ーーNo.7 暗闇の暗殺者 前ーー


































騎士達の声は相変わらず至る所から響いていた。
運動会でもしてるのかしら?とふざけた に、んなわけないだろ、とユーリの呆れが返る。
いくつめかの廊下を歩いていたユーリ達は、女性が立ち止まった事で共に足を止めた。
自身の記憶を懸命に掘り起こし、フレンの部屋を思い出そうとキョロキョロと辺りを見回す。

「この辺り・・・だったような・・・」
「・・・あんたの立ってるそこがフレンの部屋だろ・・・?」
「わぉ、素でやっちゃうか〜」

驚きに口元に手を当てている女性に女性に はいろんな意味で感心した。
部屋の中に入ってみると、主を表すかのようにきちんと整理されていた。

「やけに片付いているな・・・こりゃあ、フレンの奴どっかに遠出かもな」
「そんな・・・間に合わなかった」

酷く気落ちする女性に、 はなんと声をかけて良いものか逡巡した。
ユーリはベッドの端に座り、先ほど聞きそびれた疑問を口にする。

「んで?一体どんな悪さやらかしたんだ?」
「どうして?わたし、何も悪い事なんてしてません」
「なのに騎士に追い回されるのか?常識じゃ計れねぇな、城ん中は」

皮肉を込めたユーリの切り返しに、女性は言葉に詰まる。
雲行きが怪しくなった二人の間に は仲裁に入る。

「まぁまぁ。
初対面に言える理由じゃないみたいだし・・・
これからどうするか考えた方が建設的でしょ。
ユーリだって脱走がバレて戻る意味なくなったしね?」

の意見は最もだったが、下町で騎士団と揉め事ははご免被る、とユーリの顔に書いてあった。

「そうだけど・・・下町に戻った所で待ち伏せされてるのが――」
「あの!ユーリさん!」

意を決した声にユーリはたじろいだ。

「なんだよ急に」
「詳しい事は言えませんけど、フレンの身が危険なんです!
わたし、それをフレンに伝えにいきたいんです」

一気に言いきった女性はユーリを期待を込めた目で見やる。
だが、ユーリの返答は女性が期待したものではなかった。

「行きたきゃ、行けばいいんじゃないのか?」

ユーリらしい返答に は苦笑する。
また言葉に詰まってしまった女性はなんとか続けようとする。

「それは・・・」

しかし、言葉が続かず俯いてしまう。
見兼ねて は助け舟を出す。

「ごめんね、エスコートなってないのはこっちも変わんなくて。
貴女も急いでフレンに会いたいように、こっちもこっちで事情があってね」
「・・・そういうことだ。
オレ達は外が落ち着いたら、下町に戻りたいんだよ」

とユーリの説明を聞いた女性は暫く考えていたが、決意したように毅然と顔を上げる。

「だったら、お願いします。わたしも連れて行ってください。
今のわたしには、フレン以外に頼れる人がいないんです。
せめて、お城の外まで・・・お願いします、助けて下さい」

深々と頭を下げる女性に、 は溜め息を一つ吐く。
女性の肩が僅かに反応するのも構わず、 はユーリに肩を竦めてみせた。

「これは、ユーリの負けね。
ここまで丁寧にお願いされちゃあ、聞いてあげるしかないんじゃない?」

ユーリは仕方ない、と溜め息をこぼす。

「訳ありなのは分かったから、せめて名前くらい聞かせてくんない?」
「はい!わた――」
――バゴッ!――
「ひゃあっ!!」

突如、扉が室内に倒れてきたことに、女性は驚きに声を上げる。
は目を細めて入口を見つめた。
片手はいつでも投擲できるようにナイフを、そして片剣に手をかける。

「オレの刃のエサになれ・・・」

入口から現れたのは赤黒い服に耳を包んだ男だった。
緋色の髪に混じる枯草色の髪が薄暗い室内では際立っていた。
そのセリフをかけられた相手であるはずのユーリは、座ったまま明後日の方向を向いていた。
そんな様子が気に入らなかったのか、侵入してきた男は入口近くの花瓶に持ち手の刃を叩き付ける。

「ノックぐらいしろよな」

ユーリは低い声を上げ、静かに立ち上がる。
それに構わず、男は薄ら笑いを浮かべたままユーリに言い放つ。

「オレはザギ・・・お前を殺す男の名、覚えておけ。
死ね、フレン・シーフォ・・・」

凶器を宿した瞳が楽しそうに細められ、いきなりユーリに斬りかかってきた。

「人違いだっつーの」
「死ね」
「ちっとは人の話を聞いた方がいいぜ」

突如、斬りかかってきた男の剣を受け流したユーリだったが、男は矢継ぎ早に太刀を繰り出す。
人違いだという言い分を聞いてくれそうもない雰囲気に、 も応戦の形をとる。

「ザギだ。オレの名前を覚えておけ、フレン」
「フレンじゃねぇって!聞けよ!」
「何言っても無駄よ。多分、あいつは海凶リヴァイアサンの爪だわ。
暗殺のプロフェッショナルギルドで、目的遂行の為には手段を選ばない連中よ」
「そりゃあ、仕事熱心なことで・・・」

応戦しながらも話を続けるユーリと に、ザギは嘲笑を浮かべる。

「ククク・・・なんだよお前」
「全く・・・おまえこそなんだよ」
「オレはお前を殺して自らの血にその名を刻む」
「・・・それ、最高に趣味悪いな」
「同感」

ザギと応戦しながら、なんとか状況を打開できないかと二人は考えを巡らせる。

「楽しく・・・楽しくなってきたぜ」

しかし、ザギの素早い攻撃の手になかなか進退が決まらない。

「たくっ、ちょこまかと!」
「っく、埒があかない!
高けき焔の調べよ、我が前に織り成せ!ファイヤーチェイン!!」

慣れない後方支援と魔術の連続で、 の息が上がってくる。
ユーリが何とか稼いだ時間で、魔術を唱えるもザギは軽やかに回避する。

「ユーリの・・・回復を――」
「聖なる活力、ここへ!ファーストエイド!」

響いた治癒術が の身体を重くしていた疲労を軽くする。
驚いた が振り返ると先ほどまで話をしていた女性がにっこりと微笑んだ。

「わたしもお手伝いします!」
「ありがとう。
詮索は後にするわ、支援お願いね!」

任せて下さい、と女性の応じを聞きながらザギと応戦しているユーリに加勢するため走り出した。






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2008.1.10