<帝都ザーフィアス>
この世界、テルカ・リュミレース唯一の国家である。
また、巨大な剣の形をした結界魔導器がザーフィアス城を中心に、貴族街から市民街、下町すべてを覆っている。
余程の物好きでなければ、凶悪な魔物が徘徊している結界の外に出ることはしない。
多くの人々は結界の中で己の人生を全うしている。
ーーNo.1 帝都到着ーー
「はぁ〜、やっと着いた・・・」
盛大なため息と共に、うんざりと結界魔導器を見上げる旅人が一人。
旅人を労わるように風が吹き、長いコートと一束の長い後ろ髪が翻った。
それを気持ち良さそうに受け、大きく伸びをすると溜まった諸々を一気に吐き出した。
「ま、しゃーないか。
これも仕事だし、さっさと終わらせよ。
そういえば、帝都も久々か〜
・・・みんな元気かな?」
と、独り言を呟いている旅人に老人の声がかかった。
「なんじゃ、
ではないか。
ずいぶん久々じゃのぅ〜」
「ハンクスさん!
お久しぶりです、変わりありませんか?」
下町の噴水がある広場にいる老人に向かって、
は目の前の階段を数段飛ばしで駆け上がる。
ハンクスは下町の自治会長を務めている人だ。
白髪と長い髭からして、高齢にも関わらず未だカクシャクとしている。
声をかけてもらえたことを嬉しく思い、先ほどよりも気分が軽くなる。
何より訪ねる度に世話を焼いてくれることもあり、今では実の祖父のように慕っていた。
「何も変わらんて。
変わった事が起きるのはいつもユーリが騎士と揉め事を起こすくらいじゃしな」
しかめ顔から出た返答に、馴染みある名前が出た事で
は苦笑した。
「相変わらずのトラブルメーカーは健在ですね。
まぁ、原因はユーリじゃないんでしょうけど・・・」
もはや悪友という仲なので起こしたトラブルの発端はカンタンに予想がついた。
大方、貴族やら騎士団やらと衝突があったのだろう。
お人好しだが、やり方が実力行使に頼っており、かつ自分の身を省みない。
だから周囲に余計な心配をかけているところがいただけないのだが・・・
「そうじゃとしても、やり方が好かんのじゃ。
いつも独りで突っ走りおって・・・」
ハンクスの愚痴はまだまだ続きそうだったがその続きは元気な少年の声によって中断された。
「あーっ!
姉ちゃんだ!いつ戻ってきたの?」
旅人とハンクスの下に一人の少年が駆けてきた。
少年は
がいつも帝都を訪れた際に世話になっている宿屋の息子、テッドだった。
「たった今。
またこっちで仕事することになったから、しばらく厄介になるわね」
しゃがんだ
はテッドと同じ目線で答えた。
「おっ?背、ちょっと伸びたんじゃない?」
「そうだよ!」
嬉しそうにテッドは答え、興奮冷めやらぬようで一気にまくしたてた。
「ねぇねぇ、今度はいつまでいるの?
前みたいに長く居て、いろんな話聞かせてよ!」
「う〜ん、今回はどれくらいかかるか分からないのよ・・・
ま、時間が空いたらいくらでも聞かせてあげるわ」
ぽんぽんと頭をなでると、テッドは目を輝かせ、じゃあすぐ、と
の腕を掴む。
「とりあえず、挨拶もしたいから家に案内してくれるかしら?」
前と変わらないテッドの様子に笑みをこぼすと、
はハンクスに視線を向けた。
「じゃあ、ハンクスさん。
また居る間はお世話になります」
「今更そんなに畏まんでよいわ。
お前さんが居れば、ユーリも落ち着くじゃろうからな・・・
こっちが礼を言うぐらいじゃわい」
「?
そうですか、ではまた」
ハンクスに会釈をし、早く早くとテッドに手を引かれながら
は宿屋を目指した。
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2008.1.4