ーーNo.16 小さなエースーー
鬱蒼とした獣道を歩いていたが、徐々に視界が開け道も歩きやすくなっていった。
日の光も差し込み、もう普通の森と変わらない。
だんだんと警戒が薄らいでいたユーリ達だが、ラピードの唸り声で緊張を戻した。
「グルルルルル・・・」
「ん?」
「何かいる」
前方の茂みに向け、ユーリと
は直ぐに対応できるよう身構える。
その時、
「エッグベアめ、か、覚悟!」
飛び出してきたのは、魔物でも盗賊でもなく、小さな男の子だった。
「うわっ、とっとっ!」
飛び出した勢いか、その身には大きすぎる剣のせいか、少年は振り回されるように回転している。
呆気に取られていたユーリ達だったが、いつまでもそれを眺めているほど暇でもない。
「ユーリ、任せた」
「へいへい、しゃーねぇな」
に押し付けられ、やる気なさそうにユーリは剣を構える。
そして、ユーリは少年に一閃を向けた。
「うああああっ!あうっ!
う、いたたたた・・・」
ユーリの太刀は少年の大剣を真っ二つにし、
はぱちぱちと気のない拍手を送る。
そんな地面で苦悶の声を上げる少年にラピードが近づいていく。
「ひいいっ!」
視界に入ったラピードの姿に驚いた少年は、再び地面に倒れ込んだ。
「ボ、ボクなんか食べても、おいしくないし、お腹壊すんだから」
どうやら、死んだふりをしているらしい。
だが、賢いラピードにそんな演技が通じる訳もない。
「ガウッ!!」
「ほ、ほほほんとに、たたたすけて、ぎゃあああ〜〜〜〜〜!!」
ラピードの一声で少年は縮み上がり、辺りに絶叫が木霊する。
「忙しいガキだな」
「いいじゃない、元気があって」
「・・・そういう問題じゃないだろ」
「だいじょうぶですよ」
変な所に感心した
にユーリは素早く突っ込みを入れた。
見かねたエステルが倒れた少年に歩み寄る。
「あ、あれ?魔物が女の人に」
「ったく、なにやってんだか」
優しく微笑んだエステルを視界に入れ、少年はやっと騒ぐのをやめた。
その様子を見たユーリの呟き
は横で聞き流していた。
「ボクはカロル・カペル!魔物を狩って世界を渡り歩く、ギルド『魔狩りの剣』の一員さ!」
誰に促されるでもなく、元気よくカロルは自己紹介を始めた。
「オレは、ユーリ。それに
と、エステルにラピードだ。
んじゃ、そういうことで」
淡々と紹介を終えるとユーリはスタスタと先に歩いていった。
「じゃ、またどこかでね〜」
ユーリの後を追い、ひらひらと手を振りながら
も言葉少なに立ち去る。
「あ、え?ちょっとユーリ!
!
えと、ごめんなさい」
そんな二人に驚きながらも、カロルに謝りエステルも追いかけるように走り去る。
「へ?・・・って、わ〜、待って待って待って!」
やっと取り残された状況を理解したカロルは焦って三人を追いかける。
追いついたカロルは行く手を遮るようにユーリ達の前を塞ぐ。
「三人は森に入りたくてここに来たんでしょ?
なら、ボクが・・・」
「いえ、わたしたち、森を抜けてここまできたんです。
今から花の街ハルルに行きます」
明らかに勘違いをしているカロルに、エステルは自分達の目的を話す。
森を抜けて来た事に驚いたカロルだったが、思い出したようにエステルに訊ねた。
「へ?うそ!?呪いの森を?
あ、なら、エッグベア見なかった?」
心当たりのないエステルは振り返る。
「ユーリ、
、知ってます?」
「さあ、見てねえと思うぞ」
「遭ってないと思うわ。
エッグベアって大きな魔物だし」
そんなの見てないでしょ?と
に逆に聞き返され、エステルも頷く事しかできない。
「そっか・・・
なら、ボクも街にもどろうかな・・・あんまり待たせると、絶対におこるし・・・
うん、よし!三人だけじゃ心配だから、魔狩りの剣のエースであるボクが街まで一緒に行ってあげるよ。
ほらほら、なんたってボクは、魔導器だって持ってるんだよ」
独り言から自慢気に話すカロルの言葉を受け、三人はなんとも言えず顔を見合わせた。
と、少年はようやくユーリ達が魔導器を持っていたことに気付いた。
「あ、あれ、三人ともなんで魔導器持ってるの!
な、ならこれでどうだ!」
やや怯んだカロルだったが、今度は鞄から一冊の本を掲げた。
ユーリはそれを取り、ページを捲りだす。
とエステルも脇から眺める。
「魔物の情報ですね。
でも、途中から全部白紙ですよ?」
「エステル、いくら本当のことでも言ったらかわいそうよ・・・」
エステルのストレートすぎる指摘を、
はやんわりと窘める。
そんなエステルの言葉に反発するように、カロルは声を荒げた。
「こ、これからどんどん増えていく予定なの!
ちょっと、ねえ!勝手に書き込まないでよ!!」
騒ぐカロルに構わず、ユーリは先ほど戦った魔物の情報をすらすらと書き込んでいく。
「エースの腕前も、剣が折れちゃ披露できねえな」
「いやだなあ、こんなのただのハンデだよ」
青年の棒読みの言葉を受け、カロルは何ともない、と見せるように折れた剣を振る。
「あれ?なんかいい感じ?」
折られたことで、カロルにはちょうどいい大きさになったようだ。
嬉しそうにぶんぶん素振りをするカロルの脇を、本に書き終えたユーリは何事もなかったように歩き出した。
ユーリに続くように、ラピード、エステル、
も歩き出す。
「ちょ、あ、方向わかってんの?
ハルルは森を出て北の方だよ。もぉ、置いてかないでよ〜!」
またも取り残されたカロルは、大声を上げながらユーリ達を追いかけた。
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2008.1.25