ーーNo.11 旅の始まりーー
下町に着くと、タイミング悪くハンクスと鉢合わせとなった。
「ああ、ユーリに
!
どこに行っとったんじゃ!」
「・・・え〜っと――」
「ちょいとお城に招待を受けて優雅なひと時を満喫してた」
ハンクスの問いかけに
の言葉を遮り、ユーリが代わりに答える。
「何をのんきな・・・その娘さんは?」
「こんにちは、エステリーゼと申します」
「いや、こりゃご丁寧に・・・」
丁寧に頭を下げたエステリーゼにつられ、ハンクスも挨拶を返す。
だがすぐ思い出したようにユーリと
を見た。
「いや、それよりも騎士団じゃよ。下町の惨状には目もくれずお前さんを捜しておったぞ。
やはり騎士団と揉めたんじゃな!」
「すみません、私がついていながら・・・」
「ま、そんなところだ。ラピードは戻ってるか?」
ユーリの問い返しに肯定が返る。
「ああ、何か袋をくわえておったようじゃが・・・」
「その袋は?」
「お前さんの部屋に置いてあるはずじゃよ」
「なら、後で振ってみな。いい音するぜ?」
ユーリは悪戯が成功したかのようにニヤリとした。
あ、悪い顔だ、と隣でユーリの顔をちらっと見た
は二人の会話を聞いていた。
「モルディオさんに会ったのか?」
「当人は逃げちまったけどな。アスピオって街の有名人らしいんだ」
ハンクスの問いかけに、ユーリは悔しそうに顔を歪める。
「・・・逃げた?ということは、やはりわしらは騙されて・・・」
「残念ですけど・・・
当人がいた家も空き家ですし、貴族って肩書きも違ってました」
「そうか・・・」
とユーリの言葉にハンクスは明らかに気落ちし肩を落とした。
「水道魔導器も、水漏れ通り越して止まっちまったみたいだな」
「ああ、魔核がなくてはどうにも動かん」
は水道魔導器に目を向けた。
昨日はあれだけ溢れ出ていたのに、今では最初からそんなことなどなかったかのように静かだ。
「残りの水で暫く大丈夫だよな?」
「ああ。じゃが、長くは保たんよ。
後は腹壊すの承知で川の水を飲むしかないのかのぉ・・・」
「ハンクスさん・・・」
ハンクスの軽い調子に
はやりきれない思いから、なんと声をかけて良いものか迷った。
「騎士団は何もしてくれねえし、やっぱドロボウ本人から魔核取り戻すしかねぇな」
「えっ、ユーリ、それって・・・」
「まさか、モルディオを追いかけて結界の外に出るつもりか?」
はいつもの冗談か、と思ったがどうやら本気らしい。
ハンクスも
と同様に目を丸くしている。
そんな様子がおかしかったようで、ユーリはからかった調子で言った。
「心配すんなよ。ちょっくら行って、すぐに戻ってくるから」
「はん、誰が心配なんぞするか。
ちょうどいい機会じゃ、しばらく帰ってこんでいい」
いつもと違うハンクスの様子に
は黙って成り行きを見守る。
突き放された言葉を受けたユーリは眉根を寄せた。
「はあ?なんだよそれ」
「お前さんがいなくなっても、儂らはちゃんとやっていける。
前にフレンも言っておったぞ。ユーリはいつまで今の生活を続けるつもりなのかとな」
「フレンがそんな事を・・・」
「余計なお世話だっての」
そういうことか、と納得した
の横でユーリは憎まれ口を叩いた。
「ユーリ・ローウェ〜〜ル!!
よくも!よくもかわいい部下ふたりを!お縄だ!神妙にお縄につけ〜!!」
「あれ?なんだかユーリだけのせいになってるね」
続きを遮るかのように、ルブランの大声が下町に響く。
ユーリは肩を竦め、ハンクスに大声の元を顎で示した。
「ま、こういう事情もあるから、暫く留守にするわ」
「やれやれ、いつもいつも騒がしいヤツだな。
これで金の件に関しては、貸し借りなしじゃぞ」
いつの間にか、あちこちに下町の住民が顔を揃えていた。
みんなの視線がルブランに集中していたことで、ユーリはハンクスに視線を送る。
「年甲斐もなくはしゃいで、ぽっくりいくなよ?」
「はんっ、おまえさんこそ、野垂れ死ぬんじゃないぞ」
ハンクスが言い終わるのを待たずに、ユーリは下町の出口に向け走り出す。
「あ、待って下さい!
おじいさんわたしも行きます」
「あやつの面倒を見るのは苦労も多いじゃろうが、お嬢さんも気をつけてな」
「はい、ありがとうございます」
ハンクスの言葉を受け、エステリーゼもユーリの後を追いかけ出した。
残った
にハンクスは申し訳なさそうに、眉尻を下げた。
「
、お前さんにまた面倒事を押し付けてしまったな。
道中、気をつけるんじゃぞ」
「そんなことないですよ。
任せてください、しばらく問題児はお預かりしますね」
ハンクスの心配を和らげるように
は柔らかく微笑んだ。
そしてユーリとエステリーゼの後を追い、ハンクスに背を向けた。
三人が出口に向かって走り出したのを確認すると、ハンクスは片手を上げる。
するとそれを合図に下町の住民が怒濤のようにルブランに詰め寄った。
その人波を縫うようにして脱出した三人は、肩で息をついた。
「ユーリさんと
さんは皆さんにとっても愛されてるんですね」
「それ、間違ってるわ。愛されているのはこっち」
「冗談言うなよ、厄介払いができて嬉しいだけだろ?」
顔をしかめるユーリに肩を竦めるだけで返した
は、くるりと結界の外を向いた。
「とりあえず、まずは北のデイドン砦を目指しましょ」
「ああ、分かった」
「え?あ、はいっ!」
の声にユーリが応じ、エステリーゼも慌てて返事を返す。
「どこまで一緒かわかんねえけど。
ま、よろしくな、エステル」
「はい・・・え?あれ?
エス・・・テル・・・?エステル・・・」
こちらこそ、よろしくお願いします、ユーリ!」
「こっちもね、エステル♪私は
で良いわよ」
「はい。
も仲良くしてくださいね!」
互いの挨拶を終え、
は旅の始まりの口火を切った。
「さて、出発しますか」
「しばらく留守にするぜ」
「行ってきます」
三人は帝都を振り返り、町並みを眺めた後、結界の外へと足を踏み出した。
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2008.1.18