろ?」
「あ、はい!ユーリはいいんです?
魔核コアドロボウを追わなくても」
「樹見てる時間くらいあるって。
お〜い、 も考えるのはそれくらいにして行くぞ〜」

ユーリの呼びかけを受けた は迷惑そうに顔をしかめた。

「・・・聞こえてるわよ。
子供じゃないんだから、街中で人の名前大声で呼ばないでよね」

の不機嫌丸出しの声に、ユーリは苦笑を返し、三人はハルルの樹に向けて歩き出した。










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2008.1.25