ーーNo.2 水道魔導器アクエブラスティアの故障ーー


































時刻はもう少しでお昼時となろうとしている。
宿屋1階の窓辺、お茶をのんびり飲みながら、のほほんとした時間を は過ごしていた。
厨房からはトントントンと昼食の仕込みの音が響く。

下町に着いて一週間ほど経ち、仕事も順調に進んだおかげで一旦報告に戻ろうか、と は考え耽っていた。
テッドには時間を見つけて旅の出来事をほぼ語り尽くしたので、今 がやることは特にない。
数時間前に、『聞いた話をみんなに教えて来る』と、出て行ったのできっと今頃は友達と話に花が咲いている頃だろう。

(「弟ができたらあんな感じなのかしらねぇ〜」)

そう考えると、自然と顔が綻ぶ。
と、一週間ほど経っているのに悪友に会ってない事に気づいた。

(「そういえばどこ行ってるんだろ?
仕事で出かけてたから、入れ違いになったかな?」)

気にしだしたら余計に気になりはじめ、女将さんに聞こう、と席から立ち上がろうとテーブルに手をかけた。

――ドオーーーン――
――ザーーーッ――

突如爆音が響き、次いで水特有の音が響く。

「な、何だ!?」
「おい、なんの騒ぎだ!!」

下町の住民が爆音の場所に集まりだし、騒ぎがだんだんと大きくなる中、 は窓から状況を伺った。

「あ〜らら、これは修復作業大変だわ」

窓からは下町の憩いの場兼水場ともなっている噴水が濁色を盛大に吹き出していた。
それを眺めていたちょうどその時、テッドが凄い勢いで窓下を走り抜け、外付けの階段を駆け上がっていった。

「う〜ん、ここは手伝うべきなんだろうけどねぇ・・・」

惨状から視線を外さぬまま、 は今回の帝都での仕事の一件と関連がありそうな気がしてならず目を細めた。

(「・・・もしそうだとしても、ここまで騒ぎにするのは・・・
でも、誰かを雇い入れてるなら辻褄は――」)
『もう!ユーリのバカ!!!』

テッドの怒号が、考えを中断させた。
次いで、荒々しく階段を下りる音が聞こえテッドが宿屋の1階、 が居る食堂に飛び込んできた。

「凄い声だったよ」

苦笑しながら話しかけると、テッドは が見えていなかったようで、驚いた後、むくれ顔になった。

「だってユーリが頼み聞いてくれないし、母ちゃんには手伝えって怒鳴られて・・・」
「あれ?女将さん怒鳴ってたんだ?
聞こえなか・・・って、ユーリ居るの?」

問いかけと同時に窓の外に空から何かが降ってきた。
テッドは に答えず急いで外に出て行き、嬉しそうに声を上げる。

「ユーリ!!」

降ってきた何か、もとい、ユーリはテッドに振り返った後、 と同じ目線となっている窓辺に視線を移す。

「やっとまともに会ったな、
この騒ぎはお前が連れて来たのか?オレは暇じゃないんだから他所に持ってってくれよ」

以前と変わる事ない青年の様子に は肩を竦めた。

「出たな不良青年。
常にトラブルを連れてきてんのはそっちでしょ?
私は日頃の行いが良いから、そんなことないけど?」

青年の名前はユーリ・ローウェル。
肩の先まで伸びる漆黒の長髪、それと同色の意思の強さを宿した瞳。
互いに軽口を叩き合い、二人は同時に吹き出した。

「久しぶり、変わんないね」
「おぅ、元気そうだな」

窓辺から腕を伸ばし拳を軽く当て、互いにニヤリと笑い合う。

「ラピードも元気そうね」
「ワンッ!」

ユーリの相棒であるラピードは、蒼い毛並みを持つ隻眼のオオカミ風の犬である。
ハードボイルドという言葉は、きっとラピードの為にあると は思っている。
人との馴れ合いを好まないラピードに反応を返された事で、 は微笑を返す。

「おっと、遊んでる場合じゃなかったな。
ちょっと出かけてくる。 、また後でな」

そう言うと、ユーリ達は共に水道魔導器アクエブラスティアの現場に向かおうとしていた。

「あ〜・・・待って。同行させてもらうわ」

中断させていた考えが気になった は、窓から外へ飛び降りた。
まさか一緒に来るとは思ってなかったユーリは驚きながらも頷いた。

「良いけど、仕事の方はいいのかよ?
こんな事に関わりだしたらキリねぇし、次の仕事に障るんじゃねぇか?」

なんだかんだ言って優しいなぁなんて思い、 は笑いながら

「仕事はほとんど終わったようなもんだったしね。
いつもお世話になってる下町の危機だし?
一宿一飯の恩義ってやつよ」

そう伝え、自分の装備が揃っているのを確認し、準備完了!とユーリに親指を立てる。
一宿どころじゃないだろ、とツッコミを入れられながらも、二人と一匹は空高く上がった水柱を目指し歩き出した。





skit
<<これもお仕事>>
「それにしてもここ一週間どこ行ってた訳?ずっと2階にいたなら下りてくれば良かったのに」
「ちょっと野暮用があったんだよ。
別にわざと避けてた訳じゃねぇし・・・」
「なになに?ついにユーリを相手してくれる仏のような器の持ち主が現れたわけ!
世も末かしら・・・」
「おい・・・」
「ま、式が決まったら教えなさいよね〜。
それにしてもいつの間に愛を育んだのかしら・・・」
「だからそういうのじゃなくてだな・・・」
「うん、知ってる。
また下町の人が貴族様に理不尽な事された仕返しにしに行って、騎士団に追っかけ回されて帰るに帰れなかったんでしょ」
「・・・知ってたのかよ」
「もち。情報屋ですから」




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2008.1.4