花弁が窓からの膝へと舞い落ちる。
綺麗だ。
ちゃんとそう思える。
奇跡を願う自由はある、先生はそう言った。
でも新しい人生を歩めるなら、願いを言葉にしないと決めた。
だから口に出して願わなかった。
ただ、心の内では絶えなく叫んでいた。
けど、やっぱり心では願い続けたんだろう。
「?」
「ん?なに?」
物思いから抜けたは振り返る。
ソファーの背もたれ越しに立ったレイヴンは口を開く。
「ありがとね」
呆気に取られた。
いつものおちゃらけではない、穏やかな笑み。
過去の苦味も、未来への希望も抱いた、生きた瞳で見つめられる。
間違いなく願っていた奇跡の証。
の顔に熱が集まった。
「なっ、どっ!?はぁ!?何よ突然!」
「いや、ちょーと言いたくなったのよ」
悪戯でも成功したかのように、レイヴンは少年のように笑った。
不覚にも見惚れてしまったは誤魔化すように怒鳴る。
「バカ!いきなりそんなこと言ってびっくりしたじゃない!」
「えぇっ!?俺様ってばそんなに不誠実!?」
「そうよバカ!自覚しなさいよ!」
「2回も言われた!」
顔を背けたに対してずーん、と沈むレイヴン。
辺りが静かになる。
肩越しにちらりと振り返れば、いまだにか盛大に肩を落とすレイヴンがうな垂れていた。
少し言い過ぎたか、とはレイヴンの裾を引いた。
「ん?」
「その・・・こっちも、ありがーー」
小さく呟いたの唇は塞がれ、軽い音と共に離れた。
「〜〜〜っ!」
「そんなに真っ赤じゃ、お客さんにからかわれるわよ」
楽し気な男の声。
誰の所為だ!
と、握った拳を振り下ろそうとした時だった。
「こんにちは!」
「邪魔するぜー、お二人さん」
玄関から入って来た客人にの拳はピタリと止まる。
そして何事も無かったようにくるりと振り返ったは客人であるカロルとユーリを出迎えた。
「い、いらっしゃい」
「わー!素敵な家だね!」
「ありがと、カロル。他のみんなは?」
「リタとエステルはジュディが連れて来てくれるってよ」
「そう、なら時間はかからないわね。
カロル、準備するの手伝ってもらえる?」
「任せて!」
カロルを連れ、は花見の準備を始める。
そんな二人を見送ったユーリは、拳の寸止めを食らったまま固まっているレイヴンに一瞥を投げた。
「おっさんよ」
「な、何かしら青年・・・」
素知らぬ顔をするレイヴンに、温い視線を返したユーリは続ける。
「じゃれるなら少しタイミング考えろよ」
「そ、そ、れもそうね・・・」
まるで口笛でも吹きそうなレイヴンに、ユーリは呆れたように肩を竦めた。
しばらくして、カロルの元気の良い声が響いた。
「よーし!エステル達が来る前に準備終わらせちゃおう!
ユーリ!レイヴンも手伝ってよ!」
「へいへーい」
「えー、おっさん十分働いたわよ!」
「手伝わないなら酒は無し」
「よーし!おっさんも元気に手伝っちゃうわよー!」
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2020.9.13