ーーNo.6 月夜の出会いーー


































ユーリとは見つからないようにしながらも、唯一の手がかりを見落とさないようにくまなく捜索していた。
だが、それがどんな大きさで、どこにあるものか、形はどうなのかなど情報が少なすぎる。

「からかわれたんじゃないの?
だいたい、『女神像の下』っていうだけの情報が少なすぎんのよ。
一体どこの情報屋よ・・・」

痺れを切らしたの口からはぶちぶちと不満が飛び出してくる。
本当にここに居たくないないんだと思い、苦笑しながらユーリは宥める。

「ま、全ての情報屋がみたいじゃないって訳だ。
こういうことがあると、敏腕なんだって実感するな」

普段言われ慣れない、ユーリの褒め言葉に驚き、の顔が赤く染まる。

「な、何言ってんのよ!私なんてまだまだなんだから!
だいたい、急にそんな事言うなんて年下のユーリのくせに――」
「おい、誰かいるぞ!」

ユーリの遮りには口を噤む。
そして柱の陰に隠れ、身を潜めると何事か揉めているらしい騒ぎが聞こえてくる。
声から騎士団二人と女性が揉み合っているようだ。

『もう、お戻りください』
『今は戻れません!』
『これはあなたのためなのですよ』

騎士二人はなんとかして女性を説き伏せようとしているようだ。

『例の件につきましては、我々が責任を持って小隊長に伝えておきますので』
『そう言って、あなた方は、何もしてくれなかったではありませんか』

目の前のフロアを通らなければユーリ達は次の場所に行く事ができない。
なかなか終わりそうにもない雰囲気にユーリとは見守る事しかできなかった。

『おい!いたぞ!こっちだ!』

数人の騎士が駆けてくる足音にますますユーリ達の状況は悪くなる。
それは、騎士と対峙していた女性も同じようで必死に頼み込む。

『お願いします!行かせて下さい!
どうしても、フレンに伝えなければいけないことが!』

女性の焦った声の中に聞き覚えのある名前があったは一緒に隠れてるユーリを見上げる。
が、そこに姿はなくあれ?と思ったの耳に二人分の情けない悲鳴が響く。

「・・・後先考えてるのかしら?下町の様子見はどうするんだか」

視線を先ほどの騒ぎがあったフロアに向けると、騎士二人が地面に仲良く伸びていた。
その傍でユーリは助けた女性から、何やら頼み込まれているようだ。
も合流しようと柱の陰から踏み出そうとした。
その時、

「ユーリ・ローウェ〜ル!どこだ〜!」
「不届きな脱走者め!逃げ出したのはわかっているのであ〜る!」

城内全てに響くのではないかという声を張り上げ、シュヴァーン隊小隊長であるルブランとその部下のアデコール(デコ)が脱走犯に宣言している。

「ちっ、またあいつらか。
もう牢屋に戻る意味、なくなっちまったよ」

苦虫を噛潰した顔をしているユーリに、合流したは呆れ顔でその大声を聞いている。
その間にも城内に響く声は収まらない。

「ユーリ・ローウェル?
もしかして、フレンのお友達の?」

助けた女性が不思議そうにユーリを見上げる。
結い上げた桃色の髪に翡翠色の瞳、瞳に合わせた同色の上質なドレス。
受け答えも丁寧そのものな姿は、まさに絵に描いたようなお姫様だ。

「ああ、そうだけど?」
「なら、以前は騎士団にいた方なんですよね?」
「ほんの少しだけどな。それ、フレンに聞いたの?」
「はい」

私お邪魔かしら、とは考えながらも、二人の会話は続く。

「ふ〜ん、あいつにも城の中に、そんな話する相手いたんだな」
「ユーリと違ってガラも良いし誠実なんだから、それくらいいるんじゃないの?」

に反論しようとしたユーリより早く、焦った女性の声が響く。

「あの、ユーリさん!フレンの事でお話しが!」
「ちょい待った。あんた一体、なんなんだ?
フレンの知り合いなのは分かったけど、どうして騎士団に追われてんだよ」

あまりにも切迫した様子にユーリはたじろぎ、も事情が言われるのを待つ。
しかし、他の騎士に見つかったらしく複数の騎士の足音が近づいてくる。

「いたぞ!こっちだ!」

ユーリは溜め息をこぼし、に視線を送った。

「事情も聞きたいけど、お互いのんびりしてらんないな。
まずはフレンのとこに案内すればいいか?」
「あ、はい!」

女性の嬉しそうな声が返り、話がまとまったところでが口を開く。

「じゃ、そうと決まれば案内よろしくね。
足音からしてこっちに向かってきてるのは二、三人ってとこよ。
騎士全員と戦るようなことはちょっと勘弁だから、案内するならそこんとこヨロシクね」

ユーリの肩をぽん、と叩いたに了解、と返答が返る。
そんなを女性は不思議そうに見つめてくる。

「あなたは・・・あなたもお城の人ではないんですか?」

きっとメイド姿なのに口調は砕けている、回りの倒れてる騎士がいても平然としている等々、城に勤めている本物ならこんな状況ではきっとパニックだろう。
ある意味当然な問いかけには笑って答える。

「あぁ、この格好はちょっと訳ありで・・・
私もあれと同じ部類かな?
あ、でもあれより礼儀はなってるから」
「おい・・・」

あれ呼ばわりされたユーリの不機嫌な声も気にせず、はユーリを急き立てた。

「ほらほら、早くしてよ。
フレンの部屋知ってるのユーリだけみたいなんだから」

私は知らないし〜、というの様子にユーリは脱力し、気を取り直してかけ声を上げた。

「よし、いくぞ」

夜の帳が覆っている中、三つの影はフレンの部屋を目指し駆け出した。






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2008.1.10