ーーNo.9 秘密の地下通路ーー
「ここがわたしの部屋です。
着替えてきますので少し待っていて下さい」
「分かった、手短かにな」
「はい、さあ
、どうぞ」
「ありがと。悪いわねユーリ、ちょっとヨロシクね」
二人は部屋に入り、ユーリは廊下で二人を待つことになった。
ドアを見つめる形となっていたユーリだが、周囲の警戒くらいですぐに手持ち無沙汰となった。
向かい側の壁に寄りかかろう、とユーリが近づいた所、突如エステリーゼがドアを開け二人はそのまま鉢合わせとなった。
そのままエステリーゼはドアの傍に立てかけてあった剣を取る。
「・・・念のため」
「心外だな、さっきのは覗きたくて近づいた訳ないだろ」
「エステリーゼ気をつけて!パックリやられちゃうから!」
「おい・・・」
のからかいにユーリの目が据わる。
「フレンから『会ったら用心するように』って言われてますから」
「へぇ〜、フレンらしいわ」
エステリーゼの言葉を聞き、
はもう一人の友人の言葉に感心した。
「ったく、余計なこと吹き込みやがって・・・」
閉まった扉を見つめ、肩を竦めたユーリの呟きは廊下の静寂に消えていった。
ほどなくして着替えを終えた二人は部屋から出てきた。
「お待たせしました」
エステリーゼの声でユーリは部屋のドアへ視線を向けた。
エステリーゼは結っていた髪をほどき、先ほどより動きやすい服装になっていた。
もロングコートを引っ掛けたいつもの格好に戻っている。
「うん、さっきよりこっちの方が私は好きだな。似合ってるよ」
「ありがとうございます。
もわたしが選んだ服を着たら良かったのに・・・」
「カンベンシテ・・・」
楽しげ(?)な二人のやり取りを聞きながら、ユーリはジーッとエステリーゼを見つめる。
その視線に気付いたエステリーゼは首を傾げた。
「あ、あの・・・おかしいです?」
「・・・いや、似合ってねえなと思って」
そうでしょうか、とシュンと気落ちしてしまったエステリーゼを
が宥める。
「あぁ、気にしないで。
ユーリって照れると素直に褒められないのよ。
ほら、視線を合わせないのが良い証拠でしょ」
ユーリは反論しようとしたが、
からの一睨みで文句を飲み込む。
の言葉を聞き、気分を持ち直したエステリーゼは、ユーリに右手を差し出した。
差し出された側のユーリはキョトンとした表情になる。
「何、これ?」
「よろしくって意味です」
にっこりと笑いかけたエステリーゼをユーリは暫く眺めて、自身の左手を合わせた。
その後、
とも握手を済ませるのを見届けてから声をかける。
「んじゃ、行くぜ」
「はい!」
「了解!」
ユーリのかけ声のもと、三人は城内の脱出ルートを求め歩き出した。
歩きながら
とユーリは見つけられなかった手がかりについてエステリーゼに訊ねる。
「ねぇ、この城の中に『女神像』って立ってる?」
「はい、もうちょっと進めばその部屋に出られますよ?」
「・・・本当だったんだな」
大して信用してなかっただけに、真実だったためユーリは驚く。
エステリーゼの案内で女神像の部屋に辿り着いた。
「ふーん・・・これか」
「この像に何かあるんです?」
「秘密があるんだと」
「まぁ、あやふやすぎる情報だけどね」
エステリーゼの問いかけに、ユーリは考え込むように顎に手を当てたまま答える。
一方、
は像の回りを調べ始め、視線を落としている。
「秘密って言われても、特別、何も変わったものでは・・・」
「動かしたら秘密の抜け穴があるとかな」
「あぁ、ベタだけどあり得ない事じゃないわね」
ユーリの軽いノリに
も便乗して返す。
「まさか・・・」
「やってみる価値はあるんじゃねえの」
エステリーゼの半信半疑な様子にユーリは像をどっちに動かすか考えていると、
が声を上げた。
「ユーリ、像の正面に立って後に引っ張ってみて。
ほんの少しだけど引き摺った跡があるから」
多分・・・、と
が言った続きを察し、ユーリがその通りに引っ張る。
するとさほど抵抗を受けず、像が動いた。
そして、像の下から更に下に降りれる梯子が現れる。
「・・・え?本当に・・・?」
「うわ、本当にありやがった・・・」
「ふ〜ん、有事の際の緊急脱出ルートか。簡単に見つからない訳だわ・・・」
驚く二人をよそに、
はしげしげと足元の梯子の先を見つめる。
「もしかして、ここから外に?」
「保障はない。オレ達は行くけど、どうする?」
ユーリの問いかけにエステリーゼは暫く地下への入口を見つめ、意を決して力強く頷き返す。
「・・・行きます」
「なかなか勇気のある決断だ。
しかし、あのおっさんマジかよ・・・見た目通り胡散臭ぇな」
「・・・胡散臭い、おっさん・・・ねぇ」
はユーリの言った『胡散臭いおっさん』に眉根を寄せた。
(「彼が帝都に来るとは聞いてないけど・・・」)
そんな
の様子を気にせずユーリは梯子を降りようとする。
が、エステリーゼに左腕を掴まれた。
「どうした?やっぱり、やめんの?」
「いえ、手、ケガしてます。ちょっと見せて下さい」
その声に
も視線を向けると、ユーリの左甲には真新しい切り傷ができあがっていた。
エステリーゼは、治癒術を発動させようと祈るように手を組んで瞳を閉じた。
ユーリは温かくなったのを感じ、引きつった痛みが引いていくのを感じた。
ところが、その発動をユーリの脇で見ていた
は違和感に目を細めた。
(「えっ?」)
「ん?」
ユーリも何か気付いたのか発動直後、エステリーゼの武醒魔導器をよく見ようと腕を掴んだ。
「きゃあっ!」
が、発動に集中していたエステリーゼに驚かれ手を振り払われてしまった。
考え込んでいた
も咄嗟のフォローができず、辺りに気まずい雰囲気が漂う。
「あ、悪い・・・
きれいな魔導器だと思ったら、つい手が・・・」
「本当に、それだけです?」
エステリーゼが疑い深くユーリを見つめてくる。
そんな様子にユーリは苦笑した。
「ほんとにそれだけ。・・・手、ありがとな」
素直に伝え、柔らかく笑い返す。
それを真正面から見たエステリーゼは顔に朱が走り、両手で頬を挟み込みその視線から逃れた。
「・・・い、いえ、これくらい」
「ほら、行くぞ」
意外にやり手だったのね、と
かは思ったが、そんな反応をさせた当人はエステリーゼの様子に気付いているのかいないのか・・・
さっさと梯子を降りていった。
ユーリが降りた事に気付いていないエステリーゼに、
は肩を叩き現実へと引き戻した。
「もしも〜し、エステリーゼ。
ユーリなら下りたから貴女も続いてほしいんだけど?」
「えっ?あ、ごめんなさい・・・」
謝りつつ、エステリーゼもユーリの後を追い、梯子を降りていった。
最後となった
だが、エステリーゼの術の発動時の違和感がどうにも拭えなかった。
だが、このまま考えても埒があかない。
そう思い遅れて二人の後を追いかけていった。
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2008.1.11