ユーリ達は森の入口に到着した。
が、入口からでも薄気味悪さが肌で感じられるほど、目の前の森は不気味な気配を漂わせていた。













































ーーNo.14 呪いの森ーー


































森を見た は思わず感想口を突く。

「うっわ〜、なんか出そう♪」
「・・・この場所にある森って、まさか、クオイの森・・・?」
「お、ご名答。よく知ってるな」

エステルの戸惑う答えにユーリはあっさりと肯定を返す。
エステルの言葉に は思い出したようにポンと手を叩いた。

「『クオイに踏み入る者、その身に呪い、降り掛かる』・・・」
「『クオイに踏み入る者、その身に呪い、降り掛かる』・・・え?」

見事に とエステルの答えがはもり、二人は顔を見合わせた。

「えと・・・エステルその話、どこで?」
「あの、お城の本で読んだ事があります。
ずいぶん古い旅行記だったので、よく覚えています」

そうなんだ〜、と笑う にユーリが切り返す。

「そういうお前はどうなんだ?」
「ちょっと〜、こちとら、仕事であちこち回ってるのよ?
いろんな情報持ってなきゃ、仕事になんないでしょ」

胸を張って答える にユーリは興味ないとばかりに生返事を返す。

「ふ〜ん。
ま、お楽しみはそれって訳か」

ユーリは大して気にした風もなく、森の奥へ足を踏み入れていく。
も、思い出せて良かった〜などと言いながらユーリに続く。

「あれ?エステルどうしたの?」

歩き出す音が聞こえない事を不審に思い、 が振り返ると
森の入口でまだ立ったままのエステルがいた。
の声にユーリも振り返り、呆れながらもエステルに声をかける。

「行かないのか?ま、オレは良いけどフレンはどうすんの?」

『フレン』の効果は絶大だ。
エステルの顔から多少の不安は残れど、覚悟したように拳を握りしめた。

「・・・分かりました、行きましょう!」

一行はユーリ、ラピードを先頭にエステル、 の順に進んでいった。
魔物との戦闘が多少あったが、どこにも呪いらしいものはなく の口から愚痴がこぼれる。

「何が『その身に呪い降り掛かる』よ。
別に普通の森と大して変わらないじゃないの・・・」
「おいおい、 ・・・
お前、何を期待してたんだよ」

の愚痴は先頭であるユーリにも届いたようだ。
当人はそんなの決まってる、という風に腰に手を当てた。

「未知なる発見に決まってるじゃない!
もし未開の森なら、人目に触れてない訳だし、
使えそうなものの一つもあるかも・・・って期待してたのに〜」

期待はずれだわ、と両手を挙げる。
それまで沈黙していたエステルは、 の思考が信じられないと目を剥いた。

「・・・ ?怖くないんです?
あの本に書いてあった事は実際にあったことだって言われてるんですよ?」

エステルの指摘に はしばらく考えた後、口を開いた。

「まぁ、私は自分で目にしたものしか信じない主義だからねぇ〜。
他人がそう言ったからって、私が信じなくちゃいけないなんて道理はないわ」

自分の考えを一気に言ってのけた は、エステルに笑いかけた。
しばらく歩き続け、幾分、日の光が差す明るい場所に出た。
特に注意するものがなかったため、三人は更に進もうとした。
が、エステルの声で歩みを止める。

「何の・・・音です?」

ユーリと は周りを見回すも、何の音も拾う事はできない。

「音なんて、何も聞こえないけど・・・」
「足元がひんやりします・・・まさか!これが呪い!?」
「どんな呪いだよ」

は注意深く周りを見ても、やはり不自然な音は拾う事はできない。
呆れ返っていたユーリにエステルは更に言い募る。

「木の下に埋められた死体から、呪いの声がじわじわとと這い上がりわたし達を道連れに――」
「おいおい・・・」
「エステル〜、とりあえず深呼吸ね〜」

軽いパニックを起こしているエステルを宥め、落ち着かせる。
周りに目を配る余裕ができたエステルは何かを見つけたようだ。

「・・・あれは?」

エステルの示す方向に視線を向けると、そこには朽ちた魔導器ブラスティアがあった。

「これ、魔導器ブラスティアよ。
ずいぶん昔のものみたいだけど・・・」
「なんでこんな場所に・・・少し休憩しよう」
「だ、だいじょうぶです!」

が朽ちた魔導器ブラスティアを調べ始めた様子に、ユーリは動かない事を知ってか足を止めた。
だがエステルは先ほどの気味悪さが気になるようで、先に進もうとする。
しかし、何かに気付いたのか、魔導器ブラスティアに触れようとした。
瞬間、突如、強い閃光に包まれた。

「「きゃあっ!!」」
「うわっ!」

始まりと同じように光は急速に収束した。
ユーリは二人の姿を見つけようと、目を凝らす。
その目に飛び込んできたのは地面に倒れた とエステルの姿だった。

「おい、 !エステル!」

不気味な森にユーリの焦った声が虚しく響く。
しばらくして、その声に反応を返したのは だった。

「・・・うっ、いったぁ〜・・・
なんなのよ、一体・・・」
!?大丈夫か?」

頭痛がするのか頭を押さえ、眉間の皺を深くしながら はユーリに答えた。

「・・・なんとか、ね。頭、ガンガンするけど・・・
っ!エステル!?」

は隣に倒れているエステルに気付き、解放しようと鈍った体に鞭打ち立ち上がろうと膝に力を入れる。
が、上手くいかずそのまま倒れそうになった所を、ユーリに支えられる。

「おい、無理すんなって!倒れたばっか――」
「ユーリ!エステルを、横にしてあげないと・・・
参ったわ、医療は専門外なのよね・・・」

ユーリを遮り、息も絶え絶えに は弱々しく笑った。
これには、続きを言いたそうなユーリも、溜め息をつくだけで仕方なさそうに従うしかない。

「・・・分かった、オレがやるからお前は座ってろ。
座りながらでも指示できんだろ」
「そう、ね・・・ありがと」

木の幹に寄り掛からせてもらい、 は働かない頭を動かし、テキパキとユーリに指示をしていく。
傍にはラピードが心配そうに見上げてくる。

「クゥ〜ン」
「ラピード・・・ありがと、大丈夫だから」

ユーリの相棒に笑いかけ、幾分落ち着いた は笑いかけた。

「ねぇ、ラピード、一つ頼まれてくれる?
エステルに膝枕してあげようと思ったんだけど、ちょっと無理っぽいから代わりをお願いできる?」

の言葉を理解したのか、ラピードは一声「ワフっ」と吠えると、ユーリの傍へ歩いていった。
それを見送った は安心し、意識を沈ませた。








































どれほど経っただろうか。
辺りが薄暗くなった頃、 は目を覚ました。
に気付いたユーリは、たき火を回り込んで隣に腰を下ろした。

「・・・どれくらい、経ったの?」
「そうだな、だいたい3、4時間ってとこだな」
「そう・・・エステルは?」
「まだ起きてない」
「そっか」

はエステルを見つめた後、隣に座ったユーリに視線を向ける。

「ありがと、ユーリ。
エステルの看病、全部やってもらって」
「何言ってんだよ。
オレはお前の指示通り動いただけだぜ?」

ユーリの笑いに、 もつられる。

「ほら、腹減っただろ?これ食おうぜ」

ユーリから渡されたオレンジ色の果物が手渡される。
手の平に転がるそれを は見つめる。
隣を見るとユーリはすでに果物を口に運んでいた。
はたっと気付いた は声を出す。

「あ・・・ユーリ、これは――」
「にがっ」

の呼びかけも虚しく、ユーリはおいしそうな見かけとかけ離れた味に顔を歪めた。

「遅かったか・・・これ、ニアの実って言ってね、生だと苦くて食べれたものじゃないんだよ」
「早く言ってくれ」

ユーリのしかめっ面がおかしかったのか、 は吹き出す。
つられてユーリも笑い出し、つかの間、二人の笑い声が辺りを包んだ。









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2008.1.24