ーーNo.3 魔核コア泥棒ーー


































宿屋からさほどかからず、勢い良く水が吹き上げる現場へと到着した。
すでに大勢の下町の住民が溢れ出した水を止めようと奮闘している。
いつもであれば澄んだ噴水の周りに人が集まり、憩いの場になっていたのだが、今では濁った水が吹き出し憩いの場の面影はない。

「なんとしても止めるんじゃ!」

ハンクスの大声が下町の住民に指示を飛ばす
ユーリは濡れる事も構わず、膝丈まで水に浸かりながら近づいていった。

「なんだ?どでかい宝物でも沈んでるのか?」
「ああ、でもユーリには分けてやんねえよ。
来んのが遅かったから」

ユーリのからかいに、下町の青年は素っ気なく答え、黙々と土嚢を積む作業を続ける。

「はっはっは。世知辛いねぇ」
「そう、世知辛い世の中なんだよ。
魔導器ブラスティア修理を頼んだ貴族の魔導士様も、いい加減な修理しかしてくんないしな」

不満をこぼしならも、その手が休まる事はない。
すると住民に指示を出していたハンクスがユーリに気付き声を上げる。

「ユーリめ、やっと顔を出しおったか!」

声の方を向いたユーリは、青年と同じ作業をしていたような格好だったハンクスを見て、呆れた声を上げる。

「じいさん、水遊びはほどほどにしとけ。
もう若くねえんだから」
「その水遊びをこれからおまえさんもするんじゃよ」
「げっ」

嫌そうな声を上げたユーリに は苦笑し、ハンクスの肩を持った。

「そうよ、ユーリ。
しっかり手伝わないとダメじゃない」

その言葉に、ユーリは半眼を向ける。

「確か、一宿一飯の恩義とか抜かしてた奴がいなかったか?」

指摘された発言をした本人は、ニヤリと口端を上げた。

「それはそれ、これはこれ。
恩義にはいろんな形があるでしょ?」

はひらひらと後ろ手を振り、がんばって〜、と言い残して歩き出した。
反論を諦めたユーリはため息をつくと、土嚢を積む作業を手伝い始めた。


























(「原因はやっぱり・・・」)

心中でつぶやいた は水音を見やる。
視線は噴水の中心、そこに本来なくてはならないものに向けていた。
しかし、映ったのは窪みだけではまっていなければならないものが無かった。
予想がそのまま確信に変わり、 は嘆息した。

「予想通り・・・か」

魔導器ブラスティアを使うには、魔核コアがなければ話にならない。
魔核コア魔導器ブラスティアの原動力であり制御装置でもある。
魔核コアがなければ魔導器ブラスティアは暴走する。
今回の故障はこれに間違いないだろう、と は結論づけた。
は土嚢を積む作業をしているハンクスの側に歩み寄り、その後ろ背に声をかけた。

「ハンクスさん。
確か、修理を依頼したのって今日ですよね?
最後に水道魔導器アクエブラスティアに触った人もその人ですか?」

の問いかけに、ハンクスは振り返ると頷いた。

「ああ、魔導士でもあるモルディオさんに請け負ってもらったんじゃ」
「?モルディオ、さん・・・ですか?」
「そうじゃよ。
さあ、身体を冷やすのは悪い。
こっちはユーリにでも任せて、他のところを手伝ってもらえるかの?」

そうさせてもらいますね、と は答えハンクスから離れた。
思案したまま、 はユーリに近づいて行くと、それに気づいた漆黒は作業の手を止め視線を合わせる。

「なんかわかったのか?」
「・・・まぁね」

はハンクスから聞いた事、魔核コアがなくなっている事をユーリに伝えた。
聞かされた内容に、ユーリの眉間に皺が寄る。
そして間を置かず、水音に負けない声でハンクスに伝えた。

「悪い、じいさん。用事思い出したんで行くわ」

考え込んでいる の隣を横切り、ユーリとラピードは中心街へ向け歩き出す。

「待て、待たんか!」

咎める声に振り向いたユーリは、ハンクスの探るような視線とぶつかった。

に何聞いたんか知らんが・・・
まさかモルディオさんのところへ行くのではあるまいな」
「貴族様の街に?オレが?
あんな息詰まって気分悪くなるとこ、用事があっても行かねえって」

ハンクスの心配を肩を竦めるだけで返し、再び背を向けた。

「まったく・・・
武醒魔導器ボーディブラスティアで技を使えるからって無茶だけはするんじゃないぞ!
また無茶せんといいが・・・」

二人のやり取りに は苦笑すると、考えを中断しハンクスを宥める。

「そんなに心配いらないですよ。
私も一緒について行きますから、無茶はさせませんって」
「う〜む、気は進まんがユーリを頼んだぞ、
ただし、お前さんも――」
「『無茶はするな』でしょ?」

行ってきま〜す、と笑いかけ先に進んだユーリ達を追いかけた。
そしてユーリに追いつくと、 は早速冷やかした。

「日頃の行いが出てたわね。
あんなに心配かけちゃって・・・」

からかわれていると分かっていたユーリだが、憮然としながら反論する。

「周りが心配し過ぎなんだよ。
オレより自分達の心配をしろってんだ」

そんなユーリにキョトンとしていた は吹き出した。

ぶはっ!やっぱりユーリだねぇ〜」

ケラケラと笑っていたが、外れる事ない半眼に は笑いながら謝る。

「ごめんごめん。
そう言えば気になったんだけど、ハンクスさんが元気なかったのってなんで?」

悪びれない に息を吐いたユーリは返答する。

「あぁ、水道魔導器アクエブラスティアを修理するのに下町のみんなから修理代を集めて回ったんだよ。
もっとも、それでも足りなくて形見だったばあさんの思い出の品まで売ったらしい・・・
その結果がドカンときたもんだ」

そりゃ落ち込むだろとユーリはこぼし、 はなるほど、と納得した。

「それじゃあ、しっかりと損害賠償請求してやんないとね♪
たんまりふんだくってやんないと、割に合わないし〜」

フッフッフ、と は怪しげな笑みをこぼしながら貴族街を目指した。
その後ろ姿にユーリとラピードは、『こいつを敵に回すのはやめよう』と思ったのはまた別の話。






skit
<<年のせい?>>
(「・・・モルディオってあの?なんで帝都に・・・」)
「お〜い、 〜」
(「・・・研究報告とか?命令なんて従った試しがないってもっぱらの噂の奴がわざわざそんなこと・・・」)
、な〜に考え込んでんだ?」
「クゥ〜ン・・・」
「え?あ、いや。たいした事じゃないよ。ただ・・・」
「ただ?」
「迫り来る老いの波には勝てないなぁって。最近、記憶力と判断力がねぇ・・・」
「・・・お前とオレは大して変わらないはずだけどな。あ、あれじゃないのか?」
「なに?」
「ボケる前兆」
「なるほど〜、それなら失礼な発言したヤツに向かってどこからともなく刃物が飛んで行ってもそれが原因なら許されるねv」
「冗談です(汗)」







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2008.1.4