ーーNo.8 闇夜の暗殺者 後ーー
「サクッと終わらせるわよ」
「ああ」
3対1となったことで、戦況はユーリ達に傾いた。
「吹っ飛べ、獅子戦吼!」
「刃に宿れさらなる力を、シャープネス!」
「逃がさないわよ、魔神連牙斬!」
ユーリ達のコンビネーションについにザギが膝をつく。
「くっ、強ぇえじゃねぇか・・・
アハハハハハハ、痛てぇ、痛てぇ!」
常軌を逸したザギの様子にユーリ達は警戒を解かず距離を置く。
「相手、完璧に間違ってるぜ。仕事はもっと丁寧にやんな」
「この人はフレンじゃありません!」
「まぁ、今更だけどね」
三人は武器を構えながらも勘違いをさっさと認めてくれとばかりに言い放つ。
だが、ザギから返ってきたのは予想もしない答えだった。
「そんな些細な事はどうでもいい!さあ、続きをやるぞ!」
「そりゃ、どういう理屈だよ。
ったく、フレンもとんでもねえのに狙われてんな」
ユーリが呆れ返り、まだ戦闘が続きそうな様子にげんなりとするだが部屋の入口から赤眼の男が入ってきたことにより、そんな状況に終止符が打たれる。
「ザギ、引き上げた。こっちのミスで、騎士団に気付かれた」
赤眼の発言で明らかに気分を害したザギはユーリ達に向けられた刃を赤眼に振り下ろした。
それを紙一重で避けた赤眼の男は怒りを露にする。
「き、貴様!」
「うわははははっ・・・!
オレの邪魔をするな!まだ上り詰めちゃいない!」
仲間のような赤眼も、ザギの行為に怒りを声に滲ませる。
「騎士団が来る前に退くぞ。今日で楽しみを終わりにしたいのか?」
その言葉にザギは振り返り、その瞳が不穏に光った。
すると赤眼はその言葉を最期にゆっくりと身体を傾け、床へと沈んでいった。
自分の刃を収め、気が晴れた顔でユーリ達に視線を送ったザギは暗闇に身を翻した。
辺りの重い沈黙を破り、ユーリは自分の剣を鞘に戻す。
「ここもゆっくりできねえのな」
「・・・そうね、さっさと移動した方が面倒事が減るわ」
暗殺者を退けたが、ここにいることでさらに危険が増す事が目に見えた。
休む間もなくフレンの部屋を後にしようとユーリとは頷いた。
「・・・女神像の話に賭けて、さっさとおいとまするか」
「あの、ユーリさん・・・」
二人の会話を縫って、女性が躊躇いがちに話しかけてくる。
「わかったよ、ひとまず城の外までは一緒だ」
「はい、あの・・・わたし、エステリーゼっていいます」
先ほど中断された自己紹介をしたエステリーゼは二人に挨拶を返す。
「んじゃ、、エステリーゼ、急ぐぞ」
急かす声にはさっさと部屋を出ようとしたが、エステリーゼの声で引き留められた。
「待って下さい、ドアを直さないと・・・」
エステリーゼの発言にとユーリは一時固まり、いち早く回復したユーリが思わず声を張り上げる。
「んなことしてる場合じゃねぇだろ!」
「でも・・・」
エステリーゼは下から見上げるようにユーリを見つめる。
幾分潤んだ瞳で見上げられたユーリは、うっと身を引いた。
意識してか無意識か、そんなエステリーゼと必死に堪えるがしっかりと肩を震わせているにユーリは盛大な溜め息をつく。
「・・・しゃあねぇな、待ってな」
が震える声を絞り出し、行きましょとエステリーゼの手を引いて廊下に出た。
「こ、れは・・・っくくく、ひ、久々にこんな大物にぃ〜」
「ほらよ、さ、行くぞ」
「は、はい・・・」
の抑えきれてない笑いを遮るようにユーリがぞんざいに言い放つ。
エステリーゼはの笑いの原因やユーリの憮然とした表情を不思議そうに見ていたが、慌てたように返事を返し歩き出した。
ユーリ達は城内を進むと、中庭を見下ろす事ができる2階に出た。
1階では多くの騎士団が声を張り上げ、大騒ぎとなっていた。
「・・・さっきの連中のせいか、これ・・・?
オレのせいとかになってねぇよな」
「さすがに・・・いくら騎士団が使えない連中でも、そこまでマヌケじゃないんじゃないの?」
「ケガ人が出てなければいいけど・・・」
ユーリの身を心配をが宥めるも、大して効果はないだろう。
今までの騎士団の理不尽な行為のおかげで、二人は(幼馴染みを除いて)信用なんてしていなかった。
そんな二人とは対照的に、エステリーゼは心底心配そうに騒ぎを見つめる。
「騎士団も自分たちの身くらいはちゃんと守ってんだろ」
「そうですね」
ユーリの言葉にエステリーゼは頷く。
城内に住んでいたのであれば、エステリーゼの方が騎士団については信用をおいてるだろう。
そう考えていただが、ふとエステリーゼが城内に住んでいる、ということが気にかかった。
普通の貴族のお嬢様が城に住むだろうか?
しかも、護衛の騎士を二人もつけていた上、居なくなっただけで騎士団総出で捜すなど・・・
浮かんだ推論を深めようとした所に、またもや横槍が入る。
『ユーリ・ローウェル!どこに逃げおった!』
「・・・今日はことごとく考え事の邪魔されるわね」
「ほら、元気なの来たぞ。この声、ルブランだな」
「あの・・・お知り合いなんですか?」
「ま、ちょっと前にな・・・っと、そんなことより急ぐぞ」
の不機嫌な様子を目に留めながらも、ユーリは城を抜け出す事を優先した。
むすっとしたもユーリに続き、エステリーゼも続こうとしたが履いていたヒールが何かに引っかかったようで、の背中にぶつかってしまった。
「ご、ごめんなさい!」
「私は大丈夫。エステリーゼこそケガしてない?」
が聞き返すと、大丈夫です、とエステリーゼが返事する。
「その目立つ格好も、外に行くならどうにかした方がいいな」
ユーリはエステリーゼの格好を見てこぼす。
「着替えならこの先のわたしの部屋に行けば・・・」
「んじゃ、それで行こう。もついでに着替えてこいよ」
「そうね、城の外でこんな格好ゴメンだわ」
ユーリの提案に頷き返した一行は喧騒を背にし、エステリーゼの部屋を目指した。
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2008.1.11